コラム Column

相続登記・住所等変更登記の申請義務化


所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し

従来から、日本には所有者不明土地(①不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地、②所有者が判明しても、その所在が不明で連絡が付かない土地)が多数あり、そのような土地が管理されずに放置されるなどして民間取引の阻害や隣接土地への悪影響の発生等が問題となっていました。
高齢化の進展による死亡者数の増加等で、このような問題は更に深刻化することが予想されていました。

そこで、所有者不明土地の問題を解消するべく、民事基本法制の見直しがされ、民法の改正や「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(相続土地国庫帰属法)の制定による対策が施されました。

本記事では、この対策のうち、相続登記申請の義務化について解説をいたします。

なぜ相続登記の申請が義務化されたのか?

相続登記がなされず所有者不明土地が発生してしまっていた原因としては、
①相続登記の申請が義務でなく、申請をしなかった場合でも不利益を被ることが少なかったことや
②相続や遺贈をきっかけに望まない土地を取得した人が積極的に管理を行うモチベーションを持ちづらいこと等があげられます。

こうした点を踏まえ、登記がされるようにするための不動産登記制度の見直しが行われたのです。

具体的には、

・相続登記申請の義務化・環境整備(相続人に登記を促すアプローチ。目次

・登記名義人の権利能力喪失に関する登記所の権限拡大(登記所に登記を促すアプローチ。目次

が行われました。

相続登記申請の義務化と注意点

⑴ 相続登記申請義務の履行方法

相続によって所有権を取得した者及び遺贈によって所有権を取得した者は、相続登記申請期間内(自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、所有権を取得したことを知った日から3年以内)に所有権移転登記手続を申請しなければならないと不動産登記法で定められ、相続登記申請が義務化されました(相続登記申請義務を正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料に処せられてしまうのでご注意ください。)。

相続登記申請義務の履行方法は、以下の5つのパターンに分類することができます。

①登記名義人から特定財産承継遺言または遺贈によって所有権を取得した場合

この場合、相続人が、このような形で取得したことを相続登記申請期間内に登記する必要があります。

②上記①の遺言がなく、単独相続をした場合

この場合、相続人が、相続により取得したことを相続登記申請期間内に登記する必要があります。
なお、他の共同相続人が相続放棄して単独相続となった場合も含まれます。

③上記①の遺言がなく、相続登記申請期間内に共同相続人間で遺産分割できた場合

この場合、遺産分割によって不動産を取得した共同相続人が、遺産分割により取得したことを相続登記申請期間内に登記する必要があります。

④上記①の遺言がなく、相続登記申請期間内に共同相続人間で遺産分割できない場合

この場合、ひとまず共同相続人が、法定相続分にしたがった登記の申請を相続登記申請期間内にする必要があります。その後、遺産分割が行われた日から3年以内に、法定相続分を超えて所有権を取得した共同相続人が、再度、所有権移転登記を申請する必要があることには注意が必要です(先の法定相続分についての登記のみで終えてしまうと相続登記申請義務違反となってしまう可能性があります。)。

⑤例外的な相続登記申請義務の履行方法

相続登記申請期間内に、単に自己が相続人であることを申告することによっても相続登記申請義務を履行したことになります(相続人申告登記)。ただし、相続人申告登記期間内に遺産分割を行った場合には、この方法によることができませんのでご注意ください。

⑵ 相続人の行動指針

相続登記申請義務の履行方法は上記のとおりですが、実際に登記名義人が死亡した際には、相続登記申請以外の対応(遺産分割等)も含めてどのような対応をするのが良いか私見を述べます。

相続登記の内容と実際の相続の内容とを整合させるという点が重要ではないかと考えております。
この点を踏まえますと、次のような対応が望ましいと思われます。

すなわち、特定財産承継遺言、遺贈(上記)、単独相続(上記)によって所有権を取得した場合には、相続登記申請期間内にその旨の登記を、共同相続人がいる場合は、相続登記申請期間内に遺産分割をしてその登記をする(上記)という対応です。
これらの対応であれば、相続登記の内容と実際の相続の内容とが整合することになります。

ひとまず共同相続人が、法定相続分にしたがった登記の申請を相続登記申請期間内にする対応(上記)や相続人申告登記による対応(上記)もありますが、これらの対応は、暫定的な相続登記をするものであり、実際の相続の内容が登記に反映されるものではありません。
一旦、相続登記申請義務を果たすという目的がある場合には有用ではありますが、できる限り、先の対応を行うよう努めることがよろしいでしょう。

相続登記申請の環境整備

上記のとおり義務化がされる一方で、相続登記申請が行いやすくなるような以下のような環境整備が進められ、申請義務者への配慮もされています。

⑴ 登記手続の負担軽減(令和6年4月1日施行)

相続人申告登記(上記)をする場合に、単独での申告がしやすくなる、添付書面が簡略化されるなど(法定相続人であることが分かる書面の提出で足り、持分割合を証する書面の提出までは不要です。)、手続的な負担が軽減されました。

⑵ 登録免許税の軽減(既施行)

相続人申告登記(上記)等は、非課税とされ、金銭的な負担も軽減されました。

⑶ 所有不動産記録証明制度の新設(令和8年4月までに施行)

不動産の所有権の登記名義人、及び、不動産の所有権の登記名義人についての一般承継があった場合(死亡、法人の合併等)における一般承継人(相続人等)は、不動産の登記名義人が現在の登記名義人となっている所有不動産の一覧を証明書として発行することができるようになりました(所有不動産記録証明制度)。

これにより、相続登記等が必要な不動産の把握が容易になりました。

登記名義人の権利能力喪失に関する登記所の権限拡大

登記官が他の公的機関(住民基本台帳ネットワークシステム等)から登記名義人の権利能力喪失に関する情報(死亡等)を取得し、職権で登記に表示することもできるようになりました。

結語

相続登記申請の義務化がされたとはいえ、目次のとおり、相続登記と実際の相続の内容とを整合させるには、申請者側で考えて対応することが必要になるような状況となっています。
遺産分割等の整備も進め、申請者側の対応に依存しないでも相続登記との整合性が図られるような制度設計にしていくことで、所有者不明土地の減少をより実効的に進めていくことができるとよろしいのではないかと存じます。
今後の法整備や実務上の対応に期待がかかるところです。

不動産投資家の皆様におかれましては、ご自身がお持ちの不動産を相続人に相続させる場合ご自身がご親族から不動産を相続する場合に、相続登記申請義務があることを踏まえ、どのような対応をするべきか予め想定されておくことをおすすめいたします。
相続登記のほか住所変更等があった場合にも登記申請義務が課せられることになります(令和8年4月までに施行)ので併せてご注意ください。

簡潔ですが、相続登記申請の義務化についての解説でございました。
より詳しく制度について確認されたい方は、法務省のウェブページ(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00454.html)もご参照ください。

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