コラム Column

ペット飼育禁止特約がなくても、ペットのトラブルを理由に賃貸借契約を解除することはできる?


【相談】ペットの飼育禁止特約がない場合、ペットの飼い方を理由として賃貸借契約を解除することはできますか。

所有する建物を住宅として賃貸しています。私自身ペットを飼っていることから、ペットを飼っている方にも住んでもらえればと思い、賃貸借契約ではペットの飼育を禁止していません。賃借人の方は長くこの建物に住んでくれているのですが、猫の飼い方がひどいので契約を解除したいと思っています。

賃借人は入居当初猫を2匹飼っていましたが、繁殖したようで今では10匹近くの猫を飼っているようです。最近家の中を見る機会があったのですが、柱も壁も爪とぎによってかなり傷ついていましたし、糞の処理も不十分でにおいもひどい状態でした。また、賃借人は猫を放し飼いしているようで、建物の外で賃借人の飼い猫を見かけることもあります。近隣住民からは、賃借人の猫による糞害についての苦情も複数寄せられてしまっています。これらのことについて賃借人に改善を要求しても、なかなか対応してもらえません。

ペット飼育を禁止していない以上契約解除はできないのでしょうか。

【回答】ペットの飼育方法によっては、用法遵守違反として契約を解除できる場合があります。

ペット禁止特約がない場合であっても、通常許容される範囲を逸脱する場合は、用法遵守違反として賃貸借契約を解除することが可能です。

本件でも、長期間にわたり賃借人が多数の猫を放し飼いで飼育しており、飼育建物が損傷し、悪臭もしているとのことですので、用法遵守義務違反にあたり契約を解除することができると考えられます。

賃貸物件におけるペットの飼育

ペットの存在は、パートナーに癒しを与えてくれるとともに、心身の健康に良い影響を与えてくれます。しかし、屋内でのペットの飼育は、建物を損傷させたり、動物特有のにおいを付着させたり、また、他の住民に糞尿等の問題や騒音問題を発生させる可能性があります。

一般的に賃貸物件内で犬や猫等のペットを飼育すること自体に違法性はありません。しかし、賃貸借契約では上記問題の回避のため、ペットの飼育を禁止する特約が定められていることが多いです。

もっとも、ペット飼育が可能な物件に対するニーズもあるわけですから、ペットを飼っている又は飼いたい人をターゲットにして、ペット飼育禁止特約を定めずに賃貸することも十分考えられるでしょう。

ペット禁止特約がなくても解除を認めた裁判例

まず、ペットの飼育の有無にかかわらず、住宅の賃借人は建物の使用について住宅としての用法を守る義務を負います(民法616条、594条1項)。また、賃借人は、賃貸借契約に基づく付随的義務として、正当な理由なしに近隣住民とトラブルを起こさないように努める義務を負います(東京地判平成20年1月30日(平成19年(レ)第378号))。

ペット飼育を禁止する特約がない場合に、ペットの飼い方を問題として賃貸借契約の解除が争われた裁判例は多くありませんが、東京地判昭和62年3月2日判時1262号117頁は以下のように判示して、ペット飼育禁止特約がなくとも、ペットの飼育方法等の事実関係から賃貸借契約の解除を認めました。

「居住用の目的でした建物の賃貸借契約において、当該建物内で猫等の家畜を飼育してはならないとの特約がない場合であっても、猫等の家畜を飼育することによって、当該建物を汚染、損傷し、更には、近隣にも損害ないし迷惑をかけることにより賃貸人に苦情が寄せられるなどして、賃貸人に容易に回復し難い損害を与えるときは、当該家畜の種類及び数、飼育の態様及び期間並びに建物の使用状況、地域性等をも考慮したうえで、なお、家畜の飼育が居住に付随して通常許容される範囲を明らかに逸脱していて、賃貸借契約当事者間の信頼関係を破壊する程度に至っていると認められる限り、右家畜の飼育は、賃貸借契約における用方違反に当たるというべきである。」(太字・下線は筆者による。)

この事案では、賃貸人も同一建物に居住しているという状況下で賃借人が10年近くにわたり8匹~10匹の猫を飼っており、その態様も各部屋内に猫を放し飼いにして鍵をかけ押し込めるというもので、これによって柱や壁などに損傷を生じさせ、各部屋内を不衛生な状態にしていることにも照らし、飼育状況が居住に付随して通常許容される限度を明らかに超えるものであったと判断されています。

これに加え、賃借人は建物内での飼い猫以外に野良猫をも飼育していて、衛生面や騒音の点で日常生活及び近隣住民に迷惑をかけたことで賃貸人が近隣住民から苦情を言われていたこと、賃貸人からの苦情に対して頑なな態度をとっていたことなどから、当事者間の信頼関係も破壊されているとして、賃貸借契約の解除を認めました。

本件の検討

本件でも、長期間にわたり賃借人が多数の猫を放し飼いで飼育しており、飼育建物が損傷し、悪臭もしているとのことですので、居住に付随して通常許容される範囲を明らかに逸脱しており、建物の用法遵守義務に違反していると言えそうです。

また、賃借人の飼い猫の糞害により近隣住民から賃貸人に苦情が寄せられていること、賃貸人から賃借人に改善を要求しても対応してもらえないという状況からすれば、信頼関係も破壊されているといえるでしょう。詳しくは当コラム「信頼関係破壊の法理の判断基準や判例を弁護士が解説」をご参考ください。

よって、本件では、ペットの飼育を禁止する特約がなくとも、賃貸借契約を解除することができると考えられます。

今後の対応について

ペット禁止特約がなくても解除が可能となるのは、上記裁判例や本件の事案のような飼育方法や態様が悪質な場合に限られると考えられます。

そこで、ペットの飼育を前提に賃貸する場合でも、ペットの飼育を制限する条項を全く定めないのではなく、例えば、犬若しくは猫を合計2匹までは可能だがそれ以上飼う場合は事前に賃貸人の承諾を得なければならない特約としたり、飼育方法に制限を加える特約を定めたりすることで、賃貸借契約の解除が認められやすくなると思われます。

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