コラム Column
弁護士(東京弁護士会)。慶應義塾大学法科大学院修了。
不動産トラブルに関する業務、家族信託・遺言作成業務などをはじめとする多岐の分野に携わる。
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【相談】法定更新となった場合に、更新料を受領できないのでしょうか。
私は、現在、所有しているマンションの一室を貸し出しています。
契約期間を2年とする普通賃貸借契約を締結していましたが、更新時に条件が折り合わず、更新手続きを行うことができませんでした。現在は、法定更新された状態になっています。
(※補足:法定更新とは、借家契約において、借地借家法の定めに基づいて自動的に契約期間が更新されること)
私が賃借人に対し、契約書の定めに基づいて月額賃料1か月分の更新料を請求したところ、賃借人は、法定更新の場合には更新料を支払う義務はないと主張し、更新料を支払おうとしません。
更新手続きを行うことができず、法定更新となってしまった場合、そもそも法定更新後の契約内容はどのようになるのでしょうか。
また、賃借人が主張するように、法定更新の場合には、更新料を請求することができないのでしょうか。
【回答】契約書において明確な規定がない場合、更新料を受領できない可能性があります。
法定更新の場合、更新後の契約は、期間の定めがないものとなります(借地借家法26条1項ただし書)。
更新後の契約内容は、期間の点を除けば、従前の契約と同一です。
更新料支払い特約がある賃貸借契約において、更新の合意がなされず、法定更新となった場合、更新料を請求できるか否かは、その特約の内容によります。
特約に、合意更新の場合のみならず、法定更新の場合にも更新料を支払う義務があると明確に定められていれば、法定更新後も更新料を請求できます。
法定更新の場合に関して明確な文言がないケースでは、法定更新時の更新料の支払義務について、裁判所の判断が分かれています。
肯定する裁判例においては、①賃貸借が期間満了後も継続されるという点は法定更新も合意更新も同じであること、②更新料は、実質的には更新後の賃料の一部前払いとしての性質を有すること等を前提として、当該事案における契約書の文言を解釈しています。
たとえば、契約書において、契約期間が満了しても更新条件について協議が整わないときは、「引続き暫定として本契約を履行する」ものとする定めがあった事案においては、法定更新時の更新料支払義務を肯定しました(東京地方裁判所平成5年8月25日判決)。
否定する裁判例においては、①法定更新の場合、賃借人に不利益な点が生じ得ること[1] 、②更新料が賃料の一部前払いとしての性質を有するとする経験則は認められないこと等を前提として、当該事案における契約書の文言を解釈しています。
東京地方裁判所平成30年1月30日判決の事案の賃貸借契約書においては、契約書の連帯保証に関する規定において、「1.連帯保証人は、乙(賃借人)と連帯して合意更新・法定更新にかかわらず、本契約が存続する限り、本契約から生じる乙(賃借人)の一切の債務を負担します。」と、合意更新・法定更新を問わず約定が適用される旨が明記されていました。
他方、更新に関する条項においては、「乙(賃借人)は、本契約を更新しようとする場合は、契約期間満了時までに」「更新料を甲(賃貸人)に支払う」と、合意更新・法定更新を問わず約定が適用されるとは記載されていませんでした。
上記規定の対比より、更新料の支払義務が発生する場面について、法定更新の場合は含まないとするのが、当事者の合理的意思解釈であると判断されました。
更新時に条件が折り合わなかったり、また、更新手続きを失念していたり等の理由で、法定更新となってしまうことはしばしばあります。
法定更新となった場合であっても更新料支払義務がある旨をきちんと規定しておかなければ、契約書の文言解釈によっては、更新料支払義務が否定されるリスクがあります。
かかる紛争を予防するために、賃貸借契約書において、以下のような規定を入れておくべきです。
「乙(賃借人)は甲(賃貸人)に対し、本契約を更新する際に、更新の種類にかかわらず、月額賃料○か月分の更新料を支払う。」
もし賃貸契約の更新などに関連したトラブルなどに遭ってしまった場合は、弁護士などの専門家に相談することをオススメいたします。
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[1] 合意更新の場合,賃貸期間中には解約申入れによって契約を終了させることができなくなる点で賃借人にとって法定更新よりも有利であるところ,更新料はこの解約申入れ権の放棄の対価たる性質を有すると説明されています(東京地方裁判所平成20年10月31日判決)。
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