コラム Column

賃借人が自殺した場合に損害賠償を請求できるか?裁判例を弁護士が解説


【相談】アパートの借主が自殺した場合、法的にどのような対応ができますか。

アパートのオーナーをしています。賃借人が精神的に病んでいるようで、自傷行為により自殺未遂となったことが何度かあります。仮に自殺してしまった場合、事故物件となりますが、その際に法的にどのような対応ができるのでしょうか。

【回答】借主の相続人等に得られなくなった賃料分の損害賠償請求をすることができるでしょう。

なお賃貸借契約や退去費用について知りたい方は、当コラム「賃借人(入居者)が死亡した場合の賃貸借契約や退去費用はどうなるか?弁護士が解説」をご参考ください。

賃借人が自殺した場合は損害賠償を請求できる

賃貸物件内での自殺は、特別な事情がない限り、賃借人の善管注意義務違反があるとして債務不履行に基づく損害賠償請求をすることができるでしょう。

損害賠償の金額については、人の入れ替わりがある物件ですと、自殺があってから1年間は賃料なし、その後2年間(自殺があってから1年目以降3年目まで)は50%の賃料しか受け取ることができないということを前提として算定されるケースが多いようです。

賃借人の自殺で注意義務違反により損害賠償が認められた裁判の判例

自殺につき注意義務違反を肯定した次の裁判例が参考になります。

東京地裁平成19年8月10日(平成19年(ワ)第4855号)世田谷単身者向けワンルーム203号室賃借人自殺事件

裁判の概要

賃貸人が賃借人に対し、賃料月6万円で本件貸室について賃貸借契約を締結していたところ、賃借人が本件貸室内で自殺したため、本件貸室や本件建物内の他の部屋について賃料を減額して賃貸しなければならないことになるとして、賃貸人が賃借人の相続人である母及び連帯保証人に対して債務不履行に基づく損害賠償請求等をしました。

判決の要旨

東京地裁は、まず、賃貸借契約における賃借人は、賃貸目的物の引渡しを受けてからこれを返還するまでの間、賃貸目的物を善良な管理者と同様の注意義務をもって使用収益する義務がある(民法400条)と一般論を述べました。

そして、賃借人の善管注意義務の対象には、賃貸目的物を物理的に損傷しないようにすることが含まれることはもちろんのこと、賃借人が賃貸目的物内において自殺をすれば、これにより心理的な嫌悪感が生じ、一定期間、賃貸に供することができなくなり、賃貸できたとしても相当賃料での賃貸ができなくなることは、常識的に考えて明らかであり、かつ、賃借人に賃貸目的物内で自殺を品用に求めることが過重(※)な負担を強いるものとも考えられないから、賃貸目的物で自殺しないようにすることも賃借人の善管注意義務の対象に含まれるというべきであるとして、善管注意義務違反があるとしました。

※ 判決では「加重」と表記されていますが、文意からして「過重」という表記が適切であるため、筆者の判断で表記を変えております。

この裁判例の他に、東京地裁平成27年9月28日判決(平成26年(ワ)第6764号)でも、自殺につき注意義務違反が肯定されています。

このように、賃借している建物内で自殺がなされると、心理的な嫌悪感により財産的価値が損われるので、賃借人には賃貸目的物内で自殺しないようにすべき善管注意義務があるとされています。「事故物件には住めない」という一般的な感覚に即した判断といえるでしょう。

なお、注意義務違反を否定した裁判例(東京地裁平成16年11月10日判決(平成16年(ワ)第10822号))もございますが、取り壊し予定の建物内での自殺という特殊な事情に着目して判断したもので、一般的に賃借人に賃貸目的物内で自殺しないようにすべき善管注意義務がないとしたものではないと評されているところです。

自殺による損害賠償額の算出方法

損害額については、

「自殺事故による嫌悪感も、もともと時の経過により希釈する類のものであると考えられることに加え、一般的に、自殺事故の後に新たな賃借人が居住をすれば、当該賃借人が極短期間で退去したといった特段の事情がない限り、新たな居住者である当該賃借人が当該物件で一定期間生活すること自体により、その前の賃借人が自殺したという心理的な嫌悪感の影響もかなりの程度薄れるものと考えられる」こと(上記平成19年判決)や

「賃料額を低額にせざるを得ないのは、建物内での自殺という事情について通常人が抱く心理的嫌悪感に起因するものであるから、心理的嫌悪感は、時間の経過とともに自ずと減少し、やがて消滅するものである」こと(上記平成27年判決)

などを踏まえ、賃料を減額しなければならない期間を検討して算定がなされています。

そして、これらの判決では、自殺があってから1年間は賃料なし、その後2年間(自殺があってから1年目以降3年目まで)は50%の賃料しか受け取ることができないということを前提として損害賠償額を算定しています。

賃借人の自殺による損害賠償請求のまとめ

以上のように、賃貸物件内での自殺は、特別な事情がない限り、賃借人の善管注意義務違反にあたるとして債務不履行に基づく損害賠償請求をすることができるでしょう。

しかし、賃借人自身が自殺した場合に、損害賠償請求をする相手方としては、賃借人の相続人が考えられますが、そもそも賃借人に相続人がいない場合や相続人がいても相続放棄された場合、損害賠償請求により金銭的なカバーをすることはできなくなってしまいます。

そのため、賃貸人としては、賃貸借契約締結時に連帯保証人をつけたり、損害保険契約を締結しておくなど事前の対策を講じておくことが重要となります。

また、実際に自殺がなされてしまった場合には、その部屋をその後に賃貸する際に自殺の事実をきちんと賃借人に説明することがトラブル防止に繋がります。上記のように自殺が賃料に影響を与える期間が3年程であることを踏まえると、少し余裕を持たせて5年程は、このような説明をするのが穏当でしょう。

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