コラム Column

どのような場合に契約締結上の過失になるか弁護士が解説


【相談】購入希望者の求めにしたがい準備をしたのに、売買契約締結を拒絶されてしまいました。

新築のマンションの一部屋につき売買契約を締結する予定でした。

購入希望者は多くの機材を用いるそうで、購入希望者の求めにしたがって、その部屋のみ電気容量を増加するための設計変更や施行を行いました。しかし、購入希望者は、契約締結直前になって気が変わったと言って一方的に契約締結を拒絶してきました。

売却を準備した者として購入希望者に対し、何か請求はできませんか。

【回答】契約締結上の過失を理由に、購入希望者に対し、損害賠償請求ができる可能性があります。

諸般の事情を考慮して、契約締結交渉の成熟度が高く買主に信義則違反と評価される帰責性があるといえる場合には、買主が売買契約の締結に応じなかったことは契約締結上の過失にあたり、買主に対して支出した工事費用等についての損害賠償請求を行うことができます。

契約締結上の過失の類型

契約準備交渉段階に入った当事者間の関係は、契約締結を目指す特別の取引的な関係にあるので、お互いに相手方に損害を被らせないようにする信義則上の義務を負います。そして、契約の準備交渉段階での言動が原因となり交渉相手方に損害を生じさせ、その点につき落ち度がある者は、この信義則上の義務に違反したとして、相手方に対し、損害賠償責任を負うことになります。

これを法律の世界では契約締結上の過失の問題といいます。

※なお、契約締結上の過失の法的性質を、債務不履行責任と不法行為責任のいずれと捉えるかについて議論がありますが、この点につき、最高裁平成23年4月22日判決(民集65巻3号1405頁)は不法行為責任であると判断しています。

契約締結上の過失は、次の3つの類型に分けることができるとされています。

①契約無効型

契約は締結されたものの、原始的不能(契約内容とされた債務を履行することが契約締結時点で既に不可能となっていた場合のこと)等の理由により契約が不成立又は無効とされる類型です。

②交渉破棄型

契約締結に向けて交渉が行われたものの、結局契約締結に至らなかったという類型です。

③不当表示型

契約は有効に締結されたものの、その過程及び内容が一方当事者に不利であったという類型です。

本件は、交渉破棄型にあたる事案ですので、以下この類型に絞ってご説明差し上げます。

交渉破棄型の要件

交渉破棄型の類型の契約締結上の過失の要件は、

(a)契約締結交渉の成熟度が高いこと

(b)信義則違反と評価される帰責性があること

とされています。

そして、(a)の要件を充足するための事実としては、以下のようなものがあげられます。

  • 交渉が重ねられ、代金その他契約の主要な内容がほぼ合意されていたこと(最高裁昭和59年9月18日判決(判時1137号51頁)参照)
  • 契約書や覚書等の書面が取り交わされたこと(福岡高裁平成7年6月29日判決(判時1558号35頁)参照)
  • 内金、証拠金等が支払済みであること
  • 契約成立を前提として行政庁等関係機関との折衝や必要な手続を進めたこと(東京地裁平成8年12月26日判決(判時1617号99号)参照)
  • 契約締結、代金決裁の日時が決められたこと(東京地裁平成10年10月26日判決(判時1680号93頁)参照)

また、(b)の要件を充足するための事実としては、以下のようなものがあげられます。

  • 契約締結を妨げる事情を知っていたのに、これを相手方に伝えたり、契約が不成立になる危惧があると警告することなく、交渉を継続したこと(最高裁昭和59年9月18日判決(判時1137号51頁)参照)
  • 契約締結の意思がないのに、締結後の履行について助言したり、相手方の準備行為を援助したりして、契約締結の意思があるかのように誤信させたこと
  • 相手方に重大な事実誤認があるのを知りながら、それを放置したこと
  • 曖昧な態度をとり続け、交渉を一方的に引き延ばしたこと
  • 契約の内容とすべき重要な事実を当初から示すことなく、契約締結の直前に新たな条件を持ち出したこと
  • 交渉打ち切りが、一方的であり、打ち切られた側に落ち度がないこと(最高裁昭和59年9月18日判決(判時1137号51頁)参照)

以上の事実は、あくまで例示ですので、この他の事情も考慮の対象となり得ることにはご注意ください

契約締結上の過失に関する判例

本件につき参考になり、かつ、契約締結上の過失が問題となった典型例としても有名な判例をご紹介いたします。

最高裁昭和59年9月18日判決(判時1137号51頁)

マンションの購入希望者が、売却予定者と交渉に入り、その交渉過程で歯科医院とするためのスペースについて注文出したりレイアウト図を交付するなどしたうえ、電気容量の不足を指摘し、売却予定者が容量増加のための設計変更及び施行をすることを容認しながら、交渉開始から6か月後購入希望者の都合により契約を締結するに至らなかったため、売却予定者が購入希望者に対し、損害賠償請求をしたという事案です。

最高裁は、契約準備段階における信義則上の注意義務違反(=契約締結上の過失)を理由とする損害賠償責任を肯定しました。

本件も、

・購入希望者の求めにしたがい、電気容量を増加するための設計変更や施行を行っていること

・購入希望者は、契約締結直前になって気が変わったと言って一方的に契約締結を拒絶していること

は、上記判決の事情と共通しておりますので、(a)契約締結交渉の成熟度が高く、(b)信義則違反と評価される帰責性があるとして、上記判決と同様に、購入希望者に対する契約締結上の過失を理由とする損害賠償請求が認められる可能性があるといえます。

契約締結上の過失は民法改正で明文化されていないため、
判例・裁判例を参考に検討しましょう

契約締結上の過失については、2020年4月1日施行の民法改正にあたり、明文化するか否かが議論されましたが、条文で規律を設けることの困難性から断念されています。

したがって、今後も契約締結上の過失があるといえるかを判断するにあたっては、従来の判例・裁判例を参考に、事案ごとの事情に着目した丁寧な検討が必要になるでしょう。

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