コラム Column
弁護士(第二東京弁護士会)。
2017年に弁護士法人Martial Artsに入所し、不動産トラブルや賃貸借契約書に関する業務をはじめ、多分野にわたる法律業務に従事している。
【相談】賃借人が賃貸店舗を経営委託として第三者に営業させることは転貸に当たらないでしょうか。
事業用店舗を飲食店として賃貸しているところ、あるときから飲食店の名前が変わり、賃借人ではない第三者が店を運営しているようでした。賃貸借契約では転貸を禁止しているため、賃借人に事情を聴くと、当初は賃借人自身で飲食店の営業をしていたのですが、今は第三者に経営委託しているとのことでした。なお、第三者が営業することは賃借人から聞いておりません。
経営委託とはいっても店舗を第三者が使用している以上転貸と変わらないのではないかと思いますので、無断転貸として賃貸借契約を解除したいと思っています。
【回答】賃借人と第三者との間の経営委託の具体的内容によっては転貸と評価される場合があります。
経営委託契約の内容によっては、建物の賃貸借と評価される場合があります。
例えば、受託者(賃借人から店舗経営を受託して営業している者)が自己の計算で経営を行っている、受託者が飲食店の営業許可を取得している、飲食店の収益にかかわらず受託者から賃借人へ毎月一定額の金銭を交付している等の事情がある場合は、経営委託契約という形式であっても、実質は賃貸借契約であると評価されると考えられます。この場合、賃借人から受託者への無断転貸となりますので、背信的行為と認められない特段の事情の無い限り、賃貸借契約を解除することが可能です。
店舗内での営業を第三者に委託する場合、経営委託や経営委任といった契約が締結されることがあります。
経営委託契約は大別すると、狭義の経営委託契約(経営委任契約)と経営管理契約に分けられます。
狭義の経営委託契約は、受託者が自らの計算で営業を行い、収益にかかわらず一定の金銭を委託者に支払うものをいいます。他方、経営管理契約は、受託者が委託者の計算で営業を行い、収益額に応じた金銭を支払う契約です。
経営委託契約は、契約書の表題は賃貸借ではないものの、受託者が営業のために店舗を使用することから、その内容によっては賃貸借であると評価されることがあります。
経営委託契約が賃貸借と評価されるかどうかは、受託者の建物使用態様、売り上げや報酬の仕組み、委託者から受託者への指揮監督の状況、営業における計算の帰属、営業許可や内装工事の主体などを総合考慮して判断されます。狭義の経営委託の場合は、店舗の賃貸借を含む契約であると評価されやすいと思われます。
(1)最判昭和39年9月24日集民75号445頁
この判例は、経営の委任の形式であっても、受任者が自己の計算において自己の裁量に従って経営を行い、委任者に対して一定の金銭を支払うことを約しているような場合、その実質は営業の賃貸借にほかならないとして、賃借人(委託者)から受託者に対する転貸借契約が成立したものと認めるのが相当であると判断しました。
(2)大阪高判決平成5年4月21日判時1471号93頁
この裁判例は、賃借建物につき、賃借人が第三者に飲食店の店舗営業全般の管理をさせ一定の金銭の支払いを受けている事案において、当該第三者の建物利用は転貸借にあたると判断されたものです。
本件では、受託者から委託者へ毎月定額の50万円を支払うものと合意され、実際にその金額が支払われてきたこと、営業実績が受託者から委託者に報告されていないことなどから上記50万円は飲食店の利益や損益にかかわらず支払われると推認されること、材料の仕入れや従業員の給料その他の必要経費はすべて受託者の計算においてなされていること等から、飲食店の営業に関する契約は、受託者の計算で営業を行う狭義の経営委任であり、実質は営業の賃貸借であると認めるのが相当であると判示しました。そのうえで、営業の賃貸借により賃借建物を利用するためには建物の占有移転を要するところ、建物利用関係の移転は建物の転貸借に当たると認められると判断しました。
(3)東京地判平成20年6月6日LLI/DB 判例秘書登載
この裁判例は、第三者が建物を占有していることについて、賃借人が転貸ではなく店舗経営委託であると主張する事案につき、まず、転貸に該当するか否かについては、受託者が本件建物を独立して使用収益しているかどうかを基準として判断するのが相当であるとの判断基準を示しました。そのうえで、本件では、受託者が委託者に敷金300万円や礼金63万円を支払っていること、受託者が営業主体の名義を変更して独自の屋号で営業し、人件費や光熱費を含む管理費用を支払って事業を営んでいること、事業収益は受託者に帰属していること、受託者において税務申告をしたうえ事業税の支払いまでしていること等の事情から、受託者は本件建物を独立して使用して占有していることが明らかというべきである、すなわち、転貸に該当すると判示しました。
大阪地判平成4年3月13日判タ812号224頁
百貨店の地下において、百貨店から業務委託を受けて管理運営している会社から、更に業務委託を受けて飲食店を営んでいる会社との間の契約について賃貸借契約にあたるか否かが判断された裁判例です。
同裁判例では、受託者の売り場部分における営業は相応の独立性を有するものの、賃貸借契約に通常付随する権利金、敷金等の授受がないこと、委託者の収得する金員も日々の売上金の一定割合をもって定められる歩金であって賃料とはまったく異なること、百貨店や委託者が売り場の位置の指定又は変更を指示することができること、飲食店営業許可は百貨店の名で受けていたこと等の事実関係と、百貨店は顧客のニーズに合わせて売り場やレイアウトを適宜変更する必要があるため、本件でも建物内で営業する外部業者との契約にあたっては賃貸借契約とは異なる契約である必要があったという事情からすれば、賃貸借契約ということはできず、借家法の適用のない販売業務委託契約であるというべきであると判断しました。
以上の各判例・裁判例からすると、個々の具体的な事実関係のもと、受任者が自己の計算において自己の裁量に従って経営を行い、受任者に対して一定の金員を支払ったといえるかどうかが、賃貸借と評価されるか否かの分水嶺であると思われます。
実際の事案において経営委託が賃貸借にあたるかどうかは、個々の事案の具体的事情を詳細に検討する必要がありますので、弁護士等の専門家に相談することをお勧めいたします。
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