コラム Column
弁護士(東京弁護士会)。慶應義塾大学法科大学院修了。
不動産トラブルに関する業務、家族信託・遺言作成業務などをはじめとする多岐の分野に携わる。
【相談】賃貸人が修繕工事を行うことを、賃借人が拒絶しています。
私は、5階建てのビル1棟を所有しています。各階に1件ずつあるテナントは満室の状態です。
先日行った定期点検により、エレベーターが老朽化して早急に修繕工事が必要な状態であることが判明しました。修繕工事に要する3日間は、エレベーターが全く使用できなくなるということでした。
各テナントに、修繕工事の日程とともに、エレベーターが3日間使用できなくなることを通知したところ、飲食店を経営している4階のテナントから、エレベーターが3日間も使用できなくなると商売にならない、修繕工事には承諾しないと言われてしまいました。
しかも、そのテナントは、エレベーターが3日間使用できなくなって売上が減少した場合、損害賠償請求をするとも言っていました。
私はどのように対応すればよいでしょうか。
【回答】賃借人には、賃貸人が必要な修繕工事を行うことを受忍する義務があります。
賃貸人は、契約に基づき定まった用法に従って、賃貸物を使用収益させる義務を負っています(民法601条)。
賃貸人がかかる義務を履行するためには、必要な修繕等を行い、賃貸物の現状を維持しなければなりません。
そして、賃貸人が賃貸物の現状維持のために必要な行為をしようとするとき、賃借人はこれを拒むことができません(民法606条2項)。
つまり、現状維持のために必要な修繕を行うことは、賃貸人にとって義務であると同時に権利であり、賃借人はこのような修繕の実施を受忍する義務があります。
本件のエレベーター修繕工事が、単なるグレードアップ工事等ではなく[1] 、現状維持のために必要な修繕である場合、4階のテナントが修繕工事に反対をしていたとしても、修繕工事を行うことができます。
それでは、賃貸人が現状維持のために必要な修繕工事を行う場合、テナントの売上減少等について損害賠償責任を負うことはないのでしょうか。
なお賃借人に一時退去する期間のホテル代を要求された場合については、「修繕工事による一時退去期間のホテル代は誰が負担するのか」で詳しく解説されていますので是非ご参考ください。
賃借人が賃貸人に対し、修繕工事期間中の売上が減少したと主張して損害賠償請求を行った事案(東京地方裁判所平成27年5月12日判決)が参考になります。
この事案では、原告である賃借人が工事の日程調整に協力的ではなかったことが原因で工事が長期化してしまったこと、賃貸人が工事を遅延させてテナントの営業を妨害する意図や行動があったとは認められないこと等の事情から、賃貸人に義務違反はなく損害賠償責任を負わないと判断されました。
賃貸人は、賃借人の反対があったとしても建物の現状維持のために必要な修繕工事を行うことができますが、義務違反であるなどと責められる隙を作らないように、工事の日程や時間帯等を十分に配慮し、各テナントに対して余裕をもって工事日程の通知・説明を行うようにしてください。
なお、賃貸借契約書において、「賃貸人は建物の維持保全に必要と認める修繕・変更・改造、保守作業を行うことができ、賃借人はその作業に支障が生じないよう協力しなければならない。修繕等及び修繕等に伴う停電・断水等により、賃借人の被った損害に対しては、賃貸人はその責めを負わない。」といった条項が入っていることがあります。
このような条項を入れておくと、各テナントへの通知・説明も円滑に進めやすいでしょう。
もしマンションの修繕などに関連したトラブルなどに遭ってしまった場合は、弁護士などの専門家に相談することをオススメいたします。
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[1]民法606条2項において賃借人が受忍する義務を負う「保存に必要な行為」(賃貸物の現状を維持するために必要な行為)は、賃貸人が行う修繕全般と比較すると、より狭い概念になります。
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