コラム Column
弁護士(東京弁護士会)。慶應義塾大学法科大学院修了。
不動産トラブルに関する業務、家族信託・遺言作成業務などをはじめとする多岐の分野に携わる。
【相談】私法上の境界を確定する方法について教えてください。
私は、イロハニで囲まれている部分を含む甲地を所有しています。
隣の乙地の所有者Aは、20年余り前から、甲地の一部であるイロハニで囲まれている部分にまたがって工作物を設置しているところ、イロハニで囲まれた部分の土地を時効により取得したと主張しています(※1)。
甲地と乙地の境界を明確にしたいと考えていますが、境界を確定する手段について教えてください。
※1 20年間の長期取得時効を主張するためには、①20年間、占有していること、②(賃借人等としてではなく)所有者の意思をもって占有していること、③平穏かつ公然と占有していることが必要です(民法162条1項)。
【回答】当事者間での和解、調停、所有権確定訴訟等の手段が考えられます。
所有権の範囲を決めるいわゆる私法上の境界が問題になっている場合には、当事者間での和解、調停、所有権確認訴訟等の手段が考えられます。
境界には、公法上の境界(以下、「筆界」といいます。)と所有権の範囲を決めるいわゆる私法上の境界(以下、「所有権界」といいます。)があります。
筆界は、もともと、明治初期の地租改正の過程で人為的に区画された土地の境界で、公的な意味を持ちます。
所有権界とは、両所有者の有する土地の所有権の境界の意味で使われ、民法に由来する私的関係から生じます。
筆界と所有権界は、本来一致すべきものですが、登記手続きを経由しないで売買や贈与などの取引を行うことにより、それらにズレが生じることがあります。
筆界は、当時者の合意によって決めることができず、裁判上の和解や調停においても決めることができません。
筆界を確定するには、基本的には訴訟によることとされており、これが境界確定訴訟です。
筆界を確定する手段として、境界確定訴訟のほかに、筆界特定制度と呼ばれる制度があります。
筆界特定制度は、筆界特定登記官が土地の境界を特定する制度です。裁判のように原告と被告が争う形式を取らず、筆界について専門的な知識を持つ筆界調査員が、法務局の非常勤職員として筆界に関する調査をし、意見書を作成します。この意見を踏まえ筆界特定登記官が正しいと認識する筆界を特定します。
所有権界は当事者の合意により決めることができるとされています。
以下、所有権界の確定方法について、ご説明いたします。
関係者が協力的である場合、調停や訴訟等の手段による必要はありません。
当事者間の協議により所有権界紛争が解決できる場合には、書面を作成して、一定の範囲の土地の所有権の所在を確認することになります。
関係当事者が署名、押印をした境界確認書と呼ばれる書面を作成することが一般的です。
境界確認書には、通常、①対象土地の所有者の住所、氏名、押印、②境界を確認した土地の地番等の表示、③境界が別紙図面とおりであることを確認した文言、④土地所有権が第三者へ移っても、本確認書の内容及び協議上の地位が承継されることなどが記載されます。
民事調停は、通常、簡易裁判所において行われます。
原則として、相手方の住所、居所、営業所又は事務所の所在地を管轄する簡易裁判所に申立てを行います。
調停期日は1回で終わらないことが多く、複雑な事案では、何度も期日を重ねることが一般的です。
調停委員会は、当事者間での合意が調った場合には、調停条項案を作成します。
調停期日において、当事者双方に、調停条項案を提示し、調停条項案を読み上げて、当事者の最終意思を確認します。
書記官がその合意内容を調書に記載し、調停が成立します。
民事調停において調停が成立する場合の解決内容は様々ですが、たとえば、一定の金銭の給付を約して、一定の土地の一部を分筆登記手続の上、所有権移転登記するという解決方法も考えられます。
所有権確認訴訟は、土地の所有権の所在が争われているときに利用される訴訟です。
対象不動産の所在地を管轄する裁判所に訴えを提起することになります。
所有権確認訴訟における判決では、原告の所有権を確認する請求認容判決がなされると、たとえば、「別紙物件目録記載の土地のうち、別紙図面記載のア、イ、ウ、エ、アの各点を順次直線で結んだ範囲の土地は、原告の所有であることを確認する。」という判決がなされます。
紛争解決までにある程度時間の余裕があり、隣地所有者と話合いの余地があるのであれば、いきなり訴訟を提起するのではなく、当事者間の話合い(和解)、民事調停という手段を選択するのが望ましいといえます。
公法上の境界が一義的に明らかであっても、当事者の一方が時効取得を主張する等して、私法上の境界が争いとなることがあり得ます。
公法上の境界と私法上の境界が不一致の場合、私法上の境界は第三者を拘束しないため、後に対象土地が売買されたとき、買主との間で、売主の担保責任や錯誤が問題となり、トラブルが生じるリスクがあります。
したがって、私法上の境界を定めるだけではなく、公法上の境界についても、分筆、合筆の手続きを行い(※3)、私法上の境界と公法上の境界に不一致が生じないようにしておくことが必要です。
※3 隣接地の所有者間で境界を移動させる必要が生じた場合など、当事者間で合意が成立して隣接地の筆界を移動する場合には、両土地を合筆し、新たに分割線を引いて分筆するか、この作業を一連のものとして行う分合筆の登記による必要があります(不動産登記法39条1項、不動産登記法規則108条)。
もし境界に関連したトラブルなどに遭ってしまった場合は、弁護士などの専門家に相談することをオススメいたします。
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