コラム Column

格安物件を購入する際の留意事項 -使用借主に対する建物収去土地明渡請求-


【相談】使用貸借契約に基づく敷地利用権をもとに建物が建っている土地を購入する予定なのですが、土地購入後、その建物の所有者に建物を収去して土地を明渡すように請求することはできるでしょうか?

私は、不動産投資用の土地を探していたところ、Aさんが所有する好立地の土地(以下、「Q土地」という。)を見つけたため、株式会社X不動産(以下、「X不動産」という。)に、AさんとQ土地購入のための交渉をしてもらうこととしました。

X不動産によると、Q土地は更地であれば、2億円の価値が見込めるものの、現況調査を行ったところ、Q土地の上には、Aさんの近親者であるBさんが所有するP建物があり、P建物には、Bさんが居住中であるようです。そして、Aさんは、Bさんに対する土地の明渡しに要する費用を考慮して、Q土地を6000万円で譲ってもよいとおっしゃっているそうです。

私は、Q土地を購入してもよいかなと思っています。しかし、明渡しに要する費用を考慮しても、あまりに代金額が安いと感じたため、Q土地の購入を躊躇していました。

そこで、なぜQ土地が安価なのか、また、土地の明渡請求は可能なのか、X不動産に質問したところ、X不動産から次のような回答がありました。

「AさんとBさんは、親族関係にあり、AさんはBさんに、Q土地を無償で使用させてきたそうなのですが、両者の関係が悪化したため、Aさんは、Bさんに対してQ土地の明渡しを求めたそうです。しかし、Bさんは、全くこれに応じる気配がなかったそうです。Aさんは、Bさんと縁を切りたいので、売却価格が安くても、できるだけ早期にQ土地を売ってしまいたいという意向が強いようです。

また、Bさんは、使用貸借契約に基づいてQ土地を利用しているだけですので、『売買は使用貸借を破る』と考えられますから、Q土地購入後のBさんに対するP建物収去土地明渡請求も容易に認められます。」

X不動産の回答によると、Q土地を購入した方が良いとは思うのですが、私は、Q土地の購入後、P建物を取り壊して、別の建物を建築することを予定しているため、Bさんには、絶対に退去していただきたいのです。X不動産の言うように、土地の明渡しは認められるのでしょうか?

【回答】土地の使用借主である建物の所有者に対して、建物収去土地明渡請求をすることは可能です。ただし、明渡しに際して、立退料を支払わなければならない可能性があります。

貸主ではない土地所有者から、土地の明渡しを借主が請求された場合、借主は、その土地に使用貸借契約に基づいて敷地利用権を有していることを土地所有者に対して対抗することができません。したがって、借主は、建物収去土地明渡請求に応じなければならないのが原則です。

しかし、裁判例によると、一定の場合には、その明渡請求が権利の濫用(民法第13項参照)にあたるとして、権利の行使が制限されています。

もっとも、裁判例は、権利濫用と判断される場合であっても、立退料の支払と土地の明渡しを引換えにするのであれば、権利濫用にはならないとも判示しています。

したがって、土地の借主である建物の所有者に対して、土地の明渡しを求めることは可能であるものの、一定の場合には、明渡しに際して、立退料を支払わなければならない可能性があるといえるでしょう。

使用貸借契約は、第三者に対抗できない?

まず、使用貸借契約とは、どのような契約なのか条文を見ながら確認してみましょう。民法第593条によると、使用貸借契約は、「当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる」契約です。

ここで大切なことは、使用貸借契約は、あくまでも、貸主と借主との間で成立し、その効力を有するのであって、貸主と借主以外の第三者に対しては、契約の効力は及ばないということです。

これがどのようなことを意味しているのかについて、使用貸借契約の目的物が、契約当事者以外の第三者に売買されて、当該第三者が、その目的物の所有者となった場合を例に考えてみましょう。

例えば、使用貸借契約の目的物α(以下、「α」といいます。)を貸主から譲り受けた第三者が、αを使用している借主に対して、αの所有権に基づきαの返還を請求したとします。

この場合、貸主・借主間の使用貸借契約の効力は、第三者に対して及ばないため、借主は、第三者との関係では、αを使用する権利を有していないこととなります。したがって、借主は、第三者に対してαを返還しなければなりません。※1

このように、貸主・借主間で成立した使用貸借契約の効力が第三者に対して及ばない(したがって、使用貸借契約の存在を主張して、その効力を第三者に対抗することができない)ことから、「売買は使用貸借を破る」ことになります。※2

裁判例の動向-権利行使の制限と金銭給付-

以上の説明からすると、使用貸借契約の目的物を買受けた第三者から、その物の返還を請求された場合、借主は、常にその物を返還しなければならないように思われます。

しかし、民法は、権利の行使が正当と思われない場合に、「権利の濫用は、これを許さない」(同法1条3項)と規定し、権利の行使を制限しています。

そして、裁判例には、この規定を用いて、借主の保護を図っているものが存在します。

例えば、東京高判平30..23判時2409号42頁は、使用貸借を敷地利用権とする建物が存在する土地(更地価格約2億6000万円)を6827万6800円で買受けたXが、その建物を所有するYに対して、建物収去土地明渡請求訴訟を提起したという事案で、大要、以下のように判示しています。

「Xは、①本件土地上にYらが本件建物を所有して、Y1が本件建物で生活していることを認識しつつ、②高齢で本件土地をめぐる権利関係を十分に把握しているとは思われない訴外Aから、極めて低廉な底地価格でもって本件土地を購入して巨額な経済的な利益を得た上、③本件建物の敷地利用権が使用貸借であって対抗力を有しないことを奇貨として、本件土地の使用借人であるYらの生活等に及ぼす影響等を考慮せず、……巨額な利益を保持したまま本件…請求をしていることになるから、権利の濫用に当たるというべきである」

もっとも、「引換給付(※)の内容いかんによっては、権利の濫用になる」とはいえない。なぜなら、「Aは、XからYらに対して1億円で本件建物を買い取るという提案がされるとの前提で、…売買契約に踏み切っており、Xもそのような説明をしたところ、仮にこのような高額の立退料が支払われるのであれば、Xの利益も著しい暴利とまではいえないし、……Yらの利益は十分に保護されているとみられる」等の事情からすれば、「本件…請求は、Yらに対し1億円の支払いをすることが引き換えであれば、権利濫用とはならない」からである。

※引換給付とは、ここでは建物収去土地明渡しと引換えになされる給付を意味しています。

本件について

上記裁判例を前提にすると、本件では、相談者様は、①P建物にBさんが居住中であることを認識されており、②更地価格2億円のQ土地を6000万円で購入する予定なのですから、巨額な経済的利益を得ると言えそうです。また、Bさんの生活状況に何らの考慮をすることなく、Bさんに建物収去土地明渡請求をしたとすると、③P建物の敷地利用権が使用貸借であって対抗力を有しないことを奇貨として、巨額の経済的利益を保持したまま当該請求をしたと評価される可能性があります。そうすると、権利の濫用であると判断される可能性があるといえそうです。

もっとも、この場合には、裁判例を前提にすれば、Bさんに対して、一定の金額の立退料を支払えば、権利濫用とはならないのですから、土地明渡請求をする場合には、立退料と土地明渡しとの引換えを主張することになるでしょう。

なお、立退料がどの程度の額であれば、権利濫用にならないと判断されるのかは、事案によって異なります。上記裁判例では、1億円でしたが、東京高判平5.12.20判時1489号118頁では、不動産取引の実情等を考慮して立退の補償金を5000万円であると判示しています(※)。

以上からすると、本件のような土地を購入する場合には、専門的な知見が必要となりますから、法律的知識はもとより、不動産取引の実情に精通した専門家と土地を買受けた後の見通しについて、よくご相談いただいた方がよいでしょう。

※東京高判平5.12.20では、次の事情を考慮して、立退料を5000万円とすると判断しました。

㋐被告(使用借主)は、本件土地上の建物に適法に50年近くも居住していること、㋑被告は高齢で病弱であること、㋒原告は、不動産取引についての知識を有しているのに、本件土地の取得に当たり、その地上建物の所有者が有する利用権限について調査していないし、原告と十分に明渡しの交渉をしていないこと、㋓原告が立退料として支払うことを申し出ている4200万円では、周辺の不動産取引の実情からみて、被告が同程度の土地(利用権)建物を取得することは困難であること。

1 なお、使用貸借契約によって発生する権利は、債権と呼ばれ、特定の人が特定の人に対してのみ主張できる権利であるのに対し、物に対する権利である物権(例えば、所有権)は、誰に対しても主張することができます。このため、αを譲受けた第三者はその所有権を借主に対して主張することができます。

2 一般には、「売買は賃貸借を破る」といわれます。なお、賃貸借契約では、不動産賃貸借の場合に、第三者対抗力が認められていることにつき、民法605条、借地借家法10条及び同法31条参照。

もし土地の明渡しに関連したトラブルなどに遭ってしまった場合は、弁護士などの専門家に相談することをオススメいたします

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