コラム Column
弁護士(東京弁護士会)。慶應義塾大学法科大学院修了。
不動産トラブルに関する業務、家族信託・遺言作成業務などをはじめとする多岐の分野に携わる。
【相談】新型コロナウイルス感染症の影響で売上が減少し、家賃が支払えなくなりましたが、すぐに退去しなければならないのでしょうか。
私は、商業ビルの2階を借りて、飲食店を経営しています。
しかし、新型コロナウイルス感染症の影響で売上が減少し、現在、借りている店舗の家賃の支払ができなくなってしまいました。
まだ、貸主との協議は行っていないのですが、貸主から退去するよう求められたら、私は退去を余儀なくされるのでしょうか。
また、営業を停止した場合、賃料が減額されることにはならないのでしょうか。
【回答】新型コロナウイルス感染症の影響があるという事情は、信頼関係破壊の有無の判断において、明渡しを認めない方向に働く一事情となり得ます。
賃料不払いにより、貸主と借主との間の信頼関係の破壊があると判断されれば、賃貸借契約の解除が認められ、借主は退去しなければならないことになります。
信頼関係が破壊されたかの判断においては、①賃料の不払いの期間、②金額、③不払いに至った経緯、④不払い後の交渉状況などを総合的に考慮して、判断がなされます。
新型コロナウイルス感染症の影響という特殊な要因で売上げが減少したために賃料が払えなくなったという事情は、信頼関係が破壊されていないという方向に作用すると考えられます。
営業を停止した場合の賃料減額の有無については、賃貸借契約書に特約がない限り、原則として減額されないと考えられます。
借主に、家賃の未払い等、債務の不履行がある場合、貸主は借主に対し、相当の期間を定めて催告し、その期間内に支払いがなければ、賃貸借契約を解除することができるというのが、民法上の原則です(民法541条)。
しかし、賃貸借は、貸主と借主との間の信頼関係を基礎とするある程度継続する関係です。
債務の不履行があっても、それだけですぐに関係を解消するのは不合理であり、信頼関係が破壊されていない場合には、関係を継続させるべきです。
そこで、賃貸借契約においては、借主に債務の不履行があっても、信頼関係が破壊されていない場合には、契約の解除は認めないとされています(最判昭和27年4月25日)。
これを信頼関係破壊の法理といいます。
信頼関係破壊の法理によると、1回のみの賃料不払いで、賃貸借契約の解除が認められる例はあまりありません。
賃料不払いによる信頼関係の破壊があるかどうかの判断においては、
などを総合的に考慮して、判断がなされます。
総合的に考慮して判断されるものですから、一概に何か月とは言い切れません。
ただし、過去の裁判例等を見ると、3か月分の滞納であれば、貸主と借主との間の信頼関係が破壊したとして、賃貸借契約の解除を認める傾向にあると思われます。
実務でも、訴訟提起のタイミングなどの判断において、3か月分を目安とすることはあります。
また、ゴミ屋敷によって賃貸借契約の解除が認められた事例については「ゴミ屋敷化したアパートで賃貸借契約を解消できるか?弁護士が解説」で解説されていますので、気になる方は是非ご参考ください。
法務省のホームページにおいて、「新型コロナウイルス感染症の影響を受けた賃貸借契約の当事者の皆様へ」というサイトが開設されています。
そのサイトにおいて、信頼関係破壊における新型コロナウイルス感染症の影響について、以下のとおり示されています。
信頼関係が破壊されているかどうかは,賃料の不払の期間や金額,不払に至った経緯,不払後の交渉状況など個別具体的な事情を総合的に考慮して判断されますが,新型コロナウイルス感染症の影響という特殊な要因で売上げが減少したために賃料が払えなくなったという事情は,信頼関係が破壊されていないという方向に作用すると考えられます。 最終的には事案ごとの判断となりますが,新型コロナウイルス感染症の影響により3か月程度の賃料不払が生じても,不払の前後の状況等を踏まえ,信頼関係は破壊されていないと判断され,オーナーによる契約解除(立ち退き請求)が認められないケースも多いと考えられます。 賃料の支払義務の履行は重要ですが,建物の賃貸借契約においては,賃料の未払が生じても,信頼関係が破壊されていない場合には,直ちに退去しなければならないわけではありません。 |
上述のとおり、過去の裁判例等を見ると、3か月分の滞納であれば、貸主と借主との間の信頼関係が破壊したとして、賃貸借契約の解除を認める傾向にあります。
しかし、新型コロナウイルス感染症のような未曾有の緊急事態にあって、その影響を強く受けたために支払が滞っているという事情は、信頼関係破壊の判断においても、一つの考慮要素になります。
裁判所において、新型コロナウイルス感染症の影響が、どの程度考慮されるのかについては、今後の裁判例に注目する必要があります。
仮に、賃貸借契約書において、営業を停止した場合には、家賃を減額するという条項があれば、その条項に基づき減額されることになります。
そのような条項がない場合には、特別な事情がない限りは、借主は家賃の支払義務を免除されないでしょう。
オーナーが利用を認めているにもかかわらず、借主が営業を休止しているだけの場合には、貸主は借主に対し使用収益させる義務を履行していることになるため、借主の家賃の支払義務は免除されません。
借主の支払義務が免除される特別な事情として考えられるのが、たとえば、商業施設の貸主が、施設を閉鎖し、テナントが賃貸物件に立ち入ることができない場合が考えられます。
このような事情で、借主が賃貸物件を使用できない場合には、貸主が借主に対し使用収益させる義務を履行していないことになります。
この場合には、借主は、家賃の支払義務を負わないことになると考えられます。
もし家賃に関連したトラブルなどに遭ってしまった場合は、弁護士などの専門家に相談することをオススメいたします。
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