コラム Column
弁護士(東京弁護士会、72期)。
慶應義塾大学法学部・同大学法務研究科卒業。
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【相談】マンションの欠陥に管理組合が対応しません。
マンションの一室を購入しましたが、突然、壁にヒビが入りました。ヒビに近いところにある部屋の扉が外れて倒れそうになっています。明らかな欠陥ですが、管理組合が対応しないので、私個人で対応したいと思っています。何か良い方法はありますか?
【回答】分譲業者に瑕疵担保責任の追及等を、施工業者等に損害賠償請求をすることが考えられます。
マンションの一室を購入されていることから、ご質問者様が区分所有者であるという前提で回答いたします。
区分所有者は、分譲業者との間でマンションの一室を目的物とする売買契約(民法555条)を締結しています。そこで、分譲業者に対して、壁のヒビや扉の不具合につき、瑕疵担保責任を追及したり、売買契約時に定めた規定に基づきアフターケアを行うことを請求したりすることが考えられます。
また、施工業者に対しては、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)をすることが考えられます。場合によっては、マンションの設計者や建築工事監理者にも同様の請求をすることが考えられます。
管理会社に対しては、区分所有者個人で法的な責任を追及することは難しいでしょう。
瑕疵担保責任については以下のような規定があります。
売買の目的物に瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する。
買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
このように、瑕疵担保責任は「隠れた瑕疵」があった場合に認められます。
「隠れた」といえなければならないため、買主が瑕疵を知っていた場合や、知らなくても通常の注意を払えば知り得た瑕疵については、瑕疵担保責任は生じません。
また、「瑕疵」とは、契約上予定された品質・性能を欠くことをいいます。
どのような場合に「隠れた瑕疵」があるといえるかは、個別具体的な判断になるためご説明が難しいですので、建築士をはじめとする専門家に相談して見てもらうのが良いでしょう。
「隠れた瑕疵」が認められた場合には、①瑕疵修補請求、②売買契約の解除、③損害賠償請求をすることが考えられます。
瑕疵修補請求については、条文で明確に定められているものではありませんが、学説上は認められるとする見解が有力です。
実務的にも、瑕疵修補にかかる費用を損害賠償として支払うよりも施工業者に依頼し瑕疵を修補する方が経済的であるため、本件でも分譲業者がこれに応じる可能性があるでしょう。
売買契約の解除は、売買契約の目的を達することができないといえる程の瑕疵がなければできません。
本件のように壁にヒビが入ったというものですと、修繕で十分対応できるので、売買契約の目的を達することができないとまではいえず、売買契約を解除することは難しいでしょう。
損害賠償請求をするのはひとつの手です。上述のように契約解除ができない場合には、民法570条、566条1項に基づき損害賠償請求が可能です。
※なお、2020年4月からの民法改正により、瑕疵担保責任に関する規律は大きく変化しました。今回のご回答は、2020年2月時点でのものですのでご注意ください。
分譲業者との売買契約時に、壁のはがれ等につき一定期間は無償で修繕を行うといったアフターサービスに関する特約が定められているか確認してみてください。一般社団法人不動産協会の「アフターサービス規準(中高層住宅規準)」にしたがって、そのような特約が契約書に定められていることも少なくありません。
このような特約がある場合、特約に基づいて、分譲業者に無償での修繕を求めることができます。
施工業者に対しての不法行為に基づく損害賠償について、重要な判例が2つございます。
この判決では、建物の居住者等には建物の基本的な安全性の確保によって守られるべき生命・身体又は財産の法益が存在しており、建物の設計者や施工者等は、第三者に対してこのような法益に配慮する注意義務があるとしました。
この判決は、上記平成19年判決をさらに掘り下げ、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは、居住者等の生命、身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい、建物の瑕疵が、①居住者等の生命、身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず、②当該瑕疵の性質に鑑み、これを放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合をいうとしています。
以上の判例を踏まえると、ご相談いただいた本件につきましても、
①外壁のヒビ等が現時点で居住者等の生命、身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合はもちろんのこと、
②これを放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合、例えば「外壁が剥離して通行人の上に落下」「するなどして人身被害につながる危険があるとき」(上記平成23年判例がこのように例示しています)
に該当するのであれば、施工業者に対して不法行為に基づく損害賠償請求をすることができるでしょう。
マンションの瑕疵について法的な責任を負うのは、上述のように売買契約の当事者である分譲業者であり、管理会社ではありません。
もっとも、法的な責任を追及できる可能性が一切ないという訳ではありません。
管理会社は、マンションの管理組合(区分所有者の団体)との間で管理委託契約を締結しています。そのため、十分な管理を怠った結果、瑕疵の程度が大きくなったり、区分所有者が分譲業者や施工業者に責任追及する機会を逸した場合には、管理委託契約上の債務不履行があると認められる余地があります(その可能性を示唆した裁判例として大阪地裁平成21年4月7日判決(判例集未搭載))。
しかし、管理委託契約の当事者はマンションの管理組合ですので、構成員にすぎない区分所有者が単独でこのような責任追及をすることは難しいでしょう。
以上のように、対応の方法は多岐にわたりますが、いずれが最善であるかは、個別具体的な検討なくしては判断が難しいものです。予算等のコスト面の話も含めて専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることをおすすめいたします。
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