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不動産売買契約直前に買主か売主がドタキャン! その後に別業者で契約したら元の媒介業者に仲介手数料を払わなければならない?


不動産売買の過程で、仲介業者は売買契約締結までに内見案内や事業計画や融資付けなどの業務を行い、買主や売主と媒介契約を締結して仲介手数料を得ることで利益を得ます。

では、売買契約の直前に買主や売主が仲介業者と媒介契約を締結せずドタキャンし、その後、別の仲介業者と媒介契約を締結して同じ物件の売買契約が成立した場合や、売主(買主)と直接売買契約が成立した場合はどうなるのでしょうか?

キャンセルされた仲介業者は買主や売主に対し仲介手数料を請求できるのでしょうか?

当記事では現役の弁護士が

  • 不動産売買契約直前に媒介契約を締結しないドタキャンに問題はあるか
  • その後、別の仲介業者と媒介契約を締結して同じ物件を購入することに問題はあるか
  • 媒介契約を締結してもらえずキャンセルされた仲介業者は仲介手数料を請求できるのか

などについて詳しく解説いたします。

仲介手数料の支払いが認められた裁判例がある

不動産売買契約の直前に買主が仲介業者と締結予定だった媒介契約を締結せずドタキャンされた後、別の仲介業者と媒介契約を締結しその仲介業者を通して同じ物件を購入した場合において、媒介行為による売買契約の成立を妨害された不動産仲介業者が買主に対して仲介手数料の請求を行った事例があります。

結論から申し上げると、仲介手数料の請求は認められました

以下で詳しく解説します。

媒介業者の仲介手数料請求が認められた裁判例(東京地判令3.2.26)

事案の概要

2015年11月30日、不動産の買主であるY(被告)は、仲介業者X(原告)から東京都内の賃貸マンション(甲不動産)の紹介を受けました。

甲不動産の売主の売却希望価格は4億2000万円でしたが、Yは、4億円を購入希望価格としてXに対し購入申込書を提出しました。

その申込書には、YがXから紹介を受けた甲不動産をX提示の条件にて購入することを申し込むこと、Xに売主との交渉をお願いすること、売買契約成立の際には成約物件価格の3%+6万円の仲介手数料(4億2000万円であれば1266万円)及び消費税を申し受けること、などが記載されていました。申込書の提出の際、YはXに対し、仲介手数料を1080万円に減額してもらえないかとお願いしました。

同年12月2日、XはYに対し、売買価格を4億2000万円、媒介手数料を1080万円とする購入申込書を提示し、Yはこれに署名捺印しました。

同月7日、XはYに対し、契約場所、手付金、仲介手数料の半金として540万円、持参する物等、売買契約締結に関する案内が記載された案内文書を手渡しました。その際、売買契約の締結日は同月10日又は11日を予定していること、媒介契約は売買契約時に締結されることがYに伝えられました。

しかしその2日後、YはXに対し、甲不動産の購入を取りやめる旨を告げて、結局Xを仲介しての売買契約及び媒介契約を締結しませんでした。

ところが、Yはその2か月後である2016年2月にXを仲介せずに甲不動産を購入していたことが判明しました。XはYに対し説明を求めたもののYは回答しませんでした。

そこで、XはYに対し、媒介手数料1080万円の支払を求めてYを訴えました。

仲介手数料支払いの法的根拠

XとYとの間には媒介契約は成立していません。ではなぜXはYに対し1080万円の仲介手数料の支払を求めたのでしょうか。

媒介契約に基づく仲介手数料の支払義務は、①XとYとの間の媒介契約の成立、②Xの仲介行為の存在、③Xの仲介行為によりYと売主との間で売買契約が成立すること、の要件がそろったときに発生します。

ところで、民法130条1項には以下の定めがあります。

「条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる。」

Xは、Yが「③Xの仲介行為によりYと売主との間で売買契約が成立すること」という条件を故意に妨げたとして、民法130条1項により③の条件が成就した、つまりXの仲介行為によってYと売主との間で売買契約が成立したものとみなすことができると主張し、仲介手数料1080万円の支払を請求したのです。

これに対しYは、媒介契約は成立していないから仲介手数料を支払う必要は無いと反論しました。

判旨

裁判所は、XのYに対する仲介手数料1080万円の支払請求を認めました。

まず、①XとYとの間の媒介契約の成立については、Yが購入申込書をXに交付した時点で、仲介手数料を支払うことについての基本的な合意が成立したとしました。そして、仲介手数料1080万円については、Yが1080万円への減額を求めたこと、Xの案内文書に売買契約時に仲介手数料の半金である540万円を支払うことが記載されていたにもかかわらずYは特段異議を述べたなかったことから、仲介手数料を1080万円とする黙示の合意が成立したとしました。

次に、③Xの仲介行為によりYと売主との間で売買契約が成立したかどうかについては、Xの行った仲介による甲不動産の売買契約の成立をYが故意に妨げたとして、民法130条1項により③が成就したとしました。

媒介契約を締結しないこと自体は問題ない

仲介業者から不動産の紹介を受けたからといって、媒介契約を必ず締結しなければならないわけではありません。不動産の購入を諦めた場合には媒介契約を締結する必要はないのですから、仲介業者から仲介手数料を請求されることはありません

では、買主が仲介業者から不動産を紹介された後、その仲介業者を排除して別の仲介業者を介して売買契約を締結したり、売主と直接売買契約を締結した場合、上記裁判例のように仲介業者に仲介手数料を支払わなければならないのでしょうか。

この場合であっても、必ずしも仲介手数料を支払わなければならないわけではありません。民法130条1項は「故意にその条件を妨げた」場合に適用されるわけですから、「故意」にその条件を妨げたとはいえない事情があれば、仲介手数料を支払う必要はありません。例えば、仲介業者が仲介行為を適切に行わなかったり債務不履行があったりして仲介契約が解除された場合などは仲介業者を排除することに正当な理由がありますので、民法130条1項が適用されないといえます。

しかしながら、仲介業者が不動産を紹介した後、その不動産に関する調査報告書や事業計画書を作成して買主に提供したり、内見案内や融資付けを行ったり、売主との間で条件調整をした場合において、その後仲介業者を排除して売主と直接契約をした場合等は、その貢献度に応じて仲介手数料の支払義務が発生する場合があります

仲介手数料の支払請求が認められたポイント

今回取り上げた裁判例でXのYに対する仲介手数料の請求が認められたポイントは何だったのでしょうか。

まず裁判所は、XがYに甲不動産を紹介した後、関係者と売買契約成立に向けた調整を行い、YがXに購入申込書を交付したことを重視しました。

購入申込書を交付したことにより、YがXに媒介手数料を支払う基本的な合意が成立したとしました。仮に、お互いが提示する契約条件に乖離があって譲歩することができず購入申込書を交付せずに打ち切りとなったような場合には、媒介手数料を支払う基本的な合意はなかったとされる可能性が高いでしょう。

次に裁判所は、Yが仲介手数料を1080万円に減額するように求めたことと、Xが案内文書において売買契約時の仲介手数料半金を540万円とすることを記載したことについてYが特段異議を述べなかったことを重視しました。

これにより、XとYとの間で仲介手数料を1080万円とする合意があったとしました。仮に、Yが異議を述べたりしていた場合には、媒介手数料を1080万円とする合意はなかったとされた可能性があるでしょう。

最後に裁判所は、12月7日の時点で、売買契約の締結日が極めて近接した同月10日または11日となったこと、同月8日の時点で売買契約書と重要事項説明書の案文が完成していたことを重視しました。

これにより、YがXの仲介によって間もなく売買契約の成立に至ることを熟知しながらXを介した売買契約の成立を避けるためにXを故意に排除して売主と契約を成立させたとしました。

仮に、売買契約の締結日が決まっていなかったり、売買契約書の案文が全く出来上がっていなかった場合には、故意にXを排除したとまではいえないとされた可能性があります。

まとめ

以上のとおり、仲介業者に紹介された不動産の売買契約を締結しなかった後、別の仲介業者を介して売買契約した場合や、売主と直接売買契約を締結した場合に、仲介業者から仲介手数料を請求され、それが認められたという裁判例があります。

仲介業者との間でこのようなトラブルを起こさないための対策として、仲介業者から物件を紹介され、仲介業務に着手した後に、仲介業者を介さずに売主と直接売買契約を締結することは避けるべきでしょう。

また、複数の仲介業者から同一の不動産の紹介を受けている場合には、複数の仲介業者で並行して売買契約直前まで進めるのではなく、複数の仲介業者から紹介を受けており、取引をお断りする可能性があることを各仲介業者に伝えたうえで、具体的な話になってからは売買契約する仲介業者を絞って進めたほうがいいでしょう。

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