コラム Column

ローン条項に基づく売買契約の解約


【相談】住宅ローンが組めなくなってしまいました。売買契約の解除はできますか。

新築の住宅について売買契約を締結した買主です。当初予定していた住宅ローンが組めなくなってしまったのですが、売買契約を解除することはできますでしょうか。

【回答】ローン条項がある場合には、原則として売買契約の解除ができます。

結論

売買契約にローン条項が定められているかご確認ください。

ローン条項がある場合には、これに基づく売買契約の解約ができます

ただし、ローンを組めなかった理由が、ローン成立に向けた誠実努力義務を買主が怠ったことにある場合には、ローン条項に基づく売買契約の解約が認められない可能性があります

※「解除」と「解約」について

解除と解約の定義等については、法律上議論があるところで、統一的な使い方が確立されていないのが現状です。その影響もあり、本稿において、いずれの用語も登場しますが、「契約の効力を失わせるもの」という同じ意味の言葉としてご覧いただければ問題ございません。

ローン条項とは

個人が住宅を購入するにあたっては、その金額の大きさから、ローンを組んで、銀行をはじめとする金融機関から売買代金の一部を借り入れることが非常に多いです。

しかし、売買契約後に、買主がローンを組めず、借り入れができなくなった場合、買主は売買代金を支払えず、債務不履行となってしまうでしょう。そして、売買契約にあたり手付金を交付していた場合には、手付金が没収されてしまうおそれもあります(民法557条1項)。

そこで、買主を保護するために、ローン条項といって、ローンを組むことができなかった場合には、売買契約の効力が売買契約締結時まで遡って失われるとする特約が設けられることがあります。

ローン条項には、以下の2種類があるとされています。

解除条件型:一定の期日までにローンが成立しなかった場合に、当然に売買契約の効力が失われるとするもの

解除権留保型:一定の期日までにローンが成立しなかった場合に、買主が売主に対し売買契約の解除の意思表示を行えば、売買契約の効力が失われるとするもの

これらは、買主の意思表示が必要か否かという点で違いがあるものの、売買契約の効力を失わせるという点では同じですので、いずれであってもご質問者様のご希望に沿うような解決を図れる条項といえるでしょう。

ローン条項の適用

ローン条項は、ご質問者様のようなお悩みを抱える方にとっては、有用な特約であるといえますが、ローンが成立しなかった場合に必ず適用が認められるわけではないことには注意が必要です。

この点につき、ローン条項に基づく解約につき判断がなされた裁判例が参考になります。

まずは、ローン条項に基づく解約が否定された裁判例を2件紹介いたします。

東京地裁平成26年4月18日判決(平成25年(ワ)第13171号、平成25年(ワ)第20349号)

<事案の概要>

被告との間で、被告から不動産を買い受ける旨の売買契約を締結し、手付金を支払った原告らが、ローン条項に基づき売買契約を解除したとして、被告に対し、手付金の返還を求め(本訴)、被告が、残代金を支払わなかった原告らの債務不履行により売買契約を解除したと主張して、原告らに対し、約定の違約金の支払を求めた(反訴)事案です。

<判決の要旨>

東京地裁は、買主の融資(ローン)の申込みが、金融機関から示されていた融資条件に沿ったものでなかったため、ローン条項に基づく売買契約解除の要件を満たしていないと判断しました。

東京地裁平成10年5月28日判決(平成9年(ワ)第5384号)

<事案の概要>

原告とその妹が、被告と土地及び建物の売買契約を締結したが、売買代金の支払のために予定していた融資が実行されなかったとして、ローン条項に基づき、売買契約を解除して手付金の返還を求めた事案です。

<判決の要旨>

東京地裁は、原告の妹は共同買受人でありながら、原告の連帯保証人になることを拒むのみならず、共同買受人となることにまで難色を示し、ローンを不奏功としているから、信義則上の義務違反があり、原告も当初申告していなかった高血圧症を自主的に申告して団体信用生命保険の審査を否決されていることもあわせて考えれば、ローンが実行されなかった原因は、原告側の責めに帰すべき事由によるといわざるを得ず、ローン条項に基づく解除は認められないと判断しました。

次に、ローン条項に基づく解約が肯定された裁判例を2件紹介いたします。

東京地裁平成16年7月30日判決(平成14年(ワ)第17672号、平成15年(ワ)第23514号)

<事案の概要>

不動産の買主である原告らが、売主である被告に対し、融資につき金融機関からの承認が得られなかった場合には本件売買契約が解除となる旨の本件ローン条項に基づき、被告らに交付した手付金の返還を求めたのに対し、被告らが、解除は無効であるとして、債務不履行による損害賠償を求める反訴を提起した事案です。

<判決の要旨>

東京地裁は、売買契約のローン条項の融資申込先に記載されている「都市銀行他」とは、都市銀行及びこれに類する金融機関を意味するとし、都市銀行に比べ金利の高いノンバンクは含まれないと考え、買主がノンバンクに融資申込をしながら必要書類の提出をせず、融資申込の撤回をした場合でも、ローン条項に違反しないと判断しました。

東京地裁平成8年8月23日判決(平成8年(ワ)第2901号、平成7年(ワ)第22797号)

<事案の概要>

原告が、銀行のローンの貸付を受けられなかったことを理由として、売買契約のローン利用特約条項に基づき売買契約を解除したとして、それまでに原告から被告に支払っていた手付金及び中間金合計430万円の返還とその遅延損害金の支払いを求めた事案です。

<判決の要旨>

東京地裁は、買主のローンの申込みが、買主の人的事情ではなく、売買物件が短期間に何件もの会社及び個人に正当な売買という形をとらずに所有権移転が行われている等の物件の事情を理由に否認されたものであることを理由にローン条項に基づく解約を認めました。

これらの裁判例を踏まえますと、買主は、ローン成立に向けた誠実努力義務を負っており、この義務に違反した結果、ローンが成立しなかった場合には、ローン条項に基づく解約が認められない可能性があるといえます。

まとめ

以上のように、買主がローン成立に向けた誠実努力義務に違反しているという特別の事情がない限りは、ローン条項に基づき売買契約の解約は認められることになります。

ローン条項は、買主保護のための特約ですので、ローンが組めなかった場合には躊躇なく利用しましょう。

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