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契約不適合責任免除の特約の効力

作成日: 2021/06/15 投稿者名:宮川 敦子
更新日: 投稿者資格:弁護士(東京弁護士会)
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【執筆者:宮川敦子】

弁護士(東京弁護士会)。慶應義塾大学法科大学院修了。

不動産トラブルに関する業務、家族信託・遺言作成業務などをはじめとする多岐の分野に携わる。





【相談】売買契約書において契約不適合責任免除の特約がある場合、売主が契約不適合を知らなかったことについて重過失があったとしても免責されますか。

 

私は、先日、所有していた土地を売却しました。

 

仮に地中埋設物等があった場合等に契約不適合責任を負うのを避けるために、売買契約書において契約不適合責任免除の特約を明記しました。

 

土地の引渡し後、その土地から地中埋設物が発見されました。

 

買主は、私が契約不適合を知っていて告げなかった又は知らなかったことにつき重大な過失があったと主張し、民法572条により、契約不適合責任免除の特約は適用されないと主張しています。

 

民法572条においては、売主が契約不適合の事実を「知りながら告げなかった」とき、つまり売主に故意がある場合には、契約不適合責任免除の特約が適用されないとされています。

 

売主に重過失があると言い得ても、故意がない場合には、民法572条は適用されないと考えていますが、その認識は誤っているのでしょうか。

 

【回答】この点について裁判例の判断は分かれており、民法572条が類推適用され、売主が免責されないこともあり得ます。

 

この点について、裁判所の判断は分かれています。


①売主に故意と同視できる重過失がある場合には、民法572条を類推適用して、契約不適合責任免除の特約を適用しないと判断したものと、②重過失の場合には、契約不適合免除の特約の効力は否定されないと判断したものとがあります。

 

売買契約に至るまでの過程において、㋐売主による事前調査の有無やその内容、㋑売主が事前調査を行うことの難易、㋒売主が買主からの問合せに対して真摯な対応を行ったか等を考慮して、売主を免責することが不合理だといえる事情がある場合には、売主に故意があるとまで言えない場合であっても、民法572条の類推適用を行い、売主が契約不適合責任を負うと判断される可能性があります。

 

 

【解説】

 

契約不適合責任免除の特約が適用されない場合

 

従前のコラムにおいて、売買契約書において契約不適合責任を負わない旨の特約を置く場合、「現状有姿で引き渡す」旨の文言では不十分であり、「契約不適合に関して売主の責任を免除すること」を明確に規定しておく必要があると説明しました(コラム「現状による引き渡し特約で大丈夫!?」をご参照ください。)。

 

しかし、「契約不適合に関して売主の責任を免除すること」を明確に規定した場合でも、民法572条により、契約不適合責任免除の特約が適用されないことがあります。


民法572条

売主は、第562条第1項本文又は第565条(※)に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。

※民法562条第1項本文および第565条においては、売主の契約不適合責任の内容が規定されています。

 

売主が契約不適合の存在を知っていたにもかかわらず、買主に対しそれを告げなかった場合、つまり、売主に「故意」がある場合には、契約不適合責任免除の特約が適用されず、売主は契約不適合責任を負うことになります。

 

それでは、売主に「故意」があるとまで言えなくても、契約不適合を知らなかったことにつき重過失がある場合には、契約不適合責任を免れ得るのでしょうか。

 

 

売主に「重過失」がある場合でも、契約不適合責任を免れる?

 

この点について、裁判所の判断は分かれています。


①売主に故意と同視できる重過失がある場合には、民法572条を類推適用して、契約不適合責任免除の特約を適用しないと判断したものと、②重過失の場合には、契約不適合免除の特約の効力は否定されないと判断したものとがあります。

 

現在、この点について判断した最高裁判例はなく、事案の内容によりいずれの判断にもなる可能性があります。

 

上記①、②のそれぞれの判断を行った裁判例をご紹介します。

 

なお、各事案において、他の法律構成(債務不履行責任や不法行為責任等)も問題になっていますが、以下では契約不適合責任についてのみ紹介しております。


①の判断をした事案(東京地判平成15年5月16日)

【事案の概要】

土地の売買契約書において、特約として「買主の本物件の利用を阻害する地中障害の存在が判明した場合、これを取り除くための費用は買主の負担とする。」旨の売主のための免責条項が規定されていた。土地の引渡し後、地中にコンクリートがら等の埋設物が存在していたことが分かった。

 

【裁判所が重視した事情】 

・本件売買契約時における買主からの地中埋設物のないことについての問いかけに対し、売主は、地中埋設物の存在可能性について全く調査をしていなかったにもかかわらず、問題はない旨の事実と異なる全く根拠のない意見表明をしていた。

・売主の上記意見表明をも前提として、契約不適合免責特約が置かれることになった。

・売主は、従前建物の解体撤去を自ら業者に依頼して行っていることからも、売主が地中埋設物の存否の判断の前提となる事実関係を説明することは極めて容易であった。

 

【裁判所の判断】

「被告は、少なくとも本件地中埋設物の存在を知らなかったことについて悪意と同視すべき重大な過失があったものと認めるのが相当であ」り、「本件免責特約によって、被告の瑕疵担保責任を免除されることは、当事者間の公平に反し、信義則に反することは明らかであって、」「民法572条を類推適用して、被告は、本件免責特約の効力を主張し得ず、」瑕疵担保責任を負う


②の判断をした事案(東京地判平成20年11月19日)

【事案の概要】

土地の売買契約において、地表から地下1mまでの範囲に限り、環境基準値を超えるヒ素が含まれていた場合に売主は契約不適合責任を負い、その責任期間は引渡しから6か月とされ、売主のための契約不適合責任免除の特約が限定されていた。

しかし、引渡しから6か月が経過後、地下1mまでの範囲において、環境基準値を超えるヒ素が発見された。

買主は、売主に故意又は重過失があったと主張して、契約不適合責任免除の特約は適用されないと主張した。

 

【裁判所が重視した事情】

・売主は、本件売買契約に先立ち、土壌汚染を調査した上で、専門業者らに本件土地の浄化工事を依頼し、この工事完了後の調査の結果として、ヒ素が環境基準時を下回るとの報告を受けていた。


【裁判所の判断】

民法572条は、「売主が知りながら告げない事実については、公平の見地から瑕疵担保責任の免責特約の効力を否定する趣旨のものである。」このような趣旨に照らせば、「本件瑕疵担保責任制限条項は、」「被告が悪意の場合に無効となるが、」「知らなかったことにつき重過失があるとしても、その効力が否定されるものはないと解するのが相当である。」


 

最後に

 

上述の通り、売主に契約不適合を知らなかったことにつき重過失がある場合、契約不適合責任免除の特約の効力については裁判所の判断が分かれています。 

 

民法572条の文言が重過失の場合に言及していないことをもって、重過失の場合の契約不適合責任免除の特約が常に有効であるとまで考えることはできません。

 

売買契約に至るまでの過程において、㋐売主による事前調査の有無やその内容、㋑売主が事前調査を行うことの難易、㋒売主が買主からの問合せに対して売主が真摯な対応を行ったか等を考慮して、売主を免責することが不合理だといえる事情がある場合には、売主に故意があるとまで言えない場合であっても、民法572条の類推適用を行い、売主が契約不適合責任を負うと判断される可能性があります。



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