コラム Column
弁護士(東京弁護士会)。慶應義塾大学法科大学院修了。
不動産トラブルに関する業務、家族信託・遺言作成業務などをはじめとする多岐の分野に携わる。
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【相談】仮差押登記がなされている不動産の取得には、どのようなリスクがあるのでしょうか。
立地等の条件が非常によい土地を紹介され、購入を検討しています。
しかし、その土地の登記を確認したところ、仮差押えの登記がなされていることが分かりました。
仮差押えの登記がなされている土地を購入することについて、どのようなリスクがあるのでしょうか。
条件が非常によいため、何としてでもその土地を確保したいと考えており、購入をあきらめたくないのですが、リスクを回避するにはどのような方法を取ればよいのでしょうか。
【回答】将来、仮差押えが本差押えとなり、強制競売が行われると、仮差押え後に所有権が移転したことを、競落人(買受人)に対抗することができません。
将来、仮差押えが本差押えとなり、強制競売が行われると、仮差押え後に所有権が移転したことを、競落人(買受人)に対抗することができません。
その場合、購入した土地の所有権を失うことになります。
リスクを回避するためには、土地を購入するまでに、仮差押登記を抹消してもらう必要があります。その方法については、後述します。
債権者は、債務者が金銭債務の支払いに応じない場合、裁判を提起する等により債務名義を取得した上で、強制執行手続きによって債権を回収することになります。
しかし、裁判提起から強制執行手続きまでの間に、債務者が財産を処分してしまうと、債権の回収が不能となる恐れがあります。
そこで、裁判で債務名義を取得するより前に、債務者の財産を保全する目的で、仮にその財産を差し押さえる「仮差押え」手続きが認められています。
仮差押えのなされた不動産を購入すること自体は可能です。
しかし、仮差押えを申し立てて認容されたA社(債権者)と相手方B社(債務者)との間の訴訟でA社(債権者)が勝つと、A社(債権者)が債務名義を取得して強制執行を行うことになります。
そして、不動産が競売により競落されると、購入者が仮差押登記の後に、売買を原因として所有権移転登記を備えていたとしても、購入者は競落人(買受人)に対抗することはできません。
仮差押登記より後にその不動産を購入した者は、所有権を失うことになります。
上記のリスクを排除するためには、不動産を購入するまでに、仮差押登記を抹消してもらう必要があります。
仮に、仮差押登記の抹消が売買契約締結後になるのであれば、遅くとも売買代金の決済時には抹消することが必要になります。
仮差押登記の抹消にあたっては、債務者が債権者との間で交渉し、債権者から仮差押えを取り下げるとの合意を取り付け、裁判所に取下書を提出するなどの手続が必要になります。
なお、取下書を裁判所に提出してから法務局に書類が行って仮差押登記が抹消されるまでには、多少の時間がかかります。
実務において、一般的には、次のような流れとなります。
①債権者が保全手続の取下書に記名・押印し、この取下書を司法書士が預かります。
②司法書士が保全手続の取下書を預かった時点で代金の支払(決済)を行います。通常、代金の一部を債権者が受け取ることになります。
③司法書士が保全手続の取下書を裁判所に提出します。裁判所が法務局に仮差押の登記の抹消の嘱託をします。その後、法務局で仮差押の抹消登記が実行されます。
④司法書士が法務局に登記申請書を提出し、その後、法務局で売買による移転登記が実行されます。
債権者が協力的であれば、上記のように取下書を使って仮差押登記を抹消する方法を取ることができます。
しかし、債権者が協力的ではない場合は別の方法をとらないといけません。
仮差押解放金(※)の供託を活用する方法です。一定の金額の金銭を供託すると、仮差押の執行が取消となる制度です。
実務では、一般的には、次のような流れとなります。
※仮差押解放金というのは、仮差押えの執行の停止又は取消しを得るために債務者が供託すべき金銭のことです(民事保全法22条1項)。債務者は、この金銭を供託することで、仮差押目的物に対する執行からの解放というメリットを享受することができまず。仮差押解放金の額がどのように定められるかについて、実務上の運用においては、裁判所の職権で額が定められるとされています。
①決済の日までに、仮差押解放金を法務局(供託所)に供託します。
②決済の場で、供託金の納付書を司法書士が預かり、代金支払(決済)を行います。
③司法書士が法務局(法務局)へ登記申請書を提出します。その後、法務局で売買による移転登記が実行されます。
④司法書士が供託所(法務局)で供託を行います。司法書士が裁判所に執行取消申立書を提出します。裁判所が法務局に保全登記抹消の嘱託をします。その後、法務局で仮差押の抹消登記が実行されます。
上述のようなリスクを回避する方法を取っていない場合には、購入者が仮差押登記の後に、売買を原因として所有権移転登記を備えたとしても、競落人(買受人)に対抗することはできません。
つまり、購入者は競落されたら、所有権を失うことになります。
その場合、所有権を失った購入者は、売主に対し、損害賠償請求を行うことが考えられます。
具体的には、売主に対する債務不履行に基づく損害賠償請求(民法415条)、又は、契約不適合責任の追及(民法562条1項)を行うことが考えられます。
ただし、常に、それらの請求が認められるわけではありません。
たとえば、仮差押登記がなされていることを購入者が了解した上で、競売となる可能性を考慮して売買代金を減額する等して売買契約を締結したような場合には、購入者が売主に対して、責任追及を行うことが出来ないことも十分考えれます。
仮差押登記が残った不動産を取得した場合、後日、所有権を失うリスクを抱えることになります。
かかるリスクを排除するために、不動産を取得するまでに、仮差押登記を必ず抹消してもらう必要があります。
さらに、上記対応が採られないことに備えて、売買契約に仮差押登記の抹消を停止条件にする等の条項(※)を規定しておくことが必要となります。
※仮差押登記の抹消の手続きが取られて仮差押登記が抹消された場合に、売買契約の効力が発生するという条件です。
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