コラム Column
弁護士(第二東京弁護士会)。
2017年に弁護士法人Martial Artsに入所し、不動産トラブルや賃貸借契約書に関する業務をはじめ、多分野にわたる法律業務に従事している。
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【相談】マンションの前所有者が滞納した管理費を支払う義務はあるのでしょうか。
昨年中古マンションを購入した。マンション購入の際に仲介業者からは1年分の管理費の滞納があることの説明は受けていたが、売主である前所有者からは売却代金で滞納した管理費を支払うと聞いていた。
しかし、前所有者は結局管理費を支払わない。このような状況で、今度は私が管理組合からその分の管理費を支払えと言われている。
前所有者の滞納した管理費を支払わなければならないのか。また、仮に私が前所有者が滞納した管理費を支払った場合、前所有者に対してその分を請求することはできるのか。
【回答】マンションの購入者は前所有者の滞納管理費の支払義務を引き継ぎます。
関連記事:【弁護士解説】マンションの管理費を滞納された場合の対処法
マンションを購入した者は前所有者が滞納していた管理費の支払義務を負いますので、管理組合から前所有者の滞納した管理費の支払いを求められた場合は支払わなければなりません。
もっとも、滞納分の管理費を支払った場合、今度はあなたが前所有者に対して、管理組合に支払った金額の返還を請求することができます。
多くのマンションでは、区分所有者であるマンションの各部屋の所有者に対して、管理規約や集会の議決等でマンションの管理費や修繕積立費(以下「管理費等」)の納入義務を定めています。
例えば、各マンションが管理規約を作成する際の参考として国土交通省が作成・公表している「標準管理規約」では、第25条1項において次のように定めています。
(管理費等)
区分所有者は、敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため、次の費用(以下「管理費等」という。)を管理組合に納入しなければならない。
一 管理費
二 修繕積立金
建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」といいます)では、「規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権」(同法7条1項)については、「債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる」(同法8条)と定めています。
管理費等の支払請求権は「規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権」に該当するとされています。
「区分所有者の特定承継人」とは、売買の買主や贈与を受ける者等の前所有者からそのマンションを譲り受けた者のことです。
つまり、管理費等を滞納しているマンション所有者からのそのマンションを購入した買主も、前所有者が滞納した分の管理費の支払義務を負うことになるのです。
なお、標準管理規約でも第26条において、管理費を滞納した前所有者からの特定承継人がその分の支払義務を負うことを定めています。
(承継人に対する債権の行使)
第26条 管理組合が管理費等について有する債権は、区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。
上記の区分所有法8条は、本来の債務者である前所有者に加えてその所有者から物件を購入した買主にも滞納分の管理費の支払義務を負担させるものですので、管理費等を滞納した前所有者は、そのマンションを売却すれば管理費の支払義務を免れるというわけではありません。
滞納した管理費に関する前所有者と特定承継人との間の関係について参考となる裁判例として、東京高判平成17年3月30日判時1915号32頁があります。
同裁判例は、「建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)8条は、同法7条1項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる旨規定しており、これによれば、被控訴人は、本件管理費等の滞納分について、控訴人の特定承継人として支払義務を負っていることは明らかである。これは、集合建物を円滑に維持管理するため、他の区分所有者又は管理者が当該区分所有者に対して有する債権の効力を強化する趣旨から、本来の債務者たる当該区分所有者に加えて、特定承継人に対して重畳的な債務引受人としての義務を法定したものであり、債務者たる当該区分所有者の債務とその特定承継人の債務とは不真正連帯債務の関係にあるものと解されるから、真正連帯債務についての民法442条は適用されないが、区分所有法8条の趣旨に照らせば、当該区分所有者と競売による特定承継人相互間の負担関係については、特定承継人の責任は当該区分所有者に比して二次的、補完的なものに過ぎないから、当該区分所有者がこれを全部負担すべきものであり、特定承継人には負担部分はないものと解するのが相当である。したがって、被控訴人は、本件管理費等の滞納分につき、弁済に係る全額を控訴人に対して求償することができることとなる」(下線:筆者)と判示しています。
「求償」とは、代わりに債務の支払いをした者が本来の債務者に対して支払分の返還を請求することをいいます。つまり、この裁判例の考え方からすれば、管理費を滞納した前所有者が本来的な債務者であるため、マンションの買主が滞納分を支払った場合は、前所有者に対してその分の返還を請求することが可能です。
上記のように、管理組合から前所有者の滞納した管理費の支払いを求められた場合はその管理費を支払わなければなりませんが、前所有者に対してその分の返還を請求することはできます。しかし、前所有者が素直に返還してくれるとは限りません。
そのため、そもそもこのようなトラブルを防ぐために、決済時に滞納管理費をその場で精算してもらうようにしたり、また、契約において滞納管理費は買主が支払うと定めてその分売買代金から控除する等の対策を講じたほうがよいでしょう。
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