コラム Column

スケルトン貸しとは何か。契約書の原状回復の裁判例も解説


【相談】スケルトン貸しで商業ビルを運営したいと考えているのですが、留意しておく事項はどのような事項でしょうか?

私は、事業者用の商業ビルを建設して、そこから賃料収入を得ようと考えています。

そこで、インターネット等で、商業ビルの運営について調べてみたところ、商業ビルでは、店舗内の床、壁、天井、内装等がない状態で賃貸するスケルトン貸しという方法があることがわかりました。

私は、このような方法には、様々な業種の方がゼロから自分の好みの店内を作ることができるというメリットがあるため、魅力を感じています。

そこで、いわゆるスケルトン貸しで、商業ビルの賃貸運営をしたいと考えているのですが、賃貸運営をするにあたり、どのような点に留意しておく必要があるでしょうか?

【回答】スケルトン貸しの場合には、原状回復の程度が契約書に明記されていないため、賃貸人と賃借人との間で紛争になっているケースがあります。したがって、契約を締結するに際しては、具体的に原状回復の程度を契約書に明記しておくことが重要です。

裁判例では、いわゆるスケルトン貸しの場合に、原状回復の程度を巡って争われているケースが見受けられます。

そして、裁判例の中には、賃借人が賃借物を明渡すに際して、賃借物をスケルトンの状態まで原状回復を行う義務を負うという約定がなされていないときには、賃借人がその状態までの原状回復義務を負わないと判示したものもあります。

このため、上記のような賃貸借契約を締結する場合で、スケルトンの状態まで、原状回復することを希望されるのであれば、原状回復の程度(スケルトンの状態とする旨)を契約書に明記するようにしてください。

スケルトン貸しとは何か

スケルトン貸しについて、法律上、明確な定義があるわけではありません。

一般には、次のように説明されています。

まずスケルトンとは、建築消防関連法令において建物の使用を開始するための必要最小限度の内装、設備(非常灯、煙感知器等)以外の内装、設備を施さず、躯体(建築物を支える骨格)のままになっている状態(コンクリート打放しの状態)をいいます

そしてスケルトン貸しとは、このスケルトンの状態で賃借物を賃貸人から賃借人に引き渡し、賃借人が賃貸借契約終了時に自らが付加し、または設置した内装等を撤去し、原状回復をしなければならないという内容の賃貸借契約のことをいいます

スケルトン貸しの場合には、賃借人が設置した内装等は、賃借物の利用形態を限定することになるため、スケルトンの状態に原状回復をすることは、賃貸運営をするうえで、重要な要素であると思われます。

しかし、以下のように留意すべき裁判例があります。

スケルトン渡しにおける原状回復の裁判例

賃貸人が賃借人に対して、スケルトンの状態で賃借物を引き渡している場合には、賃借人は、スケルトンの状態まで原状回復をしなければならないとする裁判例(東京地判平28..15(2016WLJPCA06156001)がある一方で、以下のような裁判例があります。

例えば、東京地判平26.11.26(2014WLJPCA11268008)は、本件契約書に「スケルトンに原状回復する旨の合意をした旨の記載はなかった」こと等から「スケルトンにする合意があったことを認めるに足りる証拠はない」とし、そのうえで、「本件賃貸借契約の原状回復義務の定めは、その義務の内容が具体的に定められていないから、賃借人に特別の負担を課したもの」とはいえないとしました。

そして、賃借人は、「民法616条,598条に定める原状回復義務の一環として,本件建物の通常の使用を妨げる付属物(本件建物に附合して独立性を有しない部分,独立性を有する部分のいずれも含む。)についてのみ,原状回復の義務を負うものと解される」と判示しました。

この裁判例によると、「スケルトンに原状回復する旨の合意」がないときには、賃借人はスケルトンにする義務を負わないと考えられますから、賃貸人が、スケルトンの状態まで原状回復することを望む場合には、紛争が生じた場合に備えて、その旨の約定を契約書に明記しておく必要があるといえます

もっとも、契約書に「スケルトン」という文字を用いる必要はありません。たとえば、東京地判平27..17(2015WLJPCA08178002)は、契約書に「スケルトン」という文字は用いられていないものの、契約書に「貸室の原状は、末尾添付甲工事仕様図面及び現況写真のとおりである」との記載があり、そのうえで「甲工事仕様図面及び現況写真の状態に復元するものとする」と規定されている場合には、現況写真等によって原状回復義務の内容は、スケルトンの状態に戻すことであると判示しています。

トラブル防止のため、契約書の中に具体的な原状回復義務を規定しましょう

これまで見てきたことを踏まえると、スケルトン貸しをする場合には、賃借人が設置した内装等は、賃借物の利用形態を限定することになるため、スケルトンの状態に原状回復をすることは、賃貸運営をするうえで、重要な要素であるといえます。

しかし、賃借人が負う原状回復義務の内容を具体的に規定していない場合には、スケルトンの状態まで、賃借物の原状回復がなされない可能性が考えられます。

そこで、後日の紛争を防止し、円滑な賃貸運営を行うという観点からすれば、契約書の中に、必ずしも「スケルトン」という文字を用いる必要は無いものの、契約書に工事の仕様図面や賃借物の現況の写真を添付するなどして、可能な限り具体的に原状回復義務の内容を規定しておく必要があるといってよいでしょう。

明け渡し時のトラブル防止については「明け渡し時の原状回復でトラブルにならないためのポイント」にて詳しく解説されていますので、気になる方は是非ご参考ください。

1 渡辺晋『【改訂版】建物賃貸借―建物賃貸借に関する法律と判例―』(大成出版社、2019年)791頁及び東京地判平19..23(2007WLJPCA03238023)参照。

もしスケルトン貸しに関連したトラブルなどに遭ってしまった場合は、弁護士などの専門家に相談することをオススメいたします

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