コラム Column
弁護士(第二東京弁護士会)。
2017年に弁護士法人Martial Artsに入所し、不動産トラブルや賃貸借契約書に関する業務をはじめ、多分野にわたる法律業務に従事している。
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【相談】隣人の承諾を得られない場合でも、建物の外壁工事のため隣地に立ち入ることはできますか。
土地上に建物を所有しているのですが、この度外壁の工事が必要となりました。工事のためには足場を組み立てる必要があるのですが、建物は隣地との境界線近くに建っており、工事業者からは足場を組み立てるには隣地に立ち入る必要があると言われています。隣地は所有者が土地上に自宅も所有し、そこに居住しています。
先日隣地の所有者に工事のための立ち入りついて承諾をしてもらえないかお願いしたのですが、特に理由もなく拒否されてしまいました。
隣地の建物は境界から離れており、隣地所有者は境界付近にはあまり立ち入らないので迷惑をかけることはないと思うのですが、このまま承諾を得られず工事ができないと困ってしまいます。
隣地所有者の承諾がなくても隣地に立ち入って足場を組み立てることはできないのでしょうか。
【回答】承諾を得られなくても、隣人に訴訟を提起して承諾に代わる判決を取得すれば、適法に立ち入りをすることができます。
建物の外壁工事のため、隣地所有者に対して、民法209条に基づき隣地の使用を請求することができます。承諾を得られない場合は、隣地所有者に対して訴訟を提起し、承諾に代わる判決を求めて訴訟提起することになります。
また、他人が所有する私道の通行について知りたい方は、コラム「囲繞地通行権とは何か。自動車の通行が認められるポイントを解説」をご参考ください。
物理的に連続する土地では、土地利用間での調整が必然的に必要となります。調整が図られないと、近接する土地の利用相互間で衝突が起こり、不動産の有効利用が確保されず、不動産所有権の機能を最大限図られないなどの事態が生じてしまいます。
そこで、民法では、隣接する土地相互間の利用関係の調整を図るため、相隣関係に関する規定が置かれています。
隣地の使用についても、隣人の承諾がないと絶対に隣地を使用できないとすれば、隣地に立ち入る必要のある工事等はできないことになりますので、土地の有効利用が阻害され,社会的損失となりますので、民法209条は、塀や建物の築造・修繕工事等のために隣地使用権を認めています。
条文上は「障壁又は建物を建造し又は修繕するため」と記載されていますが、これは認められる場合を例示的に列挙したものと考えられており、電気工事や上下水道工事でも、本条の適用又は類推適用により隣地使用権が認められる場合があると考えられています。
承諾を求める相手方は、現に隣地を使用している土地所有者や土地賃借人であると考えられています。そのため、隣地の所有者が土地を賃貸して自分では使用していない場合は、隣地所有者ではなく賃借人から承諾を得ることになります(以下、承諾を求める相手方をまとめて「隣地所有者等」といいます。)。
隣地使用権があるといっても、勝手に隣地を使うことができるわけではなく、隣地所有者等の承諾を得る必要があります。
隣地所有者が承諾してくれない場合は、隣地所有者等に対して隣地使用の承諾を求める訴訟を提起し、「承諾に代わる判決」を求めていくことになります。この承諾に代わる判決を取得すれば、隣地所有者等の承諾がなくても隣地を使用することができます。
訴訟には時間がかかりますので、緊急に工事をしなければいけない場合などは、裁判所から仮処分命令を出してもらうことで、承諾に代わる判決を得る前でも隣地を使用することができます。ここでいう仮処分命令とは、勝訴の見込みがあり、かつ緊急を要する場合に、暫定的な使用を承諾する裁判所の命令です。
隣地を使用した場合の金銭負担について民法209条2項が定めています。
この「償金」には、隣地使用によって現実に発生した損害の補償だけでなく、隣地使用によって得た使用料相当額の利得の償還の意味も含まれると考えられています。
ですので、隣地所有者等から償金の請求があった場合には、使用料を払わなければならないと考えられます。
上記のように、隣地所有者等が承諾してくれない場合は、最終的に訴訟によって承諾に代わる判決を得れば立ち入りをすることができます。しかし、今後も続く隣人関係への影響を考えると、いきなり訴訟を提起することはおすすめできません。
まずは、土地の利用相互間の調整を図るために民法209条の定めがあることを説明して理解を求め、それでも拒否される場合や緊急を要する場合に承諾に代わる判決を取得することが望ましいでしょう。
もし隣地使用権に関連したトラブルなどに遭ってしまった場合は、弁護士などの専門家に相談することをオススメいたします。
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