コラム Column
弁護士(第二東京弁護士会)。
2017年に弁護士法人Martial Artsに入所し、不動産トラブルや賃貸借契約書に関する業務をはじめ、多分野にわたる法律業務に従事している。
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【相談】現状有姿特約がある売買では、瑕疵担保責任の追及はできないのでしょうか。
中古の住宅を購入したのですが、引き渡しを受けてから、水道管から水が漏れ土台部分の木材が腐食していることが判明しました。
業者に調べてもらうと、この腐食を放置すると建物の構造上危険であるそうです。すぐ売主に連絡し対応を求めましたが、「現状有姿で引き渡す」との特約があるため、対応はしないと回答されてしまいました。
明示的に瑕疵担保責任を免除する特約まではないのですが、現状有姿特約だけで瑕疵担保責任を追及することもできなくなるのでしょうか。
【回答】現状有姿特約があるというのみで瑕疵担保責任の追及ができなくなるわけではありません。
中古物件の売買等では、「現状有姿での引き渡す」旨の特約が定められていることもあります。
もっとも、現状有姿特約があるからといって、それだけで瑕疵担保責任が免除されるわけではありません。
瑕疵担保責任とは、売買目的物に「隠れた瑕疵」がある場合に売主がその責任を負うという制度です(改正前民法570条、566条)。
ここで、「瑕疵」とは、売買目的物が通常有している性能・性質を欠くことをいい、「隠れた」瑕疵とは、通常の注意をしても発見できない瑕疵のことをいいます。
本件における住宅土台部分の腐食は建物の構造上危険なものであるところ、居住するための住宅が通常備えている安全性を欠いているといえますし、土台部分の腐食はすぐに見えるものでもないので、隠れた瑕疵にあたると考えられます。
売買目的物に隠れた瑕疵がある場合、売主に対して損害賠償請求をすることができ、また、隠れた瑕疵によって契約をした目的を達することができない場合は契約の解除をすることができます。
なお、2020年4月1日に施行される改正民法では、瑕疵担保責任に代わって契約不適合責任が規定されました。改正民法では、「隠れた瑕疵」の有無ではなく、売買目的物が「契約の内容に適合しない場合」に、契約不適合責任の追及として、追完請求や代金減額請求、損害賠償請求や契約の解除をすることができます。
売買契約の締結が改正民法施行後であれば改正民法が適用され、契約不適合責任を追及することになります。
本件についてみると、住宅の売買において、当該物件に人が居住するための安全性を備えていることは売主・買主とも当然の前提としているものと考えられますので、売買物件が居住するための安全性を備えていることは契約の内容であるといえます。したがって、改正民法のもとでも、本件は「契約の内容に適合しない場合」に該当し、契約不適合責任を追及できると考えられます。
中古物件の売買などでは、現状有姿で物件を引き渡す旨の特約や、売主の瑕疵担保責任を免除する旨の免除の特約はいずれも多数見受けられます。
瑕疵担保責任免除特約があれば、売主に瑕疵担保責任を追及することができないのは明らかです。
もっとも、瑕疵担保責任免除特約がない場合でも、売主が、現状有姿特約をもって「物件を現状で引き渡したのだからその時点でもう自分に責任はない。瑕疵担保責任も免除されている。」と主張するケースがあります。
では、現状有姿特約があれば瑕疵担保責任免除まで合意しているといえるのでしょうか。
この現状有姿特約について、東京地判平成28年1月20日(平成26年(ワ)第8446号)は、「一般に現状有姿売買とは、契約後引渡しまでに目的物の状況に変動があったとしても、売主は引渡し時の状況のまま引き渡す債務を負担しているにすぎないという売買であると解される」と判示しています。つまり、現状有姿特約とは、物件の引渡債務の内容として、目的物に隠れた瑕疵があってもそのまま引き渡せば売買契約に基づく引渡債務を履行したことにしますよ、という内容の合意に過ぎません。隠れた瑕疵について、責任を免除する合意までは認定できないのです。
これは、改正民法での契約不適合責任でも同様です。
それゆえ、瑕疵担保責任(又は契約不適合責任)を免除するのであれば、現状有姿特約だけでは足りず、それとは別途瑕疵担保責任(又は契約不適合責任)を免除する旨の特約が必要です。
本件でも同様に、現状有姿で引き渡す旨の特約があるからと言って、それのみで売主の担保責任が免除されるというわけではありません。つまり、土台部分の腐食が「隠れた瑕疵」にあたるとして売主に対する瑕疵担保責任を追及し、又は、契約締結日が改正民法施行後であれば「契約の内容に適合しない場合」にあたるとして売主に対する契約不適合責任を追及することが可能です。
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