コラム Column
弁護士(東京弁護士会、72期)。
慶應義塾大学法学部・同大学法務研究科卒業。
【相談】保証人になったところ当初より代金が増額されたようです。
私は、友人宅のリフォーム代金800万円についての保証人になりました。
その後、注文の一部変更があり、私の知らない間にリフォーム代金が1000万円に増額されたようです。友人は業者に対し既に100万円だけ支払っています。
私は保証人としてどの程度の責任を負うのでしょうか。
【回答】原則として、保証人は増額分につき責任を負いません。
保証人となった後、リフォーム代金が増額された場合、根保証契約をしていない限り、保証人は増額分について責任を負いません。
主たる債務者である友人の100万円の一部弁済は、リフォーム代金全額の1000万円に充当されることになります。
そして、主たる債務の一部弁済があればその分について保証人を免責させる趣旨をうかがわせる特段の事情のない限り、保証人は、リフォーム代金の残額900万円のうち800万円という当初の範囲についてのみ責任を負います。
保証債務には付従性があるといわれます。
この付従性の意味は様々で、
・成立についての付従性(主たる債務が成立しなければ保証債務も成立しないという意味)
・消滅についての付従性(主たる債務が消滅すれば保証債務も消滅するという意味)
・内容についての付従性(保証債務はその目的や態様において主たる債務より重いものであってはならないという意味)
があるとされています。
従来の民法448条は、「保証人の負担が債務の目的又は態様において主たる債務より重いときは、これを主たる債務の限度に縮減する。」と定めており、保証債務の内容についての付従性を明らかにしていました。
この規定は、改正民法448条1項でそのまま維持されています。
また、改正民法448条2項で「主たる債務の目的又は態様が保証契約の締結後に加重されたときであっても、保証人の負担は加重されない。」という新たな定めが設けられています。
従来は、保証契約の締結後、主たる債務の内容が加重された場合に保証債務に与える影響について、条文で定めがなく論点となっていたところ、保証債務が加重されることはないとする学説が通説でした。改正民法448条2項は、この通説を条文化したものになります。
したがって、本件のように、保証人になった後に、追加注文等によりリフォーム代金が増額されたとしても、根保証契約(※) をしていない限り、保証人は増額分につき責任を負いません。
※根保証とは、継続的関係から生じる不特定の債権を担保するための保証のことです。
このように代金増額分について保証人が責任を負わないとなると、保証人は、主たる債務(※)の一部についてのみ保証(一部保証)していることになります。
※主たる債務とは、債務者が負っている債務のことです。これに対し、保証人が負っている債務のことを保証債務といいます。
そして、一部保証の場合、主たる債務の全額には足りない程度の弁済があったときに、保証債務が弁済のあった分だけ減るのかどうか(本件でいえば、保証人が負う責任の範囲が700万円と800万円のいずれなのか)が問題となります。
この点について、学説では、保証契約で主たる債務の一部の弁済があればその分については保証人を免責させる特約が定められている等の特段の事情のない場合には、主たる債務の残額について保証人は責任を負うのが合理的な当事者の意思に合致するとされ、当初保証した金額分は責任を負う(すなわち、本件では800万円につき責任を負う)ことになると考えられています。
参考となる裁判例を1件ご紹介致します。
東京地裁平成26年5月16日判決(平成24年(ワ)第12227号)
<事案の概要>
飲食店の内装リフォーム工事の代金の保証人が、追加変更工事の存在を知らずに保証をし、さらに、保証契約後に主たる債務の遅延損害金の利率が法定利率以上に引き上げられていました。
また、主たる債務者である注文者が請負人に対して債務の一部弁済等をしていました。
そのような中で、工事の請負人が注文者及び保証人に対して連帯して残代金及びこれに対する約定の遅延損害金の支払いを求めたという事案です。
<判決の要旨>
東京地裁は、まず、保証人は追加変更工事代金については責任を負わず、遅延損害金については法定利率の範囲でのみ責任を負うと判断しました。
この点は、上記⑵で述べたことに関する判断です。
そして、東京地裁は、一部弁済後の残額の保証人の責任の範囲について、「一般に、保証人において主債務の一部に限定して保証するとの意図のもとで保証をしている場合には、特に明示されない限り、主債務に残額がある限り、保証人はその額までは一部保証の限度で債務弁済の責に任ずるというのが保証契約を締結した当事者の通常の意思であり、また、取引慣行にも適すると解される。そして、保証人において、既に発生している主債務の一部について保証した場合と、本件のように特定の主債務につき保証契約を締結した後に、主債務者と債権者との間の合意等により主債務の額が増加した場合とは、保証債務の範囲が主債務の一部に限定されるという点において異ならないから、前述の理は、特段の事情のない限り、上記いずれの場合にも妥当すると解するべきである。」としたうえで、そのような特段の事情の見られない当該事案については、主たる債務の残額に対する保証人の責任を認めました。
この部分は、法律文書に馴染みのない方にとっては一読しただけでは分かりにくいかもしれませんが、上記学説の考え方と同様のことを述べたものになります。
以上を踏まえますと、本件では、ご友人による100万円の支払いという代金の一部弁済により、残代金は900万円となるところ、ご質問者様は当初より800万円の保証をすることを約していますので、特段の事情のない限り、残代金900万円のうち800万円につき責任を負うことになります。
保証人になった方としては、増額分につき責任は加重されないといっても、知らない間に代金を増額されたために、本来支払いを免れることができたかもしれない金額について責任を負担しなければならなくなるのは納得がいかないところもあるかもしれません。
しかし、保証をするということは、そういったリスクを伴うものなのです。
実現するのは難しいところですが、このような事態に備えて上記のような特約を保証契約において設けるなど事前の策を講じておくことが大切といえるでしょう。
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