コラム Column
弁護士(東京弁護士会)。慶應義塾大学法科大学院修了。
不動産トラブルに関する業務、家族信託・遺言作成業務などをはじめとする多岐の分野に携わる。
【相談】隣地所有者が工事を行うことにより、自分の土地に土砂が流れる等の損害が生じる危険性がある場合、何らかの措置を取ってもらうことができるでしょうか。
弊社が所有する土地の隣地の所有者が、もともと隣地内に設置していた塀を建設し直すことになりました。
新設後は、その塀の基礎が現在のものより浅くなってしまうようですが、法令等に照らして、特に違法な工作物となるわけではないようです。
しかし、周辺の土地の地盤がもともと弱いこともあり、塀の基礎が浅くなることで、弊社所有の土地の地盤に何らかの影響が出るのではないか懸念しています。弊社の土地には、重い機材等を置いているため、非常に心配です。
当の隣地所有者からも、弊社所有の土地において、何らかの補強措置を取った方がよいのではないかと言われました。
現段階では危険性の程度が明らかではなく、弊社は、建設工事について、差し止め請求を行うことまでは考えていませんが、隣地所有者に何らかの安全予防措置を取ってもらうことができないでしょうか。
【回答】隣地所有者に対し、所有権に基づき妨害予防請求を行うことが考えられます。
①自己と隣地所有者の土地の所有関係、②自己の土地において生じ得る危険性が客観的にみて極めて大きいものであること、③危険性が生じる原因が隣地所有者の土地にあることを立証できる場合には、隣地所有者に対し、所有権に基づき妨害予防請求を行うことが考えられます。
原則として、土地の所有者は、自身の土地を自由に使用できますが、隣地所有者に迷惑を掛けるような使用方法を取ることは許されず、自己の使用方法が原因で隣地に何らかの損害が発生した場合には、その損害を賠償する責任があります。
隣地所有者の使用方法により、自己の土地に損害が生じる危険性がある場合において、話合いにより解決できなければ、 最終的に、妨害予防請求を行う訴訟を提起することが考えられます。
妨害予防請求訴訟においては、請求を行う側が、①自己と隣地所有者の土地の所有関係、
②自己の土地において生じ得る危険性が客観的にみて極めて大きいものであること、③危険性が生じる原因が隣地所有者の土地にあることを主張、立証しなければなりません(東京高判平成元年1月31日等)。
①については、土地登記事項証明書等により、主張・立証は容易です。
しかし、②や③の主張・立証のハードルは極めて高いといえます。
②に関して、裁判例の動向を見ますと、請求者は、地形・地質の構造、降雨量との関係、地震時のリスク等に関する専門家の意見書や、鑑定書を取得する等して、客観的かつ具体的に危険性があることまでを主張・立証する必要があります。
妨害予防請求を行う裁判例においては、請求者の単なる「危惧感」を超えて、高度の危険性・蓋然性があることの主張・立証まで行わなければ、請求が棄却される傾向にあります。
仮に、ご相談者と隣地所有者との間で、協議が調わない場合には、ご相談者が妨害予防請求の訴訟を提起する選択肢を検討することになります。
その場合、隣地で塀の新築工事が行われることにより、隣地からご相談者所有の土地に土砂が流れ出してくる等の客観的かつ具体的な危険性があることについて、専門家の意見書や鑑定書を取得する等して主張・立証する必要があります。
しかし、意見書や鑑定書等の取得には、それなりの費用を要します。
客観的かつ具体的に危険性があることについて立証できそうである場合はよいですが、そうでない場合には、ご相談者に生じ得る具体的リスクを隣地所有者に説明した上で、たとえば、費用を両者が負担して予防措置を取る選択肢等、柔軟に協議することを検討いただくことがよいと考えます。
隣地所有者が工事を行った後、同工事が原因で、隣地の土砂がご相談者所有の土地に流れ出す等して、実際にご相談者に被害が生じた場合には、どのような手段を取ることになるのでしょうか。
その場合には、ご相談者は隣地所有者に対し、土砂を除去せよと所有権に基づく妨害排除請求を行うことができます。
ただし、その場合においても、隣地所有者が行った工事と損害との間に、因果関係があることの立証が必要になります。
その因果関係が明らかでない場合には、やはり、専門家の意見書や鑑定書等を取得して、因果関係を立証することになります。
また、因果関係が立証できて、土砂を除去等して妨害を一時的に排除してもらったとしても、再度、土砂が発生する危険性が高い場合には、さらに擁壁設置工事をするなどの妨害予防措置を講じるよう請求することが考えられます。
隣地の擁壁や土壌汚染に関する妨害予防請求については、以下の記事をご参照ください。
「隣地の擁壁が崩れそう! 所有者に擁壁修繕工事を請求することはできる?」
「土壌汚染が判明した場合の対策|土地所有権に基づく除去請求の可否」
もし不動産に関連したトラブルなどに遭ってしまった場合は、弁護士などの専門家に相談することをオススメいたします。
当サイトでは無料で弁護士などの専門家に相談することができますので、もしお困りの際は是非ともご利用ください。
無料会員登録はこちらから。
不動産投資DOJOでは、弁護士や税理士などの専門家に無料相談可能です。
専門家からの回答率は94%以上。
会員登録(無料)で、どなたでもご利用いただけます。
会員登録(無料)していただいた方には、「不動産投資を学べるeBook」のプレゼント特典もあります。ぜひご登録ください。
「人生を変える不動産投資を学べる堀塾を運営しています。不動産投資を学びたいのなら、ぜひご検討ください。
体験セミナーを募集中です。」
体験セミナー詳細はこちら
宮川 敦子さんのバックナンバー
▶宮川 敦子さんのコラムをもっと見る