コラム Column
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【相談】土壌調査をしたところ、地中に廃棄物が見つかりました。売主に契約不適合責任を追求しようとしたところ、既に時効によって請求権が消滅しています。他に売主に対して責任追及をする手段はありませんでしょうか?
私は、A土地を所有しています。
A土地は、もともと、私がマンションを建てるために購入したものですが、マンション建設の目途が立たなかったので、長年、放置していました。
最近になって、ようやくマンション建設の目途が立ったので、土壌調査をしたのですが、A土地の地中からフレコンバッグに入った廃棄物が発見され、A土地の土壌が汚染されていることが判明しました。
廃棄物を検査したところ、A土地を以前所有していた株式会社Y産業(以下、「Y社」という。)が、Y社の事業で生じた廃棄物をA土地の地中に埋めていたことが判明しました。
なお、A土地の売主に対して、契約不適合責任を追及しようとしたのですが、既に時効によって請求権が消滅しており、責任を追及することができません。
何か売主に対して責任追及する方法はありませんでしょうか?
【回答】契約不適合責任の他にも、土地の所有権に基づく妨害排除請求権によって、売主に対して、廃棄物の除去を請求することができます。しかし、廃棄物と土地との結合状態によっては、除去請求が認められないことがあります。
A土地の所有権に基づき、Y社が廃棄物によって甲土地の利用を妨害していると主張して、Y社に対して廃棄物の除去を請求するという方法が考えられます(このような権利を物権的請求権といいます。)。
もっとも、廃棄物と土地との結合状態によっては、土地と廃棄物が付合したと判断され、上記請求が認められないことがあります。
物権とは、人の物に対する権利であり、代表的な権利として所有権が挙げられます。そして、物権は、物の支配を内容とする権利ですから、他人が正当な権原なく、物の支配を侵害し、または侵害の具体的な危険を生じさせたときには、物に対する支配を回復・保全するために、物権的請求権が発生すると考えられています。
物権的請求権は、侵害の態様によって、次のように3つに区別されています。
まず、①物を占有することによって物権を侵害している者に対する返還請求権、次に、②占有以外の方法で物権を侵害する者に対して、その侵害の除去を求める妨害排除請求権、最後に、③物権侵害を生じさせるおそれがある者に侵害を生じないよう予防措置を求める妨害予防請求権があります。
妨害予防請求権については「妨害予防請求権の訴訟について弁護士が分かりやすく解説」で詳しく解説されています。詳しく知りたい方は是非ご参考ください。
本件は、甲土地の占有が奪われている事案ではありません(甲土地の地中に廃棄物が埋まっているだけです。)。また、現実に甲土地に対する侵害が生じている事案です。したがって、上記請求権のうち、①と③の成否は問題とならず、②の成否が問題となる事案であるといえます。
そこで、以下では、②の要件について確認することとします。
物権的妨害排除請求権が発生するための要件として、Ⅰ請求権者が物権(本件では、所有権)を持っていること、Ⅱ他人が物権の行使を妨げる侵害状態を生じさせていることが必要です。もっとも、物権に対する侵害状態が生じていたとしても、Ⅲ侵害状態を正当化する理由があるときには、妨害排除請求権は、発生しないと考えられています。
本件では、相談者様がA土地の所有権を持っていること、及びY社が廃棄物をA土地の地中に埋め立てたままにしておく正当な理由は挙げられていないことから、上記のうち、Ⅱが問題となるように思われます。
そして、土地所有者が、廃棄物の所有に対して廃棄物の除去を請求した場合、裁判例によると、廃棄物の所有者は、Ⅱの要件に関して、土地と廃棄物が付合しており、侵害状態が生じていないと反論することがあります。
そこで、以下では、まず、付合とはどのような制度なのかを確認し、次に、裁判例について確認することとしたいと思います。
民法第242条本文によると、「不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する」と規定されています。
たとえば、土地という不動産に、廃棄物が「付合した」と判断されると、その土地の所有者が、廃棄物の所有権を取得するということになります。そうすると、廃棄物の所有者が、土地に対する侵害状態を生じさせているとはいえず、上記2で述べたⅡの要件が認められないこととなりますから、妨害排除請求権の発生が認められないということになります。
したがって、ここでは、「付合」とはどのような意味なのか、その判断基準が重要な問題となります。
もっとも、学説上は、付合の判断基準について様々な見解がありますが、裁判例において、付合の判断基準は、それほど明確ではありません。裁判例が事案に応じて、様々な基準を用いて付合にあたるか否かを判断しているため、学説の中には、付合の成否について「単一の尺度によって図る」ことは困難であるという指摘さえあるほどです。※1
※1 松尾弘「付合法の現代的問題」内田貴・大村敦志編『民法の争点』(有斐閣,2007 年) 120-121 頁参照。
そこで、以下では、土地と汚染物質や廃棄物等(以下、「廃棄物等」という。)との付合の成否が問題となった事案で、裁判例がどのような判断基準によって、付合の成否を判断しているのかについて、若干検討したいと思います。
例えば、鳥取地判平16.9.7判時1888号126頁(以下では、「①裁判例」という。)は、前所有者から土地を買い受けた原告が、Y社に対しウラン残土(フレコンバッグに詰められた第1残土及び放置されていた第2残土)の撤去及び土地の明渡しを請求したという事案で、以下のように判示しています。
まず、「第1残土」は「本件撤去協定に基づき捨石の一部を撤去するため、被告がフレコンバッグに詰め、b捨石保管場に仮置きしたものであって、いずれは他所へ移動することを前提としていたもの」であり、「外形上、b捨石保管場の元来の土地とも容易に区別することが可能」である。したがって「本件第1残土は、b捨石保管場から独立性を有する動産であって、b捨石保管場と一体となったとはいえないから、b捨石保管場の土地に付合しているとは認められない」。
これに対して、「第2残土」は「それ自体何らかの経済的価値を有しているものではなく、今日まで独立して取引の対象とされたことはない」。また「借地契約に基づき、坑口付近のb捨石堆積場に堆積されたものであって、当時としては、上記堆積は当然のこととして予定されていた」。そして「ウラン残土(本件第2残土)は、昭和33年から同36年までの間にb捨石堆積場に堆積、存置された後、現在に至るまで、特段他所に移動されるなど形状が変更されたことはなく、その上には草木が生い茂っており、外形上は当該土地に元々存在した土砂と異なるところはない」。したがって、「本件第2残土は、存置されている土地から独立性を有しておらず、社会経済上当該土地と一体となったというべきであるから、当該土地に付合したと認めるのが相当である」。
次に、東京地判平8.8.27判時1609号99頁(以下では、「②裁判例」という。)は、原告が、被告日化工らが権原なく土地に六価クロム鉱さい処理施設(以下では、「本件処理施設」という。)を埋設しているとして、その収去を請求した事案で、以下のように判示しています。
「そもそも本件処理施設は、その完成により、本件土地の地中に埋設され本件土地に附着したものであり、その構造、規模などからすると、これを本件土地から分離することは物理的にかなりの困難を伴うことが予想される」。
また、「それ自体に本件土地と離れて取引の対象となり得る社会経済的な価値があるともいえないし、しかも、東京都も被告日化工も、本件処理施設の完成後は本件土地と一体のものとなると考えていることをも勘案すれば、本件処理施設は、その完成により、本件土地に付合して、本件土地の一部となった」。
以上の裁判例の内容からすると、土地と廃棄物等が付合するか否かを判断するに際しては、ⅰ廃棄物等が土地とは別個に独立性を有しているか否か、ⅱ廃棄物が土地とは別個に取引の対象になり得るか否かを主たる考慮要素としているように思われます。
本件では、契約不適合責任を追求することができないようですから、所有権に基づく妨害排除請求として、廃棄物の除去を請求することになります。もっとも、この請求が認められるか否かにとって、付合の成否が重要な問題になります。
本件では、廃棄物がフレコンバッグに詰められているということですので、土地との区別が容易であり、廃棄物が独立性を保っていると考えられます。そうすると、付合が否定され、除去請求が認められる可能性があります(①裁判例参照)。
もっとも、廃棄物は、通常、取引の対象となることは考え難いですし、①・②裁判例では、廃棄物が存置された当時に、土地の所有者や廃棄物の所有者が、どのような意図で、その廃棄物を存置したのかという主観的事情も加味して、付合について判断していますので、裁判所がどのような判断をするのか見通すことは難しい側面があります。
このように、土壌が汚染された土地を回復することは、困難を伴う場合がありますので、本コラム「土壌汚染の可能性がある土地購入の留意点」にもあるように、土壌汚染の可能性がある土地を購入する際には、契約締結時に、土壌汚染が判明した場合の責任の所在について明記しておくとともに、早期に、土壌の調査を行う必要があるといえるでしょう。
もし土壌汚染に関連したトラブルなどに遭ってしまった場合は、弁護士などの専門家に相談することをオススメいたします。
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