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敷引きとは何か?敷引特約が法的に有効なのか弁護士が解説


敷引きとは、預かった敷金の一部を返金しないことです。敷引きの特約と敷引特約と言います。

敷引金の金額が高額すぎない場合は有効と考えられます。この記事ではどのような法的根拠や判例があるのか、よくある相談事例をもとに弁護士の私が詳しく解説しています。

【相談】敷引特約は法的に有効ですか。

収益不動産を購入し、新規に賃借人を募集します。条件としては、賃料を10万円、敷金・礼金をそれぞれ賃料の1か月分として、賃貸借契約終了時に敷金全額を償却する敷引特約を付けたいと思っています。

敷引特約は消費者契約法との関係が問題になるという話を聞いたことがあるのですが、敷引特約は法的に有効なのでしょうか。

【回答】敷引金の額が高額に過ぎるものでなければ、敷引契約は有効と考えられます。

敷引特約は原則として有効ですが、当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らして敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、特段の事情のない限り消費者契約法第10条に反して無効となります。

敷引きと敷引特約とは?

敷引特約は、賃貸借契約の終了時に敷金又は保証金を返還せず、貸主が取得する特約です。関西の賃貸借契約において慣習的に用いられており、近年は関東や他の地方でも利用が増えてきているようです。

敷引特約の有効性は?

この敷引特約の有効性について、消費者の利益を一方的に害する条項を無効とする消費者契約法第10条に抵触して無効となるのではないかが争われていました。

最高裁判所の判例

敷引特約の有効性について判断した最高裁判所の判例として、最判平成23年3月24日民集65巻2号903頁があります。同判決は、「賃貸借契約に敷引特約が付され、賃貸人が取得することになる金員(いわゆる敷引金)の額について契約書に明示されている場合には、賃借人は、賃料の額に加え、敷引金の額についても明確に認識した上で契約を締結するのであって、賃借人の負担については明確に合意されている。」「補修費用に充てるために賃貸人が取得する金員を具体的な一定の額とすることは、通常損耗等の補修の要否やその費用の額をめぐる紛争を防止するといった観点から、あながち不合理なものとはいえず、敷引特約が信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであると直ちにいうことはできない。」として、敷引特約が原則として消費者契約法第10条に違反せず、有効であることを示しました。

もっとも、「消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は、当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額、賃料の額、礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし、敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には、当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り、信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって、消費者契約法10条により無効となる」として、敷引金の額が高額な場合は、例外として、特段の事情がない限り無効だとしています。

どの程度の敷引額であれば有効?

では、敷引金の額がどの程度であれば、「高額に過ぎる」として無効となるのでしょうか。

まず、上記最高裁判例の事案では、敷引金の額が賃料月額の2倍~3.5倍強程度であり、その他に礼金等の支払いはなかった等の事実関係のもとで、敷引金の額が高額に過ぎるとはいえず、消費者契約法第10条に違反しないと判断しました。

また、上記最高裁判決が出された後に、個別の事案における敷引特約の有効性について判断した裁判例として、以下のようなものがあります。

①最判平成23年7月12日集民237号215頁

→敷引額が月額賃料の3.5倍程度でその他の一時金の支払いがない事案で、敷引特約を有効とした。

②西宮簡判平成23年8月2日REITO86号88頁

→敷引額を賃料月額の4.3倍程度とする事案で、賃料の3倍を超える部分については消費者契約法第10条に反し無効とした。

③神戸地判平成24年8月22日REITO90号150頁

→敷引額を賃料月額の6.25倍とする事案で、敷引特約を消費者契約法第10条に反し無効とした。

上記の判例・裁判例からすると、敷引額が賃料月額の3倍程度までであれば、敷引特約が有効と判断される可能性があると思われます。

本件では、敷引額は賃料月額の1か月分であり、賃料月額1か月分の礼金を合わせて考慮しても2か月分ですので、敷引特約は有効であると考えられます。

敷引きの民法改正の影響

敷引特約の有効性については上記の最高裁判例により一応の決着を見ましたが、民法改正により無効論が再燃することが懸念されています。

改正後の民法では、敷金についての規定が明文化されています。

改正後民法622条の2

1 賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。

一 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。

二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。

2 賃貸人は、賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは、敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。

改正後の民法622条の2の敷金の規定は、これまでの判例法理を明文化しただけで敷引特約の有効性に影響しないとの見解もありますが、改正後民法622条の2の定める敷金の定義からすると、敷金から自動的に差し引くという敷引金部分は「賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的」との定義と相いれないのではないかとの見解があり得ます。※1

そのため、敷引特約の有効性については、今後も裁判例の動向を確認したほうがよいでしょう。

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1 内田貴他編「講座 現代の契約法 各論1」(青林書院・2019年)77頁

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