コラム Column

土壌汚染の可能性がある土地購入の留意点


【相談】土壌汚染の可能性がある土地を購入する場合の注意点を教えてください。

私が経営する会社の自社ビルの建設用地として、ある土地を購入する予定です。

その土地は、立地などの条件が申し分ないところ、他にも購入希望者がいるため、早急に売買契約を締結したいと考えています。

しかし、その土地上には、かつて化学薬品工場があったことから、土壌汚染がある可能性があります。

土壌汚染が発覚した場合には、売主に対し、必ず、契約不適合責任を追及することができるのでしょうか。

また、売買契約書の作成時に、買主側が気を付けておくことを教えてください。

【回答】事前に土壌汚染状況の調査を行うことを前提として、契約書において土壌汚染の調査方法・内容、土壌汚染が判明した場合の費用負担、浄化作業の方法・内容等を規定しておきます。

土壌汚染があるからといって、必ずしもそれが契約不適合であると判断されるものではありません。

土壌汚染が、契約不適合に当たるかは、契約の内容によって当事者が合意した土地の性状との関係で判断されます。当事者間で、特段の合意があればその合意が基準となります。

また、なるべく早い時期に、土壌汚染状況の調査を行っておくのが望ましいといえます。

事前に土壌汚染状況の調査を行うことを前提として、契約書において土壌汚染の調査方法・内容、土壌汚染が判明した場合の費用負担、浄化作業の方法・内容等を規定しておきます。

契約書作成時に、買主側にご留意いただきたい事項について、第3項においてご説明いたします。

土壌汚染は契約不適合に当たるか

契約不適合(民法改正前は、「瑕疵」と呼ばれていました。)とは、物が通常有するべき性質、性能を備えていないことをいいます。

当事者の合意および契約の趣旨その他の契約締結当時の事情に照らし、当事者間において予定されていた目的物の品質・性能を欠く場合、それは契約不適合であると認められます(最判平成22年6月1日)。

土壌汚染があるからといって、必ずしもそれが契約不適合であると判断されるものではありません。

土壌汚染が契約不適合に当たるかの判断基準に関して、以下の判例(最判平成22年6月1日)をご紹介します。

○事案の概要

売買契約の対象となった土地に、ふっ素が含まれていた。

売買契約締結時、土壌に含まれるふっ素については、法令に基づく規制の対象とはなっていなかった。

売買契約締結後、土壌汚染対策法が施行され、同法に照らすと、売買契約締結時に、人の健康を損なう危険があるふっ素が、土地に存在していることが判明した。

○判決の要旨

裁判所は、土地の土壌に、売買契約締結後に法令に基づく規制の対象となったふっ素が基準値を超えて含まれていたことについては、「瑕疵(※)」に当たらないと判断しました。

その判断においては、以下の点が重視されました。

①売買契約締結当時の取引観念上、ふっ素が土壌に含まれることが原因となって、人 の健康に被害が生じるおそれは、認識されていなかった。

②売買契約の当事者間において、土地が備えるべき属性として、その土壌にふっ素が含まれていないことや、人の健康に被害を生じさせるおそれがある一切の物質が含まれていないことが、特に予定されていた事情はなかった。

※民法改正後は、契約不適合と呼ばれています。

つまり、土壌汚染が、契約不適合に当たるかは、契約の内容によって当事者が合意した土地の性状との関係で判断されます。当事者間において、特段の合意があればその合意が基準となります。

そして、法令上の規制がある場合には、当該規制が当事者間の合意に反映され得ます。

土壌汚染が疑われる土地を購入する際の注意点

土壌汚染の除去費用は、膨大となることが考えられ、土壌汚染が判明すると、紛争は深刻になります。

そのため、なるべく早い時期に土壌汚染状況の調査を行ったうえで、契約締結、決済などに至るのが望ましいといえます。

土壌汚染は地中に存するがゆえに、調査を行わなければ、その存否が分かりません。

まず、既に、土壌汚染状況の調査が実施されているのであれば、売主に対して調査結果を求めます

提出された調査結果に疑念がある場合や、そもそも売主が調査結果を保有していない場合には、あらためて土壌汚染状況を調査する必要が生じます

土壌汚染が疑われる土地を購入する際の契約書作成における注意点

契約書作成時における買主側の注意点として、以下が挙げられます。

  • 土壌汚染状況の調査を行う場合、契約書において、調査費用や浄化費用をいずれが負担するのかを明記しておきます。
  • 買主側が調査費用や浄化費用を負担して、調査・浄化作業を行う場合、売買代金から、調査費用・浄化費用を控除することになります。この場合、買主側で業者を選択することができるため、調査結果について信頼を置くことができるというメリットがあります。
  • 売主側が調査費用や浄化費用を負担して、調査・浄化作業を行う場合、契約書において、①調査方法・内容、②土壌汚染の定義(特定できる範囲で、汚染物質やその基準値を特定します。)、③浄化の定義(浄化作業の方法・内容を記載します。)をできるだけ明確にしておくことが重要です。
  • 売主側が調査・浄化作業を行う場合、買主側が調査・浄化作業に立ち会うことができる旨、売主側が事前・事後の報告義務を負う旨などを規定しておきます。
  • 売主が予定日までに浄化作業を完了しない場合、買主が浄化作業を実施したうえで売主へ費用請求できる条項を入れておくことも検討します。
  • 引渡後に発覚した新たな土壌汚染について、売主の契約不適合責任を免除しないことも規定しておくことも必要です。
  • 浄化費用は膨大となることが考えられます。売主側が浄化費用の負担をする場合、売主の資力について確認しておく必要があります。必要に応じて、浄化費用を補償する保険に加入してもらう選択肢等も検討することになります。

事前調査が困難であっても、買主が調査を行う等の事項を売買契約の中で合意しておきましょう

仮に、事前に調査を行うことが困難である場合であっても、たとえば、契約締結後の一定の期間内に、買主が調査を行う等の事項を売買契約の中で合意しておきます。

その場合にも、調査費用の負担や、土壌汚染が判明した場合の損害額の算定方法やその賠償方法について、売買契約の中で規定しておくことが必要です。

また、土壌汚染が判明した際については「土壌汚染が判明した場合の対策|土地所有権に基づく除去請求の可否」をご参照ください。

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