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マンションの管理規約がペット飼育不可に変更された場合の対応

投稿者名:坂井智典
投稿者資格:弁護士(第一東京弁護士会)

【相談】マンションの管理規約がペット飼育不可に変更された場合に従わなければならないでしょうか?

 

私は、Aマンションに居住しており、ペットを飼育しています。昨今、Aマンション付近の価格相場が上がっており、また、周辺にペットの飼育ができる物件の数が少ないことから、ペット可の条件で近隣よりも価格を高めに設定して、Aマンションの部屋を転売することを予定していました。

しかし、最近、Aマンションでは、ペットを飼育している居住者のマナー違反が原因で、Aマンション管理規約が変更され、Aマンションでは、今後、新たにペットを飼育することはできなくなってしまいました。

 

私は、購入者がペットと共に快適に生活できるように、部屋をリノベーションしており、それなりの投資をしていたので、このような管理規約の変更には、納得できません。

 

管理規約の変更に従わなければならないのでしょうか?

 

【回答】管理規約の変更が、適法になされた場合には、変更された規約に従わなければなりません。

 

まず、マンションの管理規約を変更するためには、マンションの区分所有者等(※)の4分の3以上の多数による集会の決議が必要になります。そして、この決議の要件を満たしていないときには、管理規約の変更は無効です。無効な管理規約の変更に従う必要はありませんから、このときには、その変更に従う必要はありません。

 

次に、管理規約の変更が有効である場合には、その規約の変更が、一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすときには、その承諾を得なければなりません。そうすると、ペット不可という管理規約の変更が、一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすといえ、かつ、その承諾を得ていないときには、管理規約の変更は、無効となります。このときにも、無効な管理規約の変更に従う必要はありませんから、その変更に従う必要はありません。

 

※区分所有者とは、区分所有権を有する者をいいます。区分所有権とは、一棟の建物の中の構造上区分された部分で独立して住居、店舗、事務所、倉庫その他建物としての用途に供することができるものを目的とする所有権をいいます。
要するに、マンションの一室に対して、所有権を持っているというイメージです。

 

【解説】

 

管理規約変更の要件について


マンションの管理規約を変更するには、建物の区分所有等に関する法律(以下、「区分所有法」といいます。)に定められている手続に従う必要があります。

 

そして、区分所有法31条1項前段は、「規約の設定、変更又は廃止は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議によってする」と規定しています。この決議要件を満たしていなければ、変更の手続は無効となります。

 

もっとも、区分所有法31条1項後段は、上記の要件が満たされている場合であっても、一部の区分所有権者が、規約の変更等によって不利益を被ることを防止するために、「規約の設定、変更又は廃止が一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」と規定しています。

 

以上の規定によると、区分所有者のうち、多数の者が管理規約の変更に賛成していたとしても、一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすときには、その一部の区分所有者が、管理規約の変更に承諾しないとすることで、その変更を無効とすることができることになります。

 

そうすると、管理規約の変更に反対する区分所有者にとって、この承諾をすることができるか否かは、非常に重要な問題になるといえます。そして、その承諾の可否を判断するうえで重要な要件が、「特別の影響を及ぼすとき」という要件です。

 

では、本件のようなペット飼育不可とする管理規約の変更が、一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすときにあたるのでしょうか?

 

 

ペット飼育不可と「特別の影響」

 

このような問題についての裁判例として、東京高判平6..4判時1509号71頁があります。

 

飼い主の身体的障害を補充する意味を持つ盲導犬の場合のように何らかの理由によりその動物の存在が飼い主の日常生活・生存にとって不可欠な意味を有する場合には、動物の飼育を禁止することは飼い主の生活・生存自体を制約することに帰するものであるから、その権利に特段の影響を及ぼすものというべきである。

 

・これに対し、ペット等の動物の飼育は、飼い主の生活を豊かにする意味はあるとしても、飼い主の生活・生存に不可欠のものというわけではない
そもそも、何をペットとして愛玩するかは飼い主の主観により極めて多様であり、飼い主以外の入居者にとっては、愛玩すべき対象とはいえないような動物もある。
犬、猫、小鳥等の一般的とみられる動物であっても、そのしつけの程度は飼い主により千差万別であり、仮に飼い主のしつけが行き届いていたとしても、動物である以上は、その行動、生態、習性などが他の入居者に対し不快感を招くなどの影響を及ぼすおそれがあること。
以上の事情を考慮すれば、本件規約のように動物飼育の全面禁止の原則を規定しておいて、例外的措置については管理組合総会の議決により個別的に対応することは合理的な対処の方法というべきである。
裁判例の事案では、本件犬の飼育はあくまでペットとしてのものであり、本件犬が家族の生活・生存にとって客観的に必要不可欠の存在であるなどの事情はない本件規約改正は、区分所有者の権利に特別の影響を与えるものではない

 

 

この裁判例は、様々な理由を挙げていますが、間違いを恐れずにいえば、動物の存在が飼い主の日常生活・生存にとって不可欠な意味を有する場合を除き、ペットの飼育不可とする規約の変更は、区分所有者の権利に「特別の影響を及ぼすとき」にあたらないと判断しています。

 

このような裁判例に対しては、既にペットを飼育している区分所有者が伴侶動物と別れなければならないことを考慮すると、ペットの飼育を不可とする規約の変更は、区分所有者の権利に「特別の影響を及ぼすとき」に該当するのではないかとの見解が示されています。そして、この裁判例の判断とは異なる裁判例が登場する可能性を示唆しています。

 

このような見解によると、既にペットを飼育している人は、管理規約の変更によって、「特別の影響」を及ぼされたとして、規約の変更を争う余地があるでしょう。

 

 

本件について

 

これまで見てきたところからすると、Aマンション管理規約について争うためには、まず、4分の3以上の多数による集会の決議がなされたかを確認し、その要件が満たされていないのであれば、規約の変更に従う必要はありません。

 

そして、上記の要件が満たされているときには、管理規約の変更が、「特別の影響を及ぼすとき」にあたるかを検討することになりますが、裁判例の判示内容からすると、動物の存在が飼い主の日常生活・生存にとって不可欠な意味を有する場合といえなければ、これにあたらないことになりそうです。

 

もっとも、新たな裁判例が現れる可能性があるという指摘があることからすると、この点を争ってみる余地があるかも知れません。

 

1 渋谷寛・佐藤光子・杉村亜紀子『〈トラブル相談シリーズ〉ペットのトラブル相談Q&A〔第2版〕』(民事法研究会、2020年)115頁参照。