コラム Column

編み物YouTuber著作権裁判を担当した弁護士が解説


不動産投資家で、YouTuberの弁護士かとうです。私は弁護士や不動産賃貸業の傍ら、法律で困っている人を助けたいという思いでYouTubeで発信しています。おかげさまで、登録者1.4万人まで成長しました。

YouTube_弁護士かとう【交渉人】

YouTubeを通じ役立つ情報を発信し続けていると、YouTuberなどのインフルエンサーからも法律のご相談をいただくことが増えました。

今回は、YouTubeに対する違法な著作権侵害通報によって損害賠償が認められたという、日本で初めての画期的な裁判の顛末について、担当した弁護士かとうがご説明いたします。

きっかけはAさんからのSOSでした

2020年のこと、編み物系YouTuberのAさんから、

「YouTubeチャンネルがつぶされてしまいそうです。加藤先生助けてください」

とご連絡をいただいたのがきっかけでした。

Aさんは、YouTubeで長年編み物を編んでいる動画を投稿されているYouTuberです。楽しみながら動画を投稿していたのですが、その日は突然訪れます。

2020年2月、突然、同じ編み物系YouTuber Bさんから、

「Aさんの2本の動画が私の著作権を侵害している」

とYouTubeに通報されてしまったのです。

YouTubeは、著作権を侵害しているかどうかの判断はせず、通報があればひとまず動画を削除するという運用をしています(米国の法律によってそのような運用にせざるを得ない背景があります)。

その結果Aさんの2本の動画は、YouTubeからいきなり削除されてしまいました。

さらにYouTubeは、3度の著作権侵害通報を受けると、チャンネル自体がなくなってしまい、動画も全て削除されてしまうという仕様になっています。

そこで、慌てたAさんは、Bさんに対して、「何かの誤解ではないですか?」などと問い合わせましたが、Bさんは話し合いに応じてくれませんでした。

どうしていいのかわからず、困り果てたところ、YouTuberならYouTubeに関する裁判にも対応できるだろうとご相談いただいたのがキッカケでした。

私もYouTuberとして活動しているので、自分が愛情を込めて作った動画が一方的に消されてしまう悲しみは痛いほどにわかりました。ましてや一方的な言い分でYouTubeチャンネルが消されてしまうというのは、とても許されることではありません。

私はまずAさんの代理人となって、YouTubeに対して異議を申し立て、Aさんの動画の復元を試みましたが、Aさんの動画は復活しませんでした。

そこでAさんは仕方なく、「Bさんからの通報は理由がないので損害を賠償してください」と裁判を起こしました。2020年8月のことでした。

編み物YouTube著作権裁判の概要と地裁での判決

裁判の争点は、以下のような点でした。

  • そもそも編み物の編み方に著作権はあるのか?
  • 著作権がないことをBさんも理解していたのか?
  • Bさんが通報したことによってAさんのどのような権利が侵害されたのか?
  • 損害額はいくらなのか?

文字で書くと簡単なのですが、これを裁判所に認めさせるのは非常に困難でした。

裁判では法律と過去の裁判例をベースに双方の意見を聞き、証拠などに基づいて判決が下されます。

しかし、今回のAさんの裁判の場合、そもそも過去にYouTuberが動画を消されたことによる損害を争われた前例がありません。裁判例がない分野で、法律的な理屈を一から積み上げていく作業が必要となります。

特に、「YouTube上から動画やチャンネルが消されることで、どれくらいの精神的な苦痛を受けるのか?」をYouTubeを知らない裁判官にご理解いただくことがとても大変な作業でした。

その他、Bさんが意図してAさんに損害を与えたであろうことの証明や、YouTubeの動画が消されたことによる損害の評価など、裁判資料は膨大な量となりました。過去に裁判例がないため、一つ一つすべて立証する必要があったからです。

1年半にわたる裁判の末、一審の京都地方裁判所は、2021年12月に、BさんからYouTubeに対する通報について

「Bさんの注意義務違反の程度は著しく,少なくとも重過失があったと認めるのが相当である」とした上で、BさんからAさんに対して、合計7万4721円を支払うよう命じました。

こちらの7万4721円の内訳は、

 慰謝料 5万円

 動画が削除されてしまった結果、Aさんが得られたはずの広告料(逸失利益) 1万7929円

 弁護士費用 6792円

でした。(弁護士費用は、損害額の10%が通例となっているのでこの金額になっています)

金額は決して大きなものではないかもしれません。しかし、Aさんが大切に愛情を持って作った動画が通報によって消されてしまったことが不法行為となることが、日本で初めて認められた瞬間でした。Aさんにも自分のYouTubeチャンネルを守ってもらえる判決に本当に喜んでいただきました。私も弁護士をやっていてよかったと、改めて強く感じました。

この日本初の画期的は裁判は、新聞やTVなどでも大きく取り上げられました。

編み物ユーチューバーらに賠償命令 著作権侵害していない動画の削除要請で

動画投稿サイト「ユーチューブ」に公開した動画が著作権侵害との指摘を受けて削除され、精神的苦痛を負ったとして、富山県のユーチューバーの女性が、京都市東山区の女性ユーチューバーら2人に計118万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が21日、京都地裁であった。長谷部幸弥裁判長は女性の動画は著作権侵害に当たらず、削除によって精神的苦痛を負ったとして、被告側に約7万円の賠償を命じた。

京都新聞より引用

また、私のYouTube動画でも解説させていただいています。

編み物YouTube訴訟の高等裁判所への提訴と判決

残念ながら話はここで終わりませんでした。

この判決を不服としてBさんは、2022年1月に、大阪高等裁判所に控訴しました。

これに対してAさんも、「慰謝料が安すぎるので増額して欲しい」として、附帯控訴しました。

高等裁判所でも、Aさんの心理的な影響や損害の程度をより詳しく立証し、少しでもAさんの被害が認められるように尽力しました。

裁判の判決には長い時間がかかります。

控訴から10ヶ月の後の2022年10月、大阪高等裁判所は、

「Bさんによる通報には正当な理由がないので民法上の不法行為にあたる。

そこで損害賠償としてBさんは、Aさんに対して26万1514円を支払え。」

という判決を下しました。

こちらの26万1514円の内訳は、

慰謝料20万円

広告費用1万7929円

弁護士費用4万3585円

でした。 

一審判決では、Bさんによる通報について「少なくとも重過失」と認定されていたところ、大阪高等裁判所は、さらに一歩進めて、

「Bさんは、著作権侵害通知制度を利用して、競業者であると言える同種の編み物動画を投稿する者の動画を削除することで不当な圧力をかけようとしていたとさえ認められる。」とか、「(YouTubeの)著作権侵害通知制度を濫用したものということさえできる」などと判示しました。

慰謝料も一審判決の4倍の20万円となりました。

これはBさんが、Aさんに対して、「2度あることは3度ある、3度目は命取りです」などとAさんのチャンネル停止・動画の全削除ということをほのめかしたり、京都地方裁判所の判決が出た後にもインターネット上でAさんを誹謗中傷する投稿を続けていたりしていたことが考慮されたものです。

しかも、通常損害額の10%としか認められない弁護士費用についても、損害額の合計が21万余円に留まること、事件の内容や難易度等を考慮して、損害額の20%の弁護士費用が認定されています。

日本初のYouTuber対YouTuberという裁判は、以上のような結果となりました。

大阪高等裁判所は、著作権侵害通知をYouTubeに送信する際には、

①自身が著作権者であること

②通知の内容が正確であること

を確認しなければならない、としています。

そして①や②の点について、十分に検討することなくYouTubeに「著作権侵害通知」を送信すると、民法上の不法行為として損害賠償の対象となるとしています。

この基準は、YouTubeに限らず、TwitterやInstagramと言った他のSNSにも適用される可能性の高い基準と思われます。

いずれのSNSにおいても著作権侵害通報がなされると、対象となったツイートや投稿記事・動画は、SNSの運営事業者によって削除されるという強力な効果をもっているからです。

そのため、①や②について検討することなく著作権侵害通報をしてしまうと、損害賠償責任を負う可能性もありますので、事前に十分に検討してから通報しましょう。

公開された高裁の判決はこちらからご覧いただけます。

※この原稿を書いている時点(2022年10月25日時点)で判決が確定していませんので、もしかしたらBさんが最高裁判所に上告する可能性も0ではありません。

YouTubeでの著作権には注意しましょう

誰でも気軽に動画が投稿できるYouTubeは、とても便利な存在で情報を発信するのに最適なツールの一つです。

正当な理由がないのに著作権侵害をしたと通報することは絶対にやめましょう。

一方で、著作権を不当に侵害することも絶対にやってはいけません。

2022年、映画を短くまとめたファスト映画というジャンルが大流行しました。DVDなどから実際の映画を編集し、短くまとめて解説した動画が大流行しました。これはもちろん映画会社の著作権を侵害しています。

ファスト映画を見ることによって、映画やDVDの売り上げが下がったとして、東宝などの映像会社13社が2022年5月19日、投稿した男女3人を相手取り、計5億円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしました。

「映画をYouTubeに転載したくらい大したことない」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、著作権を守らないと莫大な損害賠償を請求される可能性もありますので気を付けましょう。

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