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不動産売買における仮契約書で売買契約は成立するか弁護士が解説


【相談】不動産売買の仮契約書を取り交わすと、売買契約が成立してしまうのでしょうか。

賃貸物件として、近くに大学があるアパートを購入するための協議をしていました。入居者の多くは学生であり、安定的な利回りが期待できるとのことでした。売主から、代金等基本的な条件が決まった段階で仮契約をする必要があると言われ、売主との間で仮契約書を交わしました。仮契約書には、「今後具体的な条件を協議のうえ正式な契約を締結する」との条項がありました。

その後、売主と細かい売買条件の調整をしていたのですが、近くの大学がキャンパスを移転することを発表し、賃貸需要がさがることになったため、この物件を購入することを拒否しました。

しかし、売主からは、仮契約書の締結により売買契約は成立しているから代金を支払えと言われています。聞くところによると、売主はこの物件の売却代金をあてにして別の物件を購入しようとしていたようですが、実は売主は大学関係者からキャンパス移転の可能性を内々に聞いており、移転発表前に売り抜けたかったようです。

あくまで仮の契約ですから、代金は払わなくてもよいのではないでしょうか。

【回答】仮契約書の内容にもよりますが、仮契約書締結後も交渉が予定されている場合は正式な売買契約は成立しないと考えられます。

本件では、仮契約書に「今後具体的な条件を協議のうえ正式な契約を締結する」との条項があることから、仮契約書締結後もさらに交渉の継続が予想され、最終的で確定的な売買契約締結の意思表示はなく、売買契約が成立したとはいえないと考えれられます。

よって、売買代金を支払う必要はないでしょう。

ところで、 正式な売買契約が成立しなくとも、仮契約の締結により正式契約締結のため双方に誠実交渉義務が発生したと考えられます。本件では主な入居者が近隣大学の学生である物件で、その大学がキャンパスの移転を発表し賃貸需要が減少するという事情がありますし、売主はその可能性を知りながらあえて事情を隠していたということですので、購入を取りやめても誠実交渉義務違反とはならないでしょう。

なお不動産物件の購入の流れについて知りたい方は「【初心者必見】不動産投資物件の購入までの流れを9ステップで解説」で詳しく解説されていますので是非ご参考ください。

不動産売買における仮契約とは何か?

法的には「仮契約」というものはありません。正式な売買契約か、そうでない合意かだけです。

仮契約書を取り交わした場合にどのような効力を持つかは、その仮契約書がどのような内容を定めているかによって異なります。

不動産売買では、売買代金も高額となるため、最終的には売買契約書を締結しますが、より慎重に取引を行うため、基本的な条件について合意ができた段階で「仮契約書」等の名称がついた書面が取り交わすことがあります。

仮契約書の効力についての判例

仮契約書に記名押印したことで売買契約が成立したかが争われた事件として、東京地裁昭和57年2月17日判例時報1049号55頁があります。

この裁判例の事案では、当事者間で売買目的物や売買代金等について合意が成立した段階で「不動産売買仮契約書」と題する書面を調印し、その仮契約書の中には仮契約書が正式契約でないことを示す趣旨の記載があるうえ、更に具体的細部事項を定めて正式契約を締結するものと明確に規定していました。実際、当事者間では、仮契約書の調印後に具体的細部事項について交渉を継続したうえ、後日正式契約の締結と手付金の支払いをするスケジュールが予定されていました。

この裁判例は、売買契約の成立について、「当事者双方が売買を成立させようとする最終的かつ確定的な意思表示をし、これが合致することによつて成立するもの」であり、「交渉の過程において、双方がそれまでに合致した事項を書面に記載して調印したとしても、さらに交渉の継続が予定され、最終的な意思表示が留保されている場合には、いまだ売買契約は成立していないことは言うまでもない」と判示しました。

そして、上記不動産売買仮契約書の記載内容と実際のスケジュールからからすれば、「売買契約」が成立したのではなく、売買代金及び目的物について合意に達したため基本的条件を書面化して確認し、交渉を継続して売買契約の具体的細部事項を定め、不動産売買仮契約書の各条項を基本的な内容とする売買契約を締結することを定めた契約が締結されたにすぎないと判断しました。

この裁判例を参考にすると、本件の仮契約書は「今後具体的な条件を協議のうえ正式な契約を締結する」との条項があり、最終的かつ確定的に売買契約を成立させようとするものではありませんので、正式な売買契約は成立していないといえます

仮契約書によって誠実交渉義務が発生します

上記参考裁判例は、続けて以下のようにも判示しています。

「本件仮契約は、正式な売買契約を締結することを目的とするものできるから、その性質上」当事者が「互いに、売買契約が締結できるように努力すべくその売買契約に盛り込むべき具体的細部事項について誠実に交渉をなすべき義務を負うに至つたものというべきであり、正式契約を締結させることが公平の見地からみて不合理である事情が判明するなどの正当な事由が存在しないのに、当事者が正式契約の締結を拒否すれば、右誠実交渉義務違反による債務不履行の責を免れないものと解すべきである。」

つまり、仮契約書で売買契約は成立しないものの、売買契約の成立に向けて当事者双方が誠実に交渉しなければならない義務を負い、その誠実交渉義務に違反した場合は「仮契約書」に係る合意についての債務不履行責任を負うということです。

本件では、主な入居者が近隣大学の学生という物件で、その大学がキャンパスの移転を発表し賃貸需要が減少するという事情がありますし、売主はキャンパス移転の可能性があることを知りながらあえてその事情を隠して売却しようとしていますので、正式契約を締結することは公平の見地から不合理といえ、正式な売買契約を締結しないことに正当事由があると考えられます。

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よって、正式な売買契約締結をしなくても、誠実交渉義務に違反することにはならないでしょう。

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