コラム Column
弁護士(東京弁護士会)。慶應義塾大学法科大学院修了。
不動産トラブルに関する業務、家族信託・遺言作成業務などをはじめとする多岐の分野に携わる。
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【相談】賃貸借契約書で現状有姿で引き渡し、貸借人が修繕義務を負わない旨の特約が規定されている場合、賃貸人は修繕義務を負わないのでしょうか。
私は、2階建ての事務所用ビル1棟をA社に貸し出しています。
A社から、雨漏りがするため、屋根を修繕するよう要求されました。
しかし、賃貸借契約書においては、建物の修繕に関して、「甲(賃貸人)は、乙(賃借人)に対し、本件建物を現状有姿で引き渡し、乙が使用に必要な修繕を行う。」とだけ規定されています。
私は、この規定に基づき修繕を拒絶して、賃借人に修繕をしてもらおうと考えていますが、問題ないでしょうか。
【回答】建物の構造部分や通常損耗の修繕義務については、賃貸人が負わなければならない可能性があります。
賃貸人には賃借人に対象物件を使用収益させる義務があり、それに伴い、賃貸人が修繕義務を負うのが原則ですが、賃貸借契約書において、賃借人が修繕義務を負う特約が置かれていることがあります。
ただし、この賃借人修繕義務特約が規定されている場合でも、特約の効力の及ぶ範囲がしばしば問題になります。
土地、設備一切を含むゴルフ練習場の賃貸借において、一切の補修経費については賃借人の負担とする旨の規定があった場合に、ゴルフ練習場の構造物の修繕義務を賃借人が負うかが問題となった事例があります(東京高等裁判所昭和59年10月30日判決)。
裁判所は、「構造物」の「破損についてまで借主に修繕義務があるとするにはよほど明確な約定があることを要する」と判断し、賃借人の構造物の修繕義務を否定しました。
また、賃借人の明渡時の修繕義務について、「賃借人が本件建物を明け渡すときは、賃借人は畳表の取替え、襖の張替、クロスの張替、クリーニングの費用を負担する。」と規定されていた事案で、通常損耗に係る修繕義務の所在が問題になりました(東京地方裁判所平成12年12月18日判決)。
裁判所は、「本件特約条項は公序良俗に反するものとは認められないし、特約の文言解釈上、自然損耗分を含まない趣旨であると解釈するのも困難であり、当事者双方において本件特約条項を限定的に理解して契約を締結したという事情も認められないのであるから、」「本件特約条項は文言どおりの拘束力をもつといわざるを得ない。」と述べ、賃借人の通常損耗の修繕義務を肯定しました。
小修繕のみならず、通常賃貸人が義務を負う建物の構造部分(躯体・屋根等)や通常損耗の修繕義務までを賃借人に負わせたい場合には、賃貸人の根本的な義務を賃借人に転換することになることから、その旨を明確に規定しておかなければなりません。
たとえば、以下のような特約を置いておくことが考えられます。
「甲(賃貸人)は、乙(賃借人)に対し、本件建物を現状有姿で引き渡し、乙が使用に必要な一切の修繕義務を負うものとする。乙が負う修繕義務の範囲は、小修繕のみならず、躯体・屋根等の構造部分、畳・襖・壁・クロス・建具・設備等の通常損耗を含むがこれらに限られない。」
今回、ご相談者が使用する賃貸借契約書において、修繕に関して、「甲(賃貸人)は、乙(賃借人)に対し、本件建物を現状有姿で引き渡し、乙が使用に必要な修繕を行う。」とのみ規定されています。
この規定ぶりですと、小修繕のみならず、通常賃貸人が義務を負う建物の構造部分(躯体・屋根等)や通常損耗の修繕義務までを賃借人が負う旨が明確になっているとは言えません。
そのため、裁判等で修繕義務の所在が争いになった場合には、建物の構造部分である屋根については、賃貸人であるご相談者が修繕義務を負うと認定される可能性が高いと言えます。
関連記事:「設備付きの賃貸物件の場合、設備の修繕義務は誰が負うのか?」
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