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内縁の夫が亡くなった場合の賃貸借契約

投稿者名:宮川 敦子
投稿者資格:弁護士(東京弁護士会)

【相談】内縁の夫名義で借りているマンションに関して、夫が私より先に亡くなった場合には、私は出ていかなければならないのでしょうか。

 

私は、内縁の夫とマンションの1室を借りて住んでいます。

 

そのマンションは夫名義で借りています。

 

私は60歳を超え、夫は70歳を超えており、そろそろお互いが亡くなったときのことも考えなければならないと思っています。

 

夫名義で借りているマンションに関して、夫が私より先に亡くなった場合には、私は出ていかなければならないのでしょうか。

 

【回答】賃借権も相続財産であるため、仮に、内縁の夫に相続人がいる場合には、相続人が相続することになり、ご相談者は出ていかなければならない可能性があります。

 

賃借権も相続財産であるため、仮に、内縁の夫に相続人がいる場合には、相続人が相続することになり、ご相談者は出ていかなければならない可能性があります。

 

それを避けるためには、ご相談者が内縁の夫と入籍して、相続人になることが考えられます。

 

他の選択肢としては、賃貸人の承諾が必要になりますが、内縁の夫がご相談者に対し、賃借権を遺贈する旨の遺言を書く方法が考えられます。

 

また、今後、終身建物賃貸借の制度の利用を考えてみられることも、選択肢の一つです。同制度は、内縁関係の場合にも利用することが可能です。

 

【解説】

 

借地借家法上の救済(相続人がいない場合)

 

借地借家法に以下の条文があることから、亡くなった内縁の夫に相続人がいない場合、内縁の妻は、原則として借家の賃借権を承継して、居住を継続できます。


借地借家法36条1項

居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する。ただし、相続人なしに死亡したことを知った後1月以内に建物の賃貸人に反対の意思を表示したときは、この限りではない。

「相続人なしに死亡した場合」と限定されているように、亡くなった内縁の夫に相続人がいる場合には、相続人の権利が優先されることになります。

 

賃借権も相続財産であるため、相続人が賃借権を相続することになります。

 

内縁の夫に相続人がいる場合には、ご相談者は出ていかなければならないことになり得ます。

 

 

内縁の夫に相続人がいる場合の選択肢

 

(1)入籍する選択肢

 

内縁の夫に相続人(子や兄弟姉妹等)がいる場合、ご相談者はどのような対応を取っておくできでしょうか。

 

一つ考えられるのが、入籍する選択肢です。

 

入籍すれば、ご相談者は内縁の夫の相続人として、借家権を相続することになります(民法890条)。

 

ただし、内縁の夫が負債を抱えている場合には、その負債も相続することになりますので、内縁の夫の財産状況によっては、デメリットも生じ得ます。

 

 

(2)遺贈する旨の遺言を作成する選択肢

 

入籍する選択肢のほかに、内縁の夫に、借家権をご相談者に遺贈する旨の遺言を作成してもらうことが考えられます。

 

ただし、このような場合、内縁の夫からご相談者に対し賃借権が譲渡されるということになりますので、その譲渡について賃貸人の承諾が必要になります(民法612条)。

 

なお、相続の場合には、包括承継(※)ですので、賃貸人の承諾は必要ありません。

  

※包括承継とは、他人の権利・義務関係を(相手方の承諾の有無にかかわらず)一括して承継することです。

 

 

終身建物賃貸借とは

  

終身建物賃貸借とは、高齢の単身者や夫婦世帯等が、最期まで安心して賃貸住宅に住み続けられる制度です。

 

この制度は、高齢者の安定確保に関する法律により、平成13年に創設されました。

 

賃借人が死亡することによって賃貸借契約が終了する(相続されない)ことになっていますが、賃借人が死亡した時も配偶者が継続して居住できるように配慮されています(高齢者の居住の安定確保に関する法律62条)。

 

賃借人が死亡した場合、その配偶者は賃借人の死亡した後も1か月間は継続して居住することができ、その間に賃貸人に対して自分と終身借家契約を締結することを求めることができます。

 

そして、かかる請求を行えば、以後、当該配偶者と賃貸人との間で終身借家契約が締結されることになります。

 

以下、同制度について、簡単にご説明いたします(引用:国土交通省住宅局作成「終身建物賃貸借制度の概要」)。


○終身建物賃貸借を行うためには、「認可」が必要。

終身建物賃貸借を行うためには、都道府県知事から、終身賃貸事業を行うための認可を受ける必要があります。

 

○利用者の要件

以下の条件を満たす者が、終身建物賃貸借の契約を結ぶことができます。

①自らが居住するため住宅を必要とする60歳以上の高齢者であって、

②・(a)賃借人となる者以外に同居する人がいない者(単身高齢者)  

・同居する者が(b)(内縁含む)配偶者(高齢夫婦)

        (c)60歳以上の親族(高齢親族)

※60歳以上の高齢者の配偶者は、当該高齢者と同居する場合、自身が60歳未満であっても入居できます。また、自身が契約者となることも可能です。

 

○終身建物賃貸借のメリット

終身建物賃貸借以外の契約では、賃借人が死亡した場合、借家権が相続されます。この場合、賃貸人に

・残置物の処理に手間がかかる

・相続人の有無が不明な場合、まず相続人を捜索する必要が生じる

・相続人が複数名存在し、その相続関係が確定していない場合は、全員に対して解除の意思表示を行う必要が生じるといった負担が生じます。

 

⇒賃借人の死亡とともに終了し、相続されない借家契約である終身建物賃貸借を用いることで、賃貸人の負担を減らすことができます。また、高齢者が家を借りやすくなります。

上記「○利用者の要件」における「配偶者(高齢夫婦)」には内縁関係にある者も含まれます(同法7条1項4号)。

 

ご相談者のように内縁関係のご夫婦の場合でも、終身建物賃貸借の制度も利用は可能ですので、同制度の利用を考えていただくのも、1つの選択肢です。