コラム Column
弁護士(東京弁護士会)。慶應義塾大学法科大学院修了。
不動産トラブルに関する業務、家族信託・遺言作成業務などをはじめとする多岐の分野に携わる。
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【相談】新築物件に契約不適合があり、当該契約不適合の修補が不可能である場合、私は何らかの損害賠償請求を行うことが出来るのでしょうか。
私は、所有している土地上において自宅の建築を建築業者へ発注しました。そして、先日、自宅の引渡しを受けました。
もともと、2階にある部屋と廊下の間に段差があることが予定されていたのですが、その段差が予定よりも高くなっているように感じ、将来、生活していく上で気になると考えました。
建築業者に確認を依頼したところ、やはり、予定よりも段差が高くなってしまっていることが分かりました。
法令に照らして、何か問題があるわけではないようですが、予定通りの段差の高さに修補するよう建築業者に求めたところ、構造上、段差を修補することは不可能であるとのことでした。
私は、何らかの損害賠償請求を行うことも出来ないのでしょうか。
【回答】修補が不可能である場合、修補費用の損害賠償請求を行うことは出来ませんが、慰謝料が認められることがあり得ます。ただし、その額は決して大きな額ではないことが一般的です。本件では、まず、本当に対象箇所の修補が不可能であるかどうかを、別の業者にも確認してもらった方がよいでしょう。
仮に、対象箇所の修補が不可能である場合には、修補代金を損害賠償として請求することはできません。
修補が不可能である場合でも、新築物件の契約不適合に関して、慰謝料が認められることがあります。
ただし、仮に慰謝料が認められるとしても、その額は決して大きなものではないことが一般的と言えます。
新築の自宅において契約内容と異なる箇所、つまり、契約不適合がある場合、当該契約不適合を主張する法律構成としては、契約不適合責任(民法562条~564条)、債務不履行責任(民法415条)、不法行為責任(民法709条)、契約解除(民法540条 ※1)等が考えられます。
事案の性質を考えて、漏れなく請求を行うことになります。
契約不適合の修補が可能である場合には、通常、その修補代金額が損害として認定されることになります。
詳しくは「新築住宅の瑕疵担保責任は10年間!「住宅品質確保法」」をご参考ください。
それでは、修補が不可能である場合には、どのような損害が請求できるのでしょうか。
※1 改正前民法においては次のような規定があったため、注文者は建物が完成した後は、契約解除を行うことは出来ませんでした。
「改正前民法 634条 仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達することができないときは、注文者は、契約の解除をすることができる。ただし、建物その他の土地の工作物については、この限りではない。」
改正民法において、上記規定は削除されたため、建物完成後であっても契約解除の選択肢があり得ることになりました。ただし、契約解除まで認められるのは、(たとえば、居住を継続することが困難である等の)重大な契約不適合に限られるものと考えられます。
たとえば、民法412条の2において、「債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。」と規定されています。
つまり、特定の債務の履行が不能である場合、債権者はその債務の履行を請求することができません。
契約不適合の修補が不可能である場合、修補費用相当額を算定することもできません。
しかし、契約不適合が軽微とはいえない場合において、債権者が何も請求できないとなると、事情によっては不合理な結論になり得ます。
新築建物に契約不適合があり、当該契約不適合の修補が不可能な場合に、慰謝料という名目で損害賠償を認定した裁判例がありますので、ご紹介します。
発注者(原告)が業者(被告)から新築建物の引渡しを受けたところ、2階浴室入口の高さが仕様より高くなっていることが判明しました。
しかし、2階浴室入口の高さを下げるためには、浴室の床根太梁を下げる必要があるところ、対象建物は枠組み壁工法(いわゆるツーバイフォー)であったため、構造上、かかる工法を取ることができず、結局、修補できないことが分かりました。
そこで、原告は被告に対し、債務不履行に基づく損害賠償請求を行いました(※2)。
※2 複数個所の契約不適合が問題となっていますが、本コラムでは、修補不可能な個所のみを取り上げております。
裁判所は、2階浴室入口の高さを修補できない場合、修補代金を損害賠償として請求することはできないとした上で、この事情については、慰謝料額の算定において検討することとしました。
そして、原告が今後、浴室の入口の高い段差を我慢しながら生活しなければならないという点を考慮して、この点について、慰謝料30万円を認定しました。
原告は、新築マンションの1室を購入しました。マンションのパンフレットにおいて床暖房がついていると記載されているにもかかわらず、入居後、実際にはついていないことが判明しました。
仲介会社はパンフレットの記載と異なり、床暖房がついていないことを説明する義務を有していたところ、仲介会社はそれをきちんと説明していませんでした。
そこで、原告は、(建築業者に対しての請求ではありませんが、)説明義務違反を理由として仲介会社(被告)に対して、損害賠償請求を行いました。
この点について、裁判所は、床暖房がついていなかったことにより、原告が精神的損害を被ったと認定しましたが、認定した損害額はわずか5万円でした。
本件で、仮に、契約不適合の程度が居住を継続できない程度の重大なものである場合、契約解除の選択肢が考えらえます。
仮に、契約解除の選択肢が考えられない場合には、まず、対象箇所が本当に修補不可能であるのかどうかを、別の業者にも確認してもらった方がよいでしょう。
仮に、本当に対象箇所が修補不可能である場合には、残念ですが、修補代金相当額を損害賠償として請求することはできません。
その場合、慰謝料請求の可否を考えることになりますが、新築物件の契約不適合に関して、必ずしも慰謝料が認められている例が多いわけではありません。契約不適合の内容やその程度、実際に生じた損害の内容やその程度により、裁判所が判断することになります。
また、仮に認められたとしても、上記裁判例の通り、決して大きな金額にはならないのが一般的と言えます。
業者と損害賠償(慰謝料)について協議する際には、仮に訴訟になったとしても、多額の慰謝料を取ることは困難であることに留意しつつ、実際の生活において具体的にどのような支障が生じているかを丁寧に主張していくことになります。
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