コラム Column

ゴミ屋敷化したアパートで賃貸借契約を解消できるか?弁護士が解説


【相談】保有しているアパートの賃借人が居室をゴミ屋敷化させている場合に、賃貸借契約を解除して、賃借人を退去させることができるでしょうか?

私は、アパートを所有しています。

3年程前から、アパートの賃借人のうちの1人が、居室内に大量のゴミを堆積させており、そのゴミから異臭が発生しているため、アパートの他の居住者や近隣住民の方から賃貸人である私に対して、苦情が寄せられるようになりました。

私は、苦情が寄せられたことから、ゴミを堆積させている賃借人に対して、ゴミを撤去するように注意してきました。また、賃貸借契約を更新する際には、その賃借人との間では、居室内のゴミを撤去することを更新の条件とし、その条件を遵守しないときには、賃貸借契約を解除することとする合意をしました。

また、本件賃貸借契約には、賃借人が、居室内で不潔、その他近隣の迷惑となる行為をしたときは、契約を解除することができるという条項が規定してあります。

しかし、賃借人は、こうした合意を全く意に介しておらず、現在もゴミを撤去していないばかりか、ゴミの堆積状況は悪化するばかりです。

このため、私は、賃貸借契約を解除して、賃借人をアパートから退去させたいと考えています。このようなことができますでしょうか?

【回答】賃借人が居室内に堆積させたゴミの量が相当量であり、かつ、ゴミの撤去を貸主から求められたにもかかわらず借主が不誠実な対応を貸主にしていた場合には、賃貸借契約の解除が認められる可能性があります。

本件では、賃貸借契約において、「賃借人が、居室内で不潔、その他近隣の迷惑となる行為をしたときは、契約を解除することができる」という条項がありますので、まずは、賃借人がゴミを堆積させた行為が、居室内で不潔、その他近隣の迷惑となる行為に該当するか否かを検討することになります。

もっとも、賃借人の行為が、この条項に該当したとしてもそれだけで直ちに解除が認められるわけではありません。裁判例によると、賃借人の行為があったとしても、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されたとはいえない事情がある場合には、賃貸人は、賃貸借契約を解除することができません。

そうすると、賃借人の行為が上記条項に該当し、かつ、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されたといえるときに、賃貸人は賃貸借契約を解除して、賃借人をアパートから退去させることができるようになります。

用法遵守義務違反による解除について

民法は、賃借人の義務として「借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない」と規定しています(同法第616条、同法第594条第1項)。この賃借人が負う義務のことを、用法遵守義務といいます。

この規定によると、賃借人は、契約によって定まった用法に従って、賃借物を使用しなければならないということになります。そして、賃貸借契約書では、賃借物の用法として、賃借人は、賃貸人や他の賃貸人に迷惑を及ぼす行為を行ってはならないなどの禁止行為が定められています。

賃借人が、この用法に違反した場合には、賃借人が契約に定められた義務に違反しているということになりますから、賃貸人は、賃借人に対して、その行為の是正を求めることができます。また、賃貸人は、原則として、賃借人が契約上の義務に違反していることを理由に賃貸借契約を解除することができます(民法第541条)。

もっとも、解除については、賃借人に用法遵守義務違反があるというだけで、ただちに認められるというわけではありません。詳しくは、当コラム「信頼関係破壊の法理にとは」で説明されておりますので、ご参照いただければと思いますが、裁判例によると、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されていないと認められる事情があるときには、用法遵守義務違反があっても賃貸人は契約を解除することができません。

以上をまとめると、用法遵守義務違反を理由に賃貸借契約を解除するときには、①賃借人の用法が契約又は目的物の性質によって定まった使用方法に反していること、②賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されていないと認められる事情がないことが必要になります。

上記①・②の要件は、いずれも抽象的であり、どのような場合に解除が認められているのかを知るためには、実際の裁判例を確認する必要があります。そこで、以下では、賃借人がアパートの住居の一室をゴミ屋敷化させた事案で、賃貸人が用法遵守義務違反による解除を主張して、賃借人に当該住居の返還等を請求した裁判例をみていくことにしたいと思います。

ゴミ屋敷となったアパートの賃貸借契約解除の判例紹介

ゴミ屋敷で退去可能なのかが争われた判例についてご紹介します。

(1)ゴミの堆積が不潔、その他近隣の迷惑となる行為に該当するか

東京地判平10..26判タ1010号272頁は、以下の事実を認定して、賃借人のゴミの堆積行為が、貸室内において危険、不潔、その他近隣の迷惑となるべき行為にあたると判示しています。

平成七年春に、本件居室内に相当量のゴミが積み上がっていることが発覚したこと。

②平成七年一〇月八日の賃貸借契約更新の際には、本件居室内のゴミを撤去すること等が更新の条件とされたが、本件居室内のゴミの不整理の状態は悪化していったこと。

③消防署から、本件居室内のゴミに火災発生の危険があるとの注意を受けていたこと。

④賃借人と賃貸人との間に、平成九年一〇月三日、(1)被告は、本件居室内に在置している空き缶及び空き瓶を含むゴミを同年一一月七日までに撤去すること等の他人に迷惑をかけないことを賃貸借契約更新の条件とすること、(2)被告が右(1)の定めた事項を遵守しないときは、被告は、原告に対し、賃貸借契約は当然に解除されて賃貸借契約が終了することとし、一週間以内に自己の費用で立ち退くとの合意が成立したこと。

⑤それ以降も、賃借人は、ゴミの放置状態を改善せず、賃貸人から再三の注意を受けてきたにもかかわらず、二年以上にわたり、居室内に極めて多量のゴミかなりの高さにまで積み上げたままにしていること。

(2)信頼関係の破壊について

この裁判例は、以下のように判示して、本件については、信頼関係が破壊されているとし、賃貸人による解除を有効としています。

信頼関係を基礎とする継続的な賃貸借契約の性質上、貸室内におけるゴミ放置状態が多少不潔であるからといって、そのことが直ちに賃貸借契約の解除事由を構成するということはできない。

しかしながら、本件では、賃貸人から再三の注意を受けてきたにもかかわらず、事態を改善することなく二年以上の長期にわたって、居室内に社会常識の範囲をはるかに超える著しく多量のゴミを放置するといった非常識な行為は、衛生面で問題があるだけでなく、火災が生じるなどの危険性もあることから、賃貸人やその家族及び近隣の住民に与える迷惑は多大なものがあるといえる。

このことは、賃貸借契約の解除事由を優に構成するものといわざるを得ない。

よって、賃貸人のした本件賃貸借契約の解除は有効であるというべきである。

本件について賃貸借契約を解除可能か?

以上の裁判例を前提にして、本件について検討することとします。

本件では、堆積されたゴミの量にもよりますが、ゴミの堆積によって異臭が発生していることから、衛生面にも影響が生じていると考えられますし、その異臭が原因で、近隣住民から苦情が寄せられていることからすると、賃借人の行為が、居室内で不潔、その他近隣の迷惑となる行為にあたると判断される可能性が高いと思われます。

また、賃貸人が、3年以上にわたって、賃借人に対して、再三、ゴミを撤去するように申入れていること、及び賃貸借契約を更新する際には、その賃借人との間では、居室内のゴミを撤去することを更新の条件とし、その条件を遵守しないときには、賃貸借契約を解除することとする合意までしていたにもかかわらず、賃借人は、こうした合意を全く意に介しておらず、ゴミの堆積状況は悪化しているようですので、裁判例の事案と比較しても信頼関係は破壊されていると判断される可能性が高いといえるでしょう。

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