コラム Column

囲繞地通行権とは何か。自動車の通行が認められるポイントを解説


【相談】袋地を購入した場合に、公道に出入りする通路として、自動車通行ができる程度の通路を確保することができるでしょうか?

私は、不動産投資のために、物件建設用の土地を探していたところ、立地が良く、価格も安いA土地が見付かり、購入を検討しています。

A土地は、調査したところ、四方を他人所有の土地に囲まれており、公道に接していない土地でした。

しかし、公道からA土地までは、相当の距離があり、徒歩では生活に支障が出ますし、周辺に駐車場もありません。そこで、その土地の現所有者であるAさんにどのようにしているのか確認したところ、A土地を囲っている土地(以下、「B土地」といいます。)の所有者であるBさんから、「B土地を使うのに、支障はないから、自動車でA土地まで出入りしていいですよ」と言われたため、従前からBさんの土地上を自動車で通行させてもらっているとのことでした。

そこで、私は、私がA土地を購入しても、これまでとB土地の使用方法に変更はなく、Bさんに迷惑を掛けることはないので、今後もB土地をA土地への通路として利用させて欲しいとBさんにお願いしたところ、Bさんから「私がAさんにB土地を利用させていたのは、私がAさんに恩があったからであり、A土地の所有者がAさんではなくなるのであれば、今後は、B土地を使わせるつもりはない」と言われました。

私は、A土地をとても気に入っており、通路の問題さえどうにかなれば、A土地を購入したいと考えています。

どうにかして、従前通り、B土地を使わせてもらうことはできないでしょうか?

【回答】袋地を使用するために、自動車通行を認める必要性が高い場合には、囲繞地通行権の内容として、自動車通行ができる程度の通路を確保することができます。

Bさんが、B土地を通路として使用させるつもりはないと言っている以上、当事者間の合意によらなければならない通行地役権の設定を受けることは難しいと考えられます。そこで、当事者間の合意がなくても成立し得る囲繞地通行権の成否を検討することとなります。

そして、自動車の通行を内容とする囲繞地通行権が成立すれば、B土地をA土地に至る通路として使用することができます。

囲繞地通行権とは

囲繞地(いにょうち)とは、袋地(他の土地に囲まれて道路に接しない土地)を囲んでいる土地のことを言います。

袋地は、公道に出入りすることができないため、利用方法が制限され、その土地の価格が著しく下落する等、経済的に望ましくない状況が生じることになります。

このため、民法は、袋地の所有者が、公道に出入りするために、袋地を囲んでいる他人の土地(囲繞地(いにょうち)といいます。)を通行する権利を認めています(同法第210条1項参照)。この他人の土地を通行する権利を囲繞地通行権(または、隣地通行権)といいます

もっとも、囲繞地通行権は、袋地所有者と囲繞地所有者との合意に基づいて発生する権利ではなく、法律上当然に発生する権利であることから、囲繞地通行権が認められることによって生じる袋地所有者の利益だけでなく、それが認められることによって生じる囲繞地所有者の不利益にも配慮し、民法は、囲繞地通行権が認められる場合であっても、次のような制限を設けています。

すなわち、囲繞地通行権がみとめられる場合であっても、その通行の場所及び方法は、袋地所有者のために必要であり、かつ、囲繞地のために損害が最も少ないものを選ばなければならないとしています(同法第211条1項)。

では、このような制限があるにもかかわらず、自動車の通行を可能とするような内容の囲繞地通行権が認められるのでしょうか?

囲繞地通行権で車の通行が認められる基準

判例(最判平18年3月16日民集60巻3号735頁)は、以下のように判示して、自動車の通行を内容とする囲繞地通行権が成立する場合があることを認めました。

「現代社会においては、自動車による通行を必要とすべき状況が多く見受けられる反面、自動車による通行を認めると、一般に、他の土地から通路としてより多くの土地を割く必要がある上、自動車事故が発生する危険性が生ずることなども否定することができない。したがって、自動車による通行を前提とする210条通行権(※)の成否及びその具体的内容は、他の土地について自動車による通行を認める必要性、周辺の土地の状況、自動車による通行を前提とする210条通行権が認められることにより他の土地の所有者が被る不利益等の諸事情を総合考慮して判断すべきである。」

この基準によると、結局は、自動車の通行を内容とする囲繞地通行権が認められるか否かは、個別の事案の諸事情によって左右されることになります

そこで、以下では、裁判例が個別の事案ついて、どのような判断を示しているのか見ていくこととしたいと思います。

※囲繞地通行権のことを意味しています。

自動車の通行に関する囲繞地通行権の判例

裁判例の動向として、既存の通路において、自動車の通行が既に行われているような事案では、自動車の通行を内容とする囲繞地通行権が肯定され易いのに対して、既存の通路において自動車の通行が行われたことがなく、既存の通路を拡幅したり、別の土地に通路を設けるなどの形で、自動車の通行を内容とする囲繞地通行権が主張された事案では、この主張が否定されやすいということが指摘されています。

※1

例えば、これを肯定した裁判例として、高松高判平26年4月23日判時2251号60頁は、通路が、昭和62年以前から継続して自動車による通行に用いられてきたという事案で、①袋地やその周囲の土地の形状等から、袋地を有効に利用するためには、公道から自動車によって侵入する必要性が高いこと、②囲繞地は、昭和62年頃から、25年以上にわたり、現実に自動車の通行の用に供されてきたこと、③本件土地が自動車の通行の用に供されたことで、囲繞地所有者及びその周辺土地の所有者に具体的な不利益が生じたことをうかがわせる事情が認められないことから、自動車の通行を内容とする囲繞地通行権の成立を肯定しています。

次に、否定した裁判例として、東京地判平24年1月20日LexDB25490930は、袋地所有者が過去に通路を自動車で通行していたものの、現在は、自動車での通行を行っていなかったという事案で、①当該土地は、長年にわたって、徒歩や自転車による通行に用いられてきたこと、②昭和35年頃に自動車による通行がなされていたものの、遅くとも昭和61年以降、自動車による通行はなされていないこと、③当該土地は、幅員2.2メートルしかなく、自動車の通行は困難であり、仮に自動車による通行を認めると、他の通路利用者に多大な危険が及ぶこと等の理由により、自動車の通行を内容とする囲繞地通行権の成立を否定しています。

囲繞地通行権が成立するポイントは、車の通行の必要性と囲繞地所有者への不利益

本件では、①公道からA土地まで相当の距離があり、自動車の通行を認めないと生活に支障が生じ、また、周辺に駐車場もないことからすると、自動車の通行を認める必要性があります。

対して、②従前からAさんによって自動車による通行に供されており、自動車による通行を認めてもB土地の使用に支障が生じていないことからすると、Bさんには、自動車の通行による不利益は認められないということができます。

そうすると、これまでの検討を前提にすれば、自動車の通行を内容とする囲繞地通行権が成立する可能性がある事案といってよいでしょう。

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※1 小粥太郎編『新注釈民法(5)物権(2)』(有斐閣,2020年)387頁以下[秋山靖浩]参照。

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