コラム Column

契約不適合に当たるか否かの判断基準


【相談】瑕疵ないしは契約不適合に当たるか否かの判断基準を教えてください。

私は、収益物件として、アパート1棟とその底地を購入することを考えています。

売主には、なるべく広い範囲で、瑕疵(改正民法においては契約不適合)担保責任を負ってもらいたいと考えています。

しかし、考えられる瑕疵について、売買契約書に網羅しておくことは困難だと思います。

購入後、アパートや土地に欠陥が見つかった場合、それが瑕疵に当たるか否かはどのように判断されるのでしょうか。

【回答】具体的な契約との関係で、当事者が合意した備えるべき品質・性能を確定した上で、その品質・性能を有しているか否かを検討することになります。

瑕疵ないしは契約不適合に該当するか否かを判断するには、具体的な契約との関係で、当事者が合意した備えるべき品質・性能を確定した上で、その品質・性能を有しているか否かを検討することになります。

民法改正で、瑕疵から契約不適合へ

瑕疵の定義に関して、改正前の旧民法においては、「隠れた瑕疵」としか規定されておらず、かつては、その解釈が問題になっていました。

多くの裁判例が、「瑕疵」を「売買の目的物が通常有すべき品質・性能を備えていないこと」であるとしてきました。

そして、「通常有すべき品質・性能」の判断基準に関して、最判平成22年6月1日は、契約当事者が、取引観念も斟酌して契約においてどのような品質・性能を予定しているかが基準となると述べました。

改正民法においては、「瑕疵」は、「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」と規定されました。

つまり、「瑕疵」は当事者が合意した契約内容に適合しないものであるという判例法理が、改正民法の条文において明確に規定されたことになります。

以上の経緯より、「瑕疵」と「契約不適合」とで、その判断基準が大きく変わるわけではありません。

また、民法改正によって不動産売買契約にも変化がありました。詳しくは「【弁護士解説】2020年民法改正による不動産売買契約の変更点とは」をご参考ください。

裁判例のご紹介

それでは、瑕疵ないしは契約不適合であるか否かを判断する際に、当事者が契約で合意していた内容がどのようなものであったかについて、裁判所は何を手掛かりにして判断するのでしょうか。

民法改正前の判例になりますが、契約の内容を考慮して、瑕疵であると認められた裁判例と、否定された裁判例を1件ずつご紹介します。

(1)瑕疵であることが認められた裁判例(東京地判平成17年12月5日)

【事案の概要】

原告は被告から分譲マンションを購入し、引渡しを受けましたが、その約1か月後に実施された室内空気調査で高濃度のホルムアルデヒドが測定されました。

原告は、販売促進用のチラシ等の表示によりマンションが環境物質対策基準に適合するものと認識して売買契約を締結したと主張し、売主の瑕疵担保責任に基づく契約解除や損賠賠償請求等を求めました。

【裁判所の判断】

裁判所は、当事者が契約で合意していた内容がどのようなものであったかを判断する過程において、以下の事情を重視しました。

・新聞折込チラシにおいて、「JAS(日本農林規格)のFcO基準」と「JIS(日本工業規格)のE0・E1基準」を満たしていること、「シックハウス症候群・・・の原因とされるホルムアルデヒドの発生を抑えるために・・・壁クロスの施工などにもノンホルムアルデヒドタイプの接着剤を使用」していることが明記されていた。

・パンフレットにおいても、新聞折込チラシと同様の上記文言が明記されていた。

・被告は、マンションの分譲にあたり、環境物質対策基準であるJASの基準及びJISの基準を充足する材料を使用した物件である旨をチラシ等にうたって申込みの誘引をなし、原告がこのような本件チラシ等を検討の上、被告に対してマンションの購入を申し込んだ結果、売買契約が成立した。

裁判所は、以上の事情を考慮して、当事者間で合意していた契約の内容について、「売買契約においては、本件建物の備えるべき品質として、本件建物自体が環境物質対策基準に適合していること、すなわち、ホルムアルデヒドをはじめとする環境物資の放散につき、少なくとも契約当時行政レベルで行われていた各種取組において推奨されていたというべき水準の室内濃度に抑制されたものであることが前提とされていたものとみることが、両当事者の合理的な意思に合致する」と判断しました。

つまり、分譲に際し、頒布されたチラシ等の記載を根拠に、マンションの室内空気中のホルムアルデヒド濃度が一定水準以下に抑制されていることが本件マンションの品質として契約上予定されていたものとして、本件マンションには「瑕疵」があると判断しました。

(2)瑕疵であることが否定された裁判例(東京高判平成15年9月25日)

【事案の概要】

原告は被告から、土地建物を購入したところ、その後、大雨により土地が冠水してしまいました。原告は被告に対し、本件土地は大雨の時などに冠水しやすい土地の性状であり、宅地として使用できない「瑕疵」があると主張し、損害賠償請求を行いました。

【裁判所の判断】

裁判所は、「瑕疵」とは、「当該目的物を売買した趣旨に照らし、目的物が通常有すべき品質、性能を有するか否かの観点から判断されるべきである。」とし、「本件のような居住用建物の敷地の売買の場合は、その土地が通常有すべき品質、性能とは、基本的には、建物の敷地として、その存立を維持すること、すなわち、崩落、陥没等のおそれがなく、地盤として安定した支持機能を有することにあるとされる。」と判断基準を示しました。

その判断基準に照らして、本件が「瑕疵」に該当するか否かを検討する過程において、裁判所は、以下の事情を重視しました。

・対象土地やその周辺道路は、台風等による大雨の際など、水が貯留しやすく、それによる冠水が生じやすい傾向が認められるが、それでも建物に床下浸水をもたらす程度にまでは至っていない。

・建物敷地としての利用に何らかの具体的支障が生じたなどの事情もうかがわれない。

・原告が問題にしている冠水は、通常の降雨によるものではない。

・本件土地での居住自体を困難とするものではない。

・本件土地と同様の冠水被害は、周辺一帯に生じていることがうかがわれるのであって、土地の価格評価にある程度織り込まれている可能性も否定できない。

裁判所は、上記事情を考慮して、本件は「瑕疵」に該当しないと判断しました。

紛争予防のために

瑕疵ないしは契約不適合に該当するか否かを判断するには、具体的な契約との関係で、当事者が合意した備えるべき品質・性能を確定した上で、その品質・性能を有しているか否かを検討することになります。

当事者の契約の内容としてどのような合意があるのかを契約書に網羅することは、現実的ではなく、限界があります。

上記裁判例においてご紹介しましたように、「契約の内容」がどのようなものであったかについては、契約書の文言のみならず、契約締結に至る過程において売主が目にした販売促進用のチラシ、契約の目的、取引通念等も踏まえて判断されることになります。

売主は、チラシ、説明資料等の記載や、買主に対し行う説明内容について、十分留意しなければなりません。

また、買主は、売主から説明を受けた重要な事項について、説明を受けた際に提示されたパンフレットその他の説明資料や、契約書等の書面においてきちんと記載されているかどうかを確認する必要があります。

もし売買契約書に関連したトラブルなどに遭ってしまった場合は、弁護士などの専門家に相談することをオススメいたします

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