コラム Column
2021年3月に現在の一歩法律事務所を設立。契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主として、インターネットを介した業務提供を行っている。
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【相談】貸し出している区分マンションの入居者に夜逃げされ、部屋の中に残置物などもあり困っています。勝手に中に入っていいのでしょうか?
貸出している区分マンションで家賃が支払われていない入居者がいたので、家賃の督促に行ったところ夜逃げされていることがわかりました。
窓から中を見てみると、大量の残置物(ごみなど)が見えており、途方に暮れております。
勝手に中に入ってよいのか、賃貸契約をどうしたらよいのか、残置物をどうするべきなのか。
教えていただけないでしょうか?
【回答】勝手に中に入ってはいけません。法的手続きを行うことで中に入ることができます。火災や事件性の疑いがある場合は消防・警察に通報しましょう。
端的にお答えしますと、勝手に中に入ってはいけません。訴訟提起して判決を得て、判決に基づく強制執行を行い、裁判所の執行官立ち合いのもとで開錠し、中に入ることができます。残置物の処分も強制執行手続きの中で行う必要があります。
もし窓から中を見て、火災のおそれや他に事件性の疑いがある場合には、消防・警察に通報し、消防署職員、警察官などの立会いの下で行ってください。
賃借人が家賃を支払わずに夜逃げされた場合、賃貸人としては腹立たしい気持ちになることでしょう。一刻も早く明け渡してもらい、清掃して新たな賃借人に貸したいという気持ちになることは当然です。
しかし、だからといって勝手に鍵を開けて中に入ることは、法律的には禁止されています。法律上は、明け渡しを求める正当な権利があったとしても、その手続きは裁判所が出す判決に基づいて行う必要があります。判決に基づかずに勝手に行うことは、「自力救済」といって、法律上は禁止されている行為です。
もし、賃借人が夜逃げしたからといって、勝手に鍵を開けて中に入ってしまった場合には、賃借人から、住居への不法侵入、プライバシーの侵害などとして損害賠償請求されたりするなど、余計なトラブルに発展しかねません。
実際に、賃料を滞納し賃貸人から契約解除された事案で、賃貸人が勝手に鍵を変えて賃借人を物件に入れないようにして無理やり追い出した事案で、賃借人から賃貸人への損害賠償が認められた事案もあります(東京地裁平成16年6月2日判決、大阪地裁平成25年10月17日判決など)。
賃借人に物件を明け渡してもらうためには、賃貸借契約を解除したうえで、裁判所で明渡しを命じる判決を出してもらう必要があります。これは、賃借人が夜逃げした場合でも同じです。
賃貸借契約を一方的に解除するためには、解除するだけの正当な理由が必要です。不動産の賃貸借については借地借家法で賃借人の保護が図られており、賃貸人から一方的に契約解除するためには、正当な理由が必要とされているのです。正当な理由の有無については、判例法理上、賃貸人と賃借人との信頼関係が破壊されていると言える程度の賃借人側の債務不履行が必要であるとされていて、賃料1ヶ月分の未払いだけでは信頼関係が破壊されたとはいえず、一般的には3か月分程度の未払いが生じる必要があるとされています。
夜逃げされたと思っても一時的に家を空けているだけのケースもありえます。目安としては、家賃の未払いが2か月分以上継続し、夜逃げされたと考えざるを得ない状況であれば、契約解除、物件の明渡しを求める訴訟手続きを検討すべきと言えます。
明渡訴訟については坪井弁護士のコラム「【家賃滞納】建物明け渡し訴訟にかかる費用や時間を弁護士が解説」で詳しく解説されていますのでご参照ください。
賃貸借契約を解除する場合には賃借人への解除通知の送達、明け渡しを求める訴訟提起した場合には被告となる賃借人への訴状の送達が必要となります。夜逃げされて賃借人の所在が不明な場合、これらの通知の送達ができないように思えますが、法律上、公示送達という方法により賃借人に送達したものとみなすことができます。
民法98条で、意思表示の相手方の所在が不明な場合には官報への掲載、ないしは役所で掲示することで、掲示から2週間を経過したときに送達したものとみなすという制度が定められています。契約解除通知については、この公示送達により、賃借人に解除通知が送達したものとみなすことができます。
また、訴状の送達についても、民事訴訟法110条以下で、同様に裁判所に掲示して2週間経過したときを以って訴状を送達したものとみなすと定められています。
家賃不払いのまま夜逃げされた場合には、家賃不払いを以って契約解除する旨の契約解除を通知し、未払家賃の支払いと物件の明け渡しを求める訴訟を提起して判決を得ることになりますが、賃借人への送達はこれら公示送達の方法で進めることができます。
なお、契約解除通知と訴訟提起については別個に行う必要はなく、訴状において、「本訴上の送達を以って本件賃貸借契約を解除する」旨を記載しておけば、訴状の公示送達の完了を以って契約解除の効果を発生させることができます。
賃貸借契約を解除し、未払家賃の支払いと物件の明け渡しを求める訴訟を裁判所に提起し、訴状の公示送達を行い、裁判所が定める口頭弁論期日に賃借人が答弁書を提出せず、かつ出廷もしない場合には、裁判所は、訴状記載の内容通りの判決を出してくれます。その判決が出てから控訴期間が経過することで(判決の送達も公示送達により行います)、その判決は確定し、判決に基づいて強制執行できるようになります。
判決が確定したら、判決を出した裁判所に執行分の付与を申立て、執行分を得たら強制執行の申立てを行います。そして裁判所が選任する執行官と日程などの調整を行い、まず、執行官と共に賃借物件を訪れ、明渡しの催告(執行催告)を行います。執行催告では、執行官が明渡しを強行する日(断行日と言います。断行日は執行催告の日の約一月後に設定されます)を記載した書面を物件に掲示します。
そして、断行日が到来すると、執行官が物件内に立ち入り、物件内の残置物を全て搬出し、鍵を変えます。実務上は、残置物の運搬する業者と鍵の業者を賃貸人(債権者)が手配して断行日に執行官の指示の下で行うというケースが多いです。
これで明渡しの強制執行が完了します。
強制執行については、「立退きしないときの最後の手段!強制執行とはどんな手続き?」でも解説されているので気になる方はご参照ください。
夜逃げされて物件内にごみなどの残置物がある場合、残置物も明渡しの強制執行の中で処分することができます。実務上は上記の執行催告の日に執行官は物件内の残置物について換価価値のあるものをリストアップしておき、明渡しの断行日にリストアップした換価物を第三者に売却します。一般的には債権者が債権者以外の第三者を同行し、買い取ってもらう形を取ることが多いです。売却によって得られた金員は執行費用に充当されます。明渡しの訴訟において未払賃料の支払いの判決も得ておけば、未払賃料に充当することもできます。
また、換価価値のないゴミなどの残置物は、断行日に搬出し、執行官が指定する場所にて一定期間保管し、期間経過後に破棄することができます。執行官が指定する場所としては、実務上は債権者が保管するという方法が取られることが多いです。
こうして、明渡しの強制執行(断行)により、物件内の残置物もすべて処分・破棄できます。
家賃の未払いや夜逃げされたからといって、勝手に中に入ってはいけません。事件性の疑いがあるのであれば、警察や消防に立ち会ってもらい、事件性がない場合には、賃貸借契約の解除を行い、明け渡しを求める訴訟を提起して判決を得て、強制執行を行うという裁判手続きを利用しましょう。
契約解除、訴訟提起、強制執行などの法律上の手続きについては、法律の専門家である弁護士にご相談ください。
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