コラム Column

不動産分野における定型約款


【相談】改正民法で定められる定型約款とはどのようなものですか。

民法改正で規定される定型約款とはどのようなものなのか教えてください。

また、不動産分野への影響はありますでしょうか。

【回答】定型取引において、契約内容とすることを目的に特定の者が準備した条項の総体です。

定型約款とは、定型取引において、契約の内容とすることを目的として特定の者により準備された条項の総体のことです。

現時点で、不動産分野で用いられている約款のうち、定型約款にあたるものは、保険約款等に限られると思われます。

そのため、当面は、不動産分野に大きな影響はないものと予想されます。

※民法の一部を改正する法律(債権法改正)は、2020年(令和2年)4月1日に施行されます。本稿で、「民法改正」や「改正民法」という場合には、これを指します。

詳細は、法務省HP(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_001070000.html)参照。

定型約款の定義は民法548条の2第1項で定められている

約款は、定型的であるがために、各条項の内容につき、きちんと確認がされないままに安易に締結されてしまうことが多いとされてきました。

そのため、内容を十分に把握できていないゆえに、約款を提示された側の当事者の利益が一方的に害されるケースが散見されており、対策の必要性がうたわれていました。

他方で、現代社会において、定型約款は、様々な取引において利用され、大量の取引を安定的・合理的・効率的に行うため重要な役割を有すると考えられていたところです。

これらの点を踏まえ、改正民法では、従来の民法には存在しなかった定型約款に関する条項を新たに規定することとなりました。

定型約款の定義は、改正民法548条の2第1において定められています。

同条によれば、定型約款とは、定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。)において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体のことをいいます。

運送約款や保険約款、銀行約款等が定型約款にあたるとされています。

このように、定型約款は日常生活の様々な場面で登場するものです。

なお、改正民法548条の2第1は、定型約款の締結を行った場合には個別の条項についても合意したとみなすとしています。

これは、取引の安定性や合理化・効率化を図るため、細部にわたって契約を吟味しなかった場合でも、各条項について、契約当事者間の合意があったものとするものです。

もっとも、同条2項は、社会通念上、相手方の利益を一方的に害する不当条項については合意をしなかったものとみなすとしており、多くの条項の中に埋もれていたために見落としていた不利な条項によって不利益を被ることを防止しています。

不動産分野における約款

現在、不動産分野においては、少なくない数の約款と称される取決めが見受けられます。

例えば、

  • 住宅建築工事請負契約約款
  • 住宅リフォーム工事請負契約約款
  • 住宅瑕疵担保保険契約約款

等があげられます。

しかし、約款という名称が付されているからといって必ずしも「定型約款」にあたるとは限りません

名称にかかわらず、上記の定義にあてはまるものが「定型約款」として扱われます。

すなわち、「定型約款」にあたるというためには、①「ある特定の者が不特定多数のものを相手方として行う取引」であり、②「当該取引の内容の全部又は一部が画一的であることが両当事者にとって合理的」といえなければなりません。

①については、例えば、住宅建築工事請負契約や住宅リフォーム工事請負契約は、注文者の希望を重視して行うべき性質の取引であり、注文者の個性に着目していますので、不特定多数のものを相手方として行っているとはいえず、定型約款にはあたらない場合がほとんどでしょう。

②については、単に交渉力の差があるために契約内容が画一的である場合には、交渉力が劣る方にとって契約内容が合理的とはいえないことになります。

例えば、住宅建築工事請負契約や住宅リフォーム工事請負契約において約款が使用された場合であっても、交渉力の差があるために注文者や下請業者が請負人や元受業者に約款に基づく契約を断ることができないことがしばしばあります。この場合、注文者や下請業者にとっては約款の内容は合理的といえず、定型約款には該当しないことになるでしょう

これらのことを踏まえますと、現時点で、不動産分野で用いられている約款のうち、定型約款にあたるものは、保険約款等に限られると思われます。

しかし、この度の民法改正を受けて、契約形態のバリエーションが充実し、インターネット上での定型的な請負契約等が締結されるようになった場合、「定型約款」にあたるものが出てくる可能性も十分考えられるところです。

【民法548条の4第1項】定型約款に関する規定

簡潔ではありますが、この機会に「定型約款」に関して定められた規律についてもご紹介いたします。

まず、契約者に約款内容を知る機会を与えるため、次のような規定が設けられています。

定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。

また、定型約款の締結時のみならず、変更時においても、公平な取引となるようにするため、一方的な変更をできないようにする次のような規定が設けられています。

改正民法548条の4第1項

定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意することなく契約の内容を変更することができる。

一 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。

二 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。

「定型約款」を上手に利用できれば、取引を合理化・効率化に繋がります

上述のように、今後、不動産実務において「定型約款」にあたるようなものが用いられるかは、今後の実務に委ねられている部分がございますので、約款を作成する側の立場にある方は、「定型約款」にあたるものとするかをきちんと意識することが大切になるでしょう。

「定型約款」を上手に利用すれば、取引の合理化・効率化により、利益の向上が期待できます。

他方、約款を提示される側の立場にある方は、「定型約款」にあたるか否かにかかわらず、その内容を丁寧に検討するようにしましょう。

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