コラム Column

眺望の良さが売りのマンション購入後に眺望が損なわれたら不動産屋さんに損害賠償を請求できるか


【相談】販売したマンションから花火が見えなくなり苦情が寄せられています。

有名なテーマパークの花火が毎日見えるところを売りにしてマンションを販売した分譲業者です。販売後、目前に別の高層マンションが建築されて花火が見えなくなり、購入者から苦情が寄せられています。法的な責任を負う可能性はあるでしょうか。

【回答】売主は、損害賠償責任を負ったり、契約を解除されるおそれがあります。

事前の説明不足で損害を受けた場合については、当コラム「不動産投資で説明不足!? 隣人トラブルの説明義務」でも解説していますのでご参考ください。

損害賠償責任や契約解除の可能性あり

ご相談者様(売主)が眺望について保証する特約をした場合には、保証特約違反となり、債務不履行に基づく損害賠償責任(民法415条)を負うことになります。

保証特約が存在しない場合でも、眺望に関する説明義務が生じている場合には、説明義務違反となり、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償責任(民法415条、民法709条)を負う可能性があります。

また、説明義務違反がマンションの売買契約を締結する目的の達成に重大な影響を与える場合には、債務不履行に基づき当該売買契約が解除される(民法541条)おそれもあります。

眺望に関する保証特約の存在は認められにくい

有名なテーマパークに近いマンションや海に近いリゾートマンションは、眺望の良さがセールスポイントとなっており、宣伝の際に強調されることも少なくありません。

どこまで強調されていた場合に眺望に関する利益を保証する保証特約がなされたといえるかを一概に語ることは難しく、個別具体的な事情に沿って判断するしかありません。

この点につき、次の裁判例が参考になります。

東京地裁平成5年11月29日判決(判時1498号98頁)

東京地裁は、「いわゆるリゾートマンションであるとしても、そのリゾートマンションとしての価値は、単に、各室からの眺望のみならず、マンション周辺の自然環境及びレジャー施設、大都市からのアクセスの容易性、マンション自体の設備の内容、各室の間取り等種々の要素により決定され、かつ、右のような要素のいずれに重きを置くかは購入者の主観に大きく左右されるものであり、また、眺望自体、その性質上、周囲の環境の変化に伴い不断に変化するものであって、永久的かつ独占的にこれを享受し得るものとはいい難いところである。」とし、眺望に関する保証特約を否定しました。

下線部のように眺望はあくまでひとつの要素にすぎず、変化が生じることが不可避であるという性質を持つため、眺望に関する保証特約が存在すると認められにくい傾向にあるといえるでしょう。

眺望に関する保証特約が存在すると認められる場合には、花火が見えなくなって眺望が害されたことを理由に、債務不履行に基づく損害賠償責任(民法415条)を売主として負うことになるでしょう。

眺望に関する説明義務違反は裁判によって結論が分かれる

マンションの売主が、眺望に関する説明義務を負うかどうかは、買主の主張する眺望の利益が法的保護を受けられるか否かで決まります。

眺望に関する売主の説明義務については、次の裁判例がリーディングケースとされています。

東京高裁昭和51年11月11日決定(判時840号60頁)

東京高裁は、「眺望利益なるものは、個人が特定の建物に居住することによって得られるところの、建物の所有ないしは占有と密接に結びついた生活利益であるが、もとよりそれは、右建物の所有者ないしは占有者が建物自体に対して有する排他的、独占的支配と同じ意味において支配し、享受する権利ではない。」

「もっとも、このことは、右のような眺望利益がいかなる意味においてもそれ自体として法的保護の対象となりえないことを意味するものではなく、このような利益もまた、一個の生活利益として保護されるべき価値を有しうるのであり……当該建物の所有者ないし占有者によるその建物からの眺望利益の享受が社会観念上からも独自の利益として承認せられるべき重要性を有するものと認められる場合には、法的見地からも保護されるべき利益であるということを妨げない」としています。

眺望の利益は、原則として法的保護を受けられないものの、独自の利益としての重要性が認められれば、例外的に法的保護を受けることができるということです。結局のところ、個々の事案から個別具体的に判断していくしかないことになります。

この裁判例を前提として、説明義務違反を肯定した裁判例と否定した裁判例を1件ずつご紹介いたします。

説明義務を肯定した裁判例は、次のとおりです。

大阪高裁平成11年9月17日判決(判タ1051号286頁)

京都市内のマンションにつき、買主が、西窓から二条城が見れるという眺望を重視して購入に至ったという事案です。

本件では、マンションの売買がマンション未完成の間に行われたところ、大阪高裁は、「完成前のマンションの販売においては、購入希望者は現物を見ることができないから、売主は購入希望者に対し、その売買予定物の状況について、その実物を見聞できたのと同程度までに説明する義務があるというべきである。」として説明義務を認めています。

そして、売主の説明が完成後の状況と一致せず、かつ、そのような状況があれば、買主が購入することはなかったとして、売主の説明義務違反を認めました。

他方、説明義務を否定した裁判例は、次のとおりです。

大阪地裁平成11年12月13日判決(判時1719号101頁)

大阪市内のマンションの売買についての事案で、大阪地裁は、「客観的に見ても、本件居室が事実上享受していた眺望利益はさほど大きくなかった」としました。

そして、売主はセールストークにおいて、眺望を長期間にわたり享受できるとまでいっておらず、また、付近にマンションが建設される計画を知らず、容易に知ることのできる立場にもなかったことから、売主の説明義務違反を認めませんでした。

一般には、売主が眺望を強調したり、売主自ら眺望を妨げるような行為に出た場合には、説明義務違反が肯定されやすいとされています。他方、売主が眺望に影響を及ぼす事情につき調査を尽くし買主に説明していた場合には、説明義務違反を否定する方向に傾くでしょう。

説明義務違反が認められれば、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償責任(民法415条、民法709条)を負う可能性があります。

また、説明義務違反が契約の目的達成に重大な影響を与える場合には、債務不履行に基づき当該売買契約を解除されるおそれもあります。

※最高裁平成23年4月22日判決(民集65巻3号1405頁)は、説明義務違反につき不法行為構成によるべきであると判断しています。本稿では、一般的な説明をするにとどまらざるを得ませんが、実際には、この判決を踏まえて損害賠償請求や解除の成否を検討する必要があるでしょう。

まとめ

建物の売主は、販売する建物の眺望に関する状況につき調査を慎重に行い買主に対し丁寧な説明を心掛けるようにしましょう。

万が一、説明義務違反等を買主から主張された場合であっても、実際の裁判では結論が分かれ得るところですので、弁護士に相談するなど専門家に頼ることをおすすめします。

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