コラム Column
弁護士(東京弁護士会)。慶應義塾大学法科大学院修了。
不動産トラブルに関する業務、家族信託・遺言作成業務などをはじめとする多岐の分野に携わる。
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【相談】筆界特定制度のメリットとデメリットを教えてください。
私は、将来的に、現在所有する土地を売却することを考えていますが、隣地との境界が明確になっていません。
隣地の所有者とは以前から折合いが悪く、境界確定の立会い等に協力してもらえる見込みもありません。
しかし、裁判にすることは避けたいと考えています。
裁判によらない筆界特定制度という方法があると聞きましたが、その手続きの流れとメリット・デメリットを教えてください。
【回答】裁判所における手続き(境界確定訴訟)と比較して、手間や費用負担が少なく済むというメリットがあります。ただし、将来、境界確定訴訟を提起され、筆界特定の結果を争われるリスクがあるというデメリットがあります。
筆界特定制度は、裁判所における手続き(境界確定訴訟と呼ばれます。)と比較して、費用負担が少なく、また、迅速に境界を確定できるというメリットがあります。
ただし、筆界特定の結果に当事者が不満を持った場合、当事者は裁判所において境界確定訴訟を提起して、筆界特定の結果を争うことができます。
筆界特定が境界確定訴訟の判決と抵触する場合は、その抵触する範囲において、筆界特定はその効力を失うことになります。
そのため、将来的に筆界特定の結果が争われるリスクが残るというデメリットがあります。
筆界特定手続きの流れは、解説においてご紹介します。
なお隣地所有者が行方不明の場合については「境界確定ができない!隣地所有者が行方不明のときどうする?」をご参考ください。
筆界特定制度を利用する場合のメリット・デメリットは、以下のとおりです。
裁判所よりも法務局の方が筆界に関する資料を調査収集する能力があり、迅速に手続きが進められます。
裁判所における手続き(境界確定訴訟)は、数年を要するとも言われるところ、上述のとおり、東京法務局における筆界特定手続きの標準処理期間は9か月とされています。
また、裁判と比べて、手間だけではなく、費用負担も少なく済みます。
筆界特定の結果に当事者が不満を持つ場合、土地所有者は、裁判所に境界確定訴訟を提起することができます。
そして、筆界特定が境界確定訴訟の判決と抵触する場合は、その抵触する範囲において、筆界特定はその効力を失うことになります。
将来的に筆界特定の結果が争われるリスクが残るというデメリットがあります。
なお、筆界特定の結果は、所有権界をめぐる争いとは直接の関係を持ちません。
境界には、公法上の境界(以下、「筆界」といいます。)と所有権の範囲を決めるいわゆる私法上の境界(以下、「所有権界」といいます。)があります。
筆界は、もともと、明治初期の地租改正の過程で人為的に区画された土地の境界で、公的な意味を持ちます。
所有権界とは、隣り合う土地を有する両所有者の土地の所有権の境界の意味で使われ、民法に由来する私的関係から生じます。
筆界と所有権界は、本来一致すべきものですが、登記手続きを経由しないで売買や贈与などの取引を行うことにより、それらにズレが生じることがあります。
なお、筆界は、当時者の合意によって決めることができず、裁判上の和解や調停においても決めることができません。
他方、所有権界は、必ずしも訴訟手続き(所有権確認訴訟と呼ばれます。)によることなく、当事者の合意により決めることができるとされています。
当事者間で和解書を作成する等して、所有権界の所在を確認することが可能です。
筆界に関する紛争の解決は、境界確定の訴えによって行われてきました。
境界確定の訴えは、対象不動産を管轄する裁判所へ提起します。
しかし、裁判では時間や費用がかかりすぎるなどの課題があったところ、かかる課題を解決するため、平成18年に始まったのが、筆界特定制度と呼ばれる制度です。
筆界特定制度は、裁判所ではなく、法務局で行う手続きです。
裁判のように原告と被告が争う形式を取らず、筆界について専門的な知識を持つ筆界調査委員が、法務局の非常勤職員として筆界に関する調査をし、意見書を作成します。
この意見を踏まえ、法務局の筆界特定登記官が正しいと認識する筆界を特定します。
次項において、簡単に、筆界特定手続きの流れをご説明いたします。
土地の所有権登記名義人等が、対象の土地を管轄する法務局または地方法務局などに、申請書を提出して、申請を行います。
筆界特定の申請がなされた旨が公告されるとともに、関係人(筆界で接する隣地所有者)に対して通知されます。
申請人・関係人は意見・資料の提出をすることができます。
法務局または地方法務局の長から指定された筆界調査委員が必要な調査を行います。
筆界調査委員は、対象土地または関係土地等の実地調査を行い、申請人・関係人などから知っている事実を聴取したり、資料の提出を求めるなどします。
申請人が測量費用の概算額を予納した後、筆界調査委員による調査の結果を踏まえ、対象土地の測量が行われます。
筆界特定を行う筆界特定登記官は、申請人・関係人に、意見を述べたり、資料を提出する機会を与えなければなりません。
意見聴取等の期日には、筆界調査委員も立会います。
筆界調査委員の意見を踏まえ、地図等の内容や様々な状況・事情を総合的に考慮して、筆界特定登記官が対象土地の筆界を特定します。
申請人に筆界特定の内容が通知され、筆界特定をした旨が公告され、関係人にも通知されます。
筆界特定手続きの流れは、上記のとおりです。
申請から筆界特定完了までに要する期間については、関係者の数や事案の複雑性・困難性などの事情に左右されますが、東京法務局における標準処理期間は「9か月」とされています。
筆界特定制度の利用に要する費用については、申請手数料(※1)や対象土地の測量費用(※2)などがあります。
※1 申請人が申請手数料として納付する額は、固定資産課税台帳に登録された土地の価格に基づいて算出します。以下の東京法務局のホームページにおいて、申請手数料のシミュレーションを行うことができますので、ご参照ください。
▶東京法務局 Q6 東京法務局では,筆界特定の結果が出るまで,どのくらいの期間がかかりますか。
※2 測量費用は、対象土地の形状などによりますが、通常、数十万円を要します。
筆界や所有権界が確定していないと、将来、隣地とトラブルが生じることが予想されるため、対象土地の購入希望者(買主)が不安を抱き、売却がスムーズにいかなくなるというリスクが生じえます。
場合によっては、売却代金を減額する選択肢を余儀なくされることも考えられます。
ご事情や必要性を鑑みて適切な手段を選択して、境界を確定させておくことが安心です。
もし境界に関連したトラブルなどに遭ってしまった場合は、弁護士などの専門家に相談することをオススメいたします。
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