コラム Column

孤独死対策で「残置物の処理等に関するモデル契約条項」と活用方法を弁護士が解説 その1


こんにちは。平成生まれの戦う弁護士、坪井僚哉です。

前回は2回に分けて、家賃滞納入居者への建物明渡請求方法、それにかかる費用と時間、ワンポイントアドバイスなどを解説しました。

【弁護士解説】家賃滞納トラブル! 具体的な対処法を実例を元に解説

【家賃滞納】建物明け渡し訴訟にかかる費用や時間を弁護士が解説

今回のテーマは「孤独死対策」です。

なお事前の対策ではなく、賃借人が死亡してしまった場合については「賃借人(入居者)が死亡した場合の賃貸借契約や退去費用はどうなるか?弁護士が解説」で解説されているのでぜひご参考ください。

孤独死対策として「残置物の処理等に関するモデル契約条項」における2つの契約

部屋の中で誰にも看取られずに亡くなる「孤独死」は社会問題にもなっており、不動産投資と切っても切れない問題です。

今回の記事では、そんな孤独死に備え、知っておくと便利な「孤独死対策のための2つの契約」について解説します。

この契約を結んでおけば、自分の所有物件で孤独死が起きてしまった場合、賃貸借契約の解除や、遺品・残地物の処理をスムーズに進めることができるようになります。大家さんや大家さんから委託を受けた管理会社の方にも見ていただきたい内容です。

高齢者の方を入居させることは孤独死を代表とした色々なリスクがあり、綺麗事を抜きにすれば、やはり大家さんとしては入居させづらいという現実があります。

しかし、厚労省によれば、2008年には約20%だった高齢者は2030年には人口の30%を超え、2055年には40%を超えます。

そのため、高齢者を如何に入居させるかが大家さんや不動産会社の生き残りのために重要になっていきます。

高齢者の入居を難しくしている要因は大きく分けて3つです。

  1. 入居時の問題:連帯保証人や緊急連絡先を確保できるか不明
  2. 入居中の問題:認知症などで判断力が低下した場合の対処
  3. 賃貸契約終了時の問題:亡くなったとき、特に孤独死の場合に、賃貸借契約の解消や残置物、つまり遺品の処理に手間がかかり、次の入居に支障が生じる可能性がある

残置物の処理等に関するモデル契約条項とは

今回は3の賃貸借契約の解消や残置物の処理にスポットライトを当てます。

具体的には、高齢者相手の賃貸借契約で死亡後の解除と残置物処分を第三者に委任しておくためのモデル書式が令和3年6月に国交省から公表されたため、それをもとに解説していきます。

このモデル書式へのURLも貼っておきますので必要に応じてご参照ください。

▶国土交通省 残置物の処理等に関するモデル契約条項

このモデル書式は、入居者が孤独死したときに備えて賃貸借契約を解除できるようにするための契約と、残置物、つまり遺品を処分してもらえるようにするための契約です。

これからは単身の高齢者に入居してもらう場合はこの2つの契約を結ぶことが不動産業界全体でスタンダードになっていくと思います。

契約の活用タイミング

この2つの契約書は、

  1. 単身であり、
  2. 推定相続人、つまり入居者が亡くなった場合に相続人になるであろう人が連帯保証人になっていない
  3. 60歳以上の高齢者

が賃貸住宅を借りる場合に利用することが想定されています。

そのため、これらの3つの条件を全て満たす人から入居の希望があったときは、今回の記事を思い出していただければと思います。

これに対し、例えば孤独死の可能性が低い若年層に対して使うと民法90条や消費者契約法10条に反し無効となる可能性あるので注意してください。

内容的に細かく解説すると記事が非常に長くなるため、今回は大家さんや大家さんから委託を受けた管理会社目線で、わかりやすさ重視で要点を絞って解説していきます。

第1の契約:賃貸借契約の解除事務の委任に関する契約

まずは入居者が孤独死された時に、賃貸借契約を解除できるようにするための契約について解説します。

一言でいえば、入居者が亡くなったときに大家さんとの合意によって賃貸借契約を解除する代理権を第三者に与える契約です。入居者から代理権を与えられた第三者を「受任者」と言います。

大家さんと入居者と受任者の関係を説明すると、大家さんと入居者が賃貸借契約を結んで、入居者が受任者と解除関係事務委任契約を結ぶというイメージです。

なぜこんな契約を結ぶべきかというと、賃貸借契約は入居者が亡くなっても当然には終了せず、部屋を借りる権利は相続人に相続されますが、その際の様々な手間や不都合を回避するためです。大家さんは相続人が不明な場合は調査が必要ですし、契約を終了させるために法的手続きが必要となり、賃貸借契約を終了させるまでに手間も時間がかかることになります。しかもその期間は家賃が入らないことが多いのです。

そこで受任者に間に入ってもらって、受任者との間で賃貸借契約の合意解約や解除をできるようにしておくことが大事です。

誰を受任者とするかが重要なのですが、これは後で解説するとおり、推定相続人、つまり入居者がなくなったときに相続人になる人に受任者になってもらうのがベストです。それが難しい場合もあると思うので、そういう場合は入居者の費用負担で居住支援法人や管理業者などの第三者に受任者になってもらうのが良いです。

終身建物賃貸借契約では賃借権が相続されない

ちなみに裏技的な方法として、この契約の代わりに、普通賃貸借契約ではなく終身建物賃貸借契約を締結しておくという方法もあります。これは、入居者が死亡することによって賃貸借契約が終了する契約です。つまり賃借権が相続されない契約です。この契約であれば死亡とともに契約が終了するので、契約終了のために相続人への連絡は不要になります。事前に都道府県知事の許認可が必要であったり、基本的に入居者が60歳以上の場合にしか使えないといった制約があるのですが、細かい話になるので、今回は「そういった方法もあるんだ」ということは頭の片隅に入れておいていただけるとありがたいです。

ただし、終身建物賃貸借契約であったとしても、次に説明する残置物の問題が自動的に解決できるわけではないので、残置物については別途対策が必要です。その点はご注意ください。

第2の契約:残置物(≒遺品)の処理事務の委任に関する契約

次に、残置物を処理できるようにするための契約について解説します。

入居者の遺した遺品、残置物も相続の対象になるため、大家さんや管理会社は勝手に処分することができません。相続人に引き取りを求めるか、撤去の同意を得る必要があるのが原則です。さもなければ訴訟などの法的手続きを執らなければなりません。しかし、それは大家さんや管理会社からしたら非常に大変です。しかもその期間は、残地物が残っているせいで、次の入居者が入れられませんし、その期間は家賃は事実上取りっぱぐれてしまうことが多いのです。そのため、適切かつ迅速に残地物を処理できるようにしておくことが重要なのです。

そこで、第三者に間に入ってもらって、適切かつ迅速に残置物を処理できるようにするのがこの契約です。ここでも入居者から代理権を与えられた第三者が「受任者」となります。

この契約の内容について説明します。

最初に入居者が自分の持ち物を、自分が死んだときに特定の誰かに贈与したいものと、それ以外の処分をして良いものに分けます。

処理事務の受任者は入居者の区分に沿って、贈与先への贈与手続をしたり、贈与しないものについては売却・廃棄などをすることになります。売れたものについては処分にかかった費用を除いて、全額相続人たちに渡さなければならないのが原則です。受任者が勝手にお金をもらってはダメということですね。

誰を受任者とすべきかというのは、相続人がベストで、それがダメな時は入居者負担で居住支援法人や管理業者に頼む、というのは第1の契約と同じです。

長くなってしまったので一旦ここで区切ります。

後編では大家さんや管理会社がその2つの契約をどのように使いこなしていくか?をメインに解説していきます。

またお会いしましょう!

孤独死対策で「残置物の処理等に関するモデル契約条項」と活用方法を弁護士が解説 その2

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