コラム Column
弁護士(第二東京弁護士会)。
2017年に弁護士法人Martial Artsに入所し、不動産トラブルや賃貸借契約書に関する業務をはじめ、多分野にわたる法律業務に従事している。
【相談】賃借人が賃料減額請求を行い、減額を認める裁判が確定していないにもかかわらず賃貸人が請求した金額を下回る賃料しか支払わない場合、賃貸借契約を解除することはできますか。
所有するビルの1フロアを事務所として賃料30万円で賃貸しています。しかし、賃借人から、周辺の賃料相場が下がってきており、適正な賃料は20万円であるとして賃料減額請求がされました。
20万円まで賃料を減額する事情はないと思っていますので、賃借人に対して何度も従前どおり30万円の賃料の支払いを請求しています。賃借人と交渉してみようとも思いましたが、「今後は20万円しか払いません」と突っぱねられて交渉もできず、当方の請求する賃料額が支払われない状況が1年以上続いています。
このような状況のため賃貸借契約を解除したいと思っていますが、可能でしょうか。
【回答】減額を認める裁判が確定するまでは賃貸人が請求した賃料額を支払う義務がありますので、賃料不払いにより契約を解除することが可能です。
賃貸人が賃料減額請求権を行使して減額を認める裁判が確定していない場合、賃借人は、賃貸人が請求した賃料額を支払う義務を負いますので、賃貸人が請求した金額を下回る賃料しか支払わない場合は解除事由となります。
賃貸借契約の解除には信頼関係が破壊されたといえることも必要ですが、本件の事情からすれば、賃貸借契約を解除することができると考えられます。
賃料増額請求については「賃料増額請求の法的根拠と判例を弁護士が解説」で解説されています。気になる方は是非ご参考ください。
賃貸借契約における賃料は賃貸人・賃借人間の合意によって定められ、契約期間中は合意した賃料に拘束されます。しかし、賃貸借契約は継続的な契約であるため、社会経済事情の変動により、一度合意した賃料が不相当となることもあり得ます。
そこで、借地借家法は、建物の賃料が、租税負担の増減や不動産価格の変動により、又は周辺の賃料相場と比較して不相当となった場合に、賃料の増減を請求できる権利を認めました(借地借家法32条1項)。
賃料減額請求権は、その権利行使により、一方的な意思表示で賃料額を減額させるという効果があります。
賃料増減請求権は一方当事者の意思表示によってその効果が発生しますが、他方当事者が賃料の増減を争った場合、賃料増減が認められるか否かは最終的には裁判所の判断となります。
そして、賃料増額請求又は賃料減額請求がなされた後、賃料の増減についての裁判が確定するまでの間の賃料は以下のように扱われます。
賃貸人からの賃料増額請求の場合、増額を認める裁判が確定するまでは、賃借人は自らが相当と認める額の賃料を支払えば足ります(借地借家法32条2項本文)。もっとも、従前の賃料を下回る金額の賃料を支払うことはできません。
その後、賃料増額を認める裁判が確定し、賃借人が支払った金額が、裁判所が認めた賃料より低い場合は、賃借人はその不足額に年10%の利息を付して賃貸人に支払う必要があります(借地借家法32条2項ただし書き)。
賃借人からの賃料減額請求の場合、減額を認める裁判が確定するまでは、賃貸人は自らが相当と認める額の賃料を請求することができます(借地借家法32条3項本文)。もっとも、従前の賃料を上回る金額の賃料の支払いを請求することはできません。
その後、賃料減額を認める裁判が確定し、賃借人が支払った金額が、裁判所が認めた賃料より高い場合は、賃貸人はその超過額に年10%の利息を付して賃借人に返還する必要があります(借地借家法32条3項ただし書き)。
賃料減額請求の場合、賃借人は、賃貸人が請求した金額の賃料を支払う義務を負い、これを怠った場合には債務不履行となりますので、賃借人が賃貸人の請求する金額を下回る支払いを継続した場合は、賃料不払いによる解除事由となります(東京高判平成10年6月18日判例タイムズ1020号198頁)。
もっとも、賃貸借契約を解除するためには、信頼関係が破壊されたといえる必要がありますので、不払賃料額や状況によっては信頼関係を破壊しないとして解除が認められないこともあります。
例えば、名古屋高判昭和59年2月28日判例タイムズ525号122頁は、賃借人が、同一建物内の他店舗との比較から賃料減額請求を行い、賃貸人から減額賃料の受領を拒絶されたため5か月分の賃料を遅滞した事案につき、減額請求の経緯や状況からすれば賃借人が不誠実ときめつけることは困難であって、むしろ、賃貸人側の態度に問題があった事案だとして解除を認めませんでした。
本件の場合、賃借人が賃料減額請求をした後、賃貸人は従前の賃料と同額の30万円の賃料の請求をしていますから、減額を認める裁判が確定するまで賃借人は賃料30万円の支払義務を負います。それにもかかわらず、賃借人は一方的に10万円減額した20万円しか支払っていませんので、賃料不払いの債務不履行となります。
10万円不足する金額での支払いを1年以上続けていたということであれば、これまでの不払賃料額は120万円以上となり、これは賃料の3か月分を超えています。また、賃借人に交渉を持ち掛けようとしても突っぱねられて交渉できないとの事情もあります。この不払賃料額や賃借人の態度からすれば、信頼関係も破壊されたと考えることできそうです。
よって、別途信頼関係を破壊しない方向に傾く事情がなければ、本件でも賃貸借契約を解除することが可能です。
もし不動産に関連したトラブルなどに遭ってしまった場合は、弁護士などの専門家に相談することをオススメいたします。
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