コラムColumn

"現状有姿"の文言があれば、契約不適合責任を負わない?

投稿者名:宮川 敦子
投稿者資格:弁護士(東京弁護士会)

【相談】売買契約書に「現状有姿」で引き渡す旨の規定がある場合、売主は契約不適合責任を負わないのでしょうか。

 

私は、中古の商業用ビル一棟を購入しました。なお、売主は、宅地建物取引業者の資格を有しています。

 

建物の引渡しを受けた後、建物に欠陥が見つかったため、私は売主に対し、契約不適合責任(民法改正前は、瑕疵担保責任と言われていました。)を追及すべく、話合いを求めました。


すると、売主は、売買契約書において「現状有姿」と記載されているため、売主は契約不適合責任を負わないと主張し、話合いに一切応じてもらえません。

私は、売主に対し、契約不適合責任を追及することができないのでしょうか。

 

 

【回答】「現状有姿」売買とは、目的物に契約不適合があったとしても、売主は特に修繕等することなく、現状のまま引き渡せばよいというだけの話であり、別途、契約不適合責任を負うことはあり得ます。

 

売買契約書において、目的物を「現状有姿」にて引き渡す旨が規定されていても、それは、目的物に契約不適合があったとしても、売主は特に修繕等することなく、現状のまま引き渡せばいいというだけの話です。

 

「現状有姿」特約があったとしても、売主の契約不適合責任を免責するとの規定が置かれていない限り、買主は売主に対し、契約不適合責任を問い得ます。

 

ただし、売主が宅地建物取引業者である場合、契約不適合責任を免責する旨の規定を置いても、それは無効となります。

 

 

【解説】

 

契約不適合責任を免除する旨の規定

 

改正民法においては、買主が売主に対し、契約不適合責任を追及する期間について、契約不適合を知った時から1年と規定されています(民法566条)。

 

買主が契約不適合責任を知ったときから1年以内に、売主に対し通知をすれば、代金の減額請求、損害賠償請求等を行うことができます。

 

ただ、同条は強行規定(※1)ではないため、当事者間で協議が調えば、売主が契約不適合責任を一切負わない旨の規定を置くことができます。

 

しかし、例外があります。

 

売主が宅地建物取引業者である場合には、売主の契約不適合責任を免除する規定を置くことはできません。

 

宅地建物取引業法には、「宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、その目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任に関し、民法第566条に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない。」と規定されています(宅地建物取引業法40条1項)。

 

つまり、宅地建物取引業者が売主となる場合、契約不適合責任を免除する規定や、契約不適合責任を負う期間を引渡し時から2年未満とする規定等を置くことはできません。

 

仮に、売買契約書において、宅建業法40条1項に反する規定を設けても、その規定は無効となってしまいます(宅地建物取引業法40条2項)。

 

※1 「強行規定」とは、当事者が合意したとしても、当該規定に違反する契約をすることができない法律の規定をいいます。強行規定に違反した契約は無効となります。

 

 

「現状有姿」の文言で、契約不適合責任が免除されるか?

 

売買契約書において、売主は買主に対し、目的物を「現状有姿で引き渡す」と規定されていることがよくありますが、この文言があれば、売主の契約不適合責任が免除されることになるのでしょうか。

 

「現状有姿」特約の解釈について参考となる裁判例がありますので、以下、ご紹介します。

 

なお、この裁判例においては、「現状有姿」特約以外にも複数の争点がありますが、本コラムにおいては、「現状有姿」特約に関する部分のみをご紹介します。

 

東京地判平成28年1月20日

【事案の概要】

土地・建物を買い受けた原告が、建物に瑕疵があった等と主張し、売主たる被告に対し、損害賠償請求等を行いました。

 

なお、売買契約書においては、「売主は、後記売買土地上または地中に存するブロック塀、ネットフェンス、コンクリート敷、ゴミ置場施設・・・に付帯する電気、ガス、給排水設備、銃器・備品等一切を、引渡し時の現状有姿のまま買主に引き渡す。」旨の現状有姿特約が規定されていました。

 

被告は、この現状有姿特約は、本件建物を引渡し時の状態でそのまま引き渡すという意味であり、少なくとも現状から知り又は知り得る現状については売主は瑕疵担保責任を負わないという意味であると反論しました。   

 

【裁判所の判断】

「一般に現状有姿売買とは、契約後引渡しまでに目的物の状況に変動があったとしても、売主は引渡し時の状況のまま引き渡す債務を負担しているにすぎないという売買であると解されるところ、本件契約では第6条2項(※2)があるので、本件現状有姿条項があるからといって、売主の瑕疵担保責任が免責されるということはできない。」と判断した上で、「隠れた瑕疵が存在することが明らかとなった場合は担保責任を負う趣旨と解するのが相当である。」と判断しました。

 

つまり、目的物に契約不適合があったとしても、現状有姿特約があれば、売主は特に修繕等することなく、現状のまま引き渡せばいいということになります。

 

しかし、目的物に契約不適合があった場合の担保責任については別の次元の話であり、別途、売主の瑕疵担保責任を免責するとの規定が置かれていない限り、買主は売主に対し、契約不適合責任を問い得ることになります。

 

※2 6条2項として、「後期売買不動産について隠れた瑕疵があったとき・・・第4条規定の引渡し日より3か月間に限り売主が責任をもってこれを処理し買主に迷惑をかけてはならない。」、つまり、売主が一定期間、瑕疵担保責任を負う旨の規定が置かれていました。

 

 

本件について 

 

本件で、仮に、売買契約書において、「売主の契約不適合責任を免除する」旨の規定が置かれている場合でも、売主が宅地建物取引業者である以上、このような規定は無効となります。

 

そして、売買契約書において、「現状有姿」にて引き渡す旨が規定されていたとしても、上述のとおり、現状有姿売買であることと、売主の契約不適合責任を免責するということは別の次元の話です。

 

本件では、買主が売主に対し、契約不適合責任を問い得ることになります。