コラム Column
弁護士(東京弁護士会、72期)。
慶應義塾大学法学部・同大学法務研究科卒業。
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【相談】民法改正で定められる「契約不適合」と従来の「瑕疵」の違いを教えてください。
民法改正により、これまで定められていた「瑕疵」が「契約不適合」という概念に変わると聞きました。
不動産関係の問題と絡めて解説して欲しいです。
【回答】「瑕疵」と「契約不適合」とで意味は異なりません。
ご質問のとおり、従来の「瑕疵」は、民法改正により「契約不適合」という概念に変更されました。
基本的に「瑕疵」と「契約不適合」とで意味は異ならないとされています。
なお、本稿では、「契約不適合」という言葉を用いていますが、改正民法上は、「契約の内容に適合しないもの」と表現されています。
※本稿では、紙幅の都合上「瑕疵」及び「契約不適合」の概念に絞ってご説明差し上げます。
※従来要件とされていた「隠れた」ものであることが「契約不適合」では削除されていること、救済措置(追完請求や代金減額請求)が増えたこと、解除のハードルが下がったこと等の変更点もございますのでご注意ください。
民法改正の中間試案(※)においては、「契約不適合」についての規律につき、「売主が買主に引き渡すべき目的物は、種類、品質及び数量に関して、当該売買契約の趣旨に適合するものでなければならないものとする。」とされていました。
※中間試案とは、改正前の条文の原案のことです。
この中間試案の補足説明では、「契約の趣旨に適合」しないとは、旧民法570条の「瑕疵」の実質的な判断基準を直接に法文上に表現することを目的としたとされています。
実際の改正民法においては、「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない」とされ、中間試案段階の文言のうち「趣旨」という部分が「内容」へと変更されました。
これは、「趣旨」という言葉の意義が多岐にわたることから形式面を変更したにすぎず、上記の中間試案段階における改正の目的を変更するものではありません。
以上を踏まえますと、改正民法の「契約不適合」は、わかりやすさの観点から、旧民法570条の「瑕疵」の実質的な判断基準を直接に法文上に表現したものであり、「瑕疵」と「契約不適合」とは同じ内容を意味するものということができます。
なお、「契約不適合」については、改正民法562条以下で定められています。
繰り返しになりますが、「瑕疵」と「契約不適合」とは、同じ内容を意味するものです。
そして、「瑕疵」とは、取引上通常有すべき品質や性能を欠く場合又は契約上予定された性状を欠く場合をいうとされてきました。
そのため、「契約不適合」も、取引上通常有すべき品質や性能を欠く場合又は契約上予定された性状を欠く場合をいうといえます。
不動産関係の問題において、「契約不適合」となるか否かを判断するにあたっては、以下のような資料や規定、基準を参照することになるでしょう。
当コラム「契約不適合に当たるか否かの判断基準」でも詳しく解説されていますので是非ご参考ください。
※従来の議論を参照するため、「瑕疵」という表現が度々登場しますが、「契約不適合」と読み替えて頂いても問題ございません。
不動産が売買契約や請負契約で定められた内容のとおりかどうかを確認するために、契約書の定めを確認することは大前提となります。
設計図(設計図書・仕様書)は、契約内容を裏付けるものとなり得ます。
この点について、最高裁平成15年10月10日判決(判タ1138号74頁)が参考になります。
最高裁は、建物建築工事の請負契約において、耐震性の面で安全性の高い建物にするため、主柱につき太い鉄骨を使用することにつき特約が交わされ、これが契約の重要な内容になっていたことを設計図等から認定した上で、それにもかかわらず、請負業者が、注文主に無断で、上記特約に反し、特約どおりの太さの鉄骨を使用しなかったため、構造計算上、居住用建物としての安全性に問題のないものであったとしても、当該主柱の工事には「瑕疵」があると判断しました。
なお、請負契約の場合には工事代金見積書や施工図が交付されることがあり、これらも設計図と合わせて契約内容を特定するのに参考になることがあります。
建築基準関係規定とは、建築基準法・施行令・施行規則、旧建設省や国土交通省の告示のほか、都市計画法、消防法、宅地造成等規制法等の法令をいいます(建築基準法6条1項、建築基準法施行令9条)。
これらは建築確認審査の対象となっているため(建築基準法6条1項、4項)、建物について要求される最低基準を定めたものといえます。
注文者と請負人のいずれも、建物について要求される最低基準を下回るような建築(違法建築)を望まないのが通常です。そのため、特別の事情がない限り、最低基準に満たない契約内容は存在しないこととなり、建築基準関係規定に違反する場合には、契約不適合となるでしょう。
住宅の品質確保等に関する法律(品確法)では、設計又は建設された住宅につき、日本住宅性能表示基準に基づいて住宅性能評価書を交付する住宅性能表示制度が設けられています。
住宅性能評価書が契約時に交付された場合には、売主や請負人が契約書において反対する旨の意思表示をしない限り、その表示された性能の住宅の完成、引渡しを目的とする契約を締結したものとみなされます(住宅の品質確保等に関する法律6条1項、3項)。
そのため、住宅性能評価書がある場合には、その記載内容が契約内容として扱われることになります。
権威的な学会・協会が定める技術基準が契約不適合の判断基準に用いられることもあります。
例えば、日本建築学会が作成した技術基準を「瑕疵」の判断材料とした裁判例として、大阪地裁昭和57年5月27日判決(判タ477号154頁)、大阪地裁昭和62年2月18日判決(判タ646号165頁)があります。
旧住宅金融公庫(現住宅金融支援機構)は、自ら定めた建築基準法よりも厳しい基準に合格した住宅についてのみ融資を行っていたようです。
この旧住宅金融公庫融資基準にしたがう旨の合意がある場合には、旧住宅金融公庫融資基準にしたがうことが契約内容になっているといえます。
また、旧住宅金融公庫融資の対象となっていない建物についても、旧住宅金融公庫融資基準が一種の技術的基準として契約不適合の有無の判断基準となる可能性があります。この点につき、判断基準とすることを肯定した裁判例として、神戸地裁平成9年8月26日判決(欠陥住宅判例1集40頁)、否定した例として、神戸地裁昭和63年5月30日判決(判時1297号109頁)があります。
住宅の品質確保等に関する法律74条は、住宅紛争処理の参考となるべき技術的基準を定めています。例えば、住宅の種類ごとに、建物の勾配や傾斜の基準が定められていたりします。
この技術的基準は、指定住宅紛争処理機関による紛争処理を迅速・適正に行うために設けられたガイドラインにとどまるため、この基準に基づいて法律上の瑕疵が推定されるとまではいえないと考えられていますが、契約不適合の有無を判断する一要素とはなり得るでしょう。
心理的瑕疵とは、自殺事件の発生など目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景など客観的な事情に属しない住み心地のよさを欠く事由、心理的に抵抗を感ずる事由のうち、通常一般人において右事由があれば住み心地のよさを欠くと感ずることに合理性があると判断される程度に至ったものをいいます(大阪高裁昭和37年6月21日(判時309号15頁)参照)。
心理的瑕疵があれば、「契約不適合」があると認められるでしょう。
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