コラム Column
弁護士(東京弁護士会、72期)。
慶應義塾大学法学部・同大学法務研究科卒業。
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【相談】定期借家契約のメリットやデメリット、注意点等を教えて頂きたいです。
定期借家契約の利用が全国的に少ないのは、なぜでしょうか。定期借家契約にはメリットがないのでしょうか。貸主としての立場からご説明願います。
【回答】定期借家契約のメリットは、紛争予防に繋がることと賃料改定が容易であることです。
貸主側のメリットは、契約で決められた期間が経過したら必ず退去してもらえる点があります。普通の賃貸契約だと、騒音などトラブルや家賃滞納をしても退去してもらうのは容易でないため、リスクが減ります
借主側のメリットとしては、定期借家契約の物件は家賃が周りの物件より安く借りられる可能性があります。デメリットとしては、契約期間満了で再契約を拒否されると退去しないといけないことです。(貸主と再契約を合意できれば、継続して住み続けられます)。
関連記事:借地借家法40条の一時使用賃貸借とは何か?弁護士が解説
定期借家契約は、契約の更新がなく、期間の満了によって終了する賃貸借契約です(借地借家法38条)。定期借家契約では、正当事由がなくとも期間の満了によって契約が終了し、更新されることがありません(なお、再契約は可能です。)。
通常の賃貸借契約(普通借家契約)は、期間が満了しても、賃貸人は正当事由がなければ賃貸借契約の更新を拒絶することができません(借地借家法28条)。普通借家契約では、契約の更新によって同内容の賃貸借契約が長期間継続する可能性があり、賃貸人側から賃貸借契約を終了させたり、賃料等を改定することが難しい場合があります。
したがって、賃貸人としては、一定期間のみ賃貸したい場合や、期間ごとに契約を締結し直して賃料の見直しを行いたい場合に、定期借家契約を利用するメリットがあります。
定期借家契約の利用が少ない理由は、主に2点あると言われています。
1点目の理由は、そもそも定期借家契約という選択肢を持っていないという方が多いという点です。
まだまだ定期借家契約の認知度が低いことが原因のようです。
そのため、「普通借家契約のひな型があったので、それを使いました。」というように定期借家契約を意識せずに普通借家契約の締結に至るというケースはありがちです。
2点目の理由は、普通借家契約の物件と比較すると客付けが難しいという点です。
借主からみたとき、普通借家契約と定期借家契約とで他の条件が同じであれば、普通借家契約を選択するのが自然です。そのため、定期借家契約では、賃料を相場より低くする、礼金をゼロにする等の手当てがなされることが多いです。
このように定期借家契約は、メリットがないから、利用が少ないという訳ではありません。むしろ、⑶で述べるようなメリットが定期借家契約にはございます。
そのようなメリットを踏まえて、定期借家契約の導入を検討してみましょう。
貸主(大家さん側)から見た定期借家契約のメリットとしては次の3つがあげられます。
逆の見方をすると借主(入居者)としてはデメリットになるかもしれません。
普通借家契約の場合、更新拒絶には「正当事由」が求められるため、期間満了時に明渡しを受けることができるかは不確実です。また、賃借人による契約違反があり、賃貸人が解除をするときには、判例や学説において支持されている「信頼関係破壊の法理」という賃貸人の解除権を制限するルールが適用されるため、容易に解除ができません。
これに対して、定期借家契約の場合、期間満了時に明渡しを受けるにあたっては、「正当事由」が要求されていないため、明渡しを受けることができます。
また、賃借人による契約違反があり、賃貸人が解除をしようとするときには、賃借人としては、期間満了時までしか賃借できない以上、信頼関係が破壊されているか否かを争うインセンティブに乏しくなります。そのため、交渉によって退去の和解を取り付けやすくなります。
これらのことから、建物明渡しをめぐる紛争を予防する最も確実な方法は、定期借家契約を締結することであるということができるでしょう。
明渡しに関しては、迷惑行為を行う等問題のある借主を追い出したい場合を具体例として考えてみると分かりやすいです。
定期借家契約の場合、契約期間満了後に貸借関係が続くのは双方が合意した場合のみですから、問題のある借主とは再契約しなければ良いのです。
普通借家契約の場合、賃料の値上げをする際は、借地借家法32条に基づき、借主に賃料増額請求をすることになります。
借主が賃料増額請求に応じなかった場合、いきなり訴訟を提起できず、調停を行わなければならないことになっています(民事調停法24条の2)。調停や訴訟をしていくにあたっては、弁護士費用がかかりますし、場合によっては鑑定費用もかかる場合があります。
このように、普通借家契約の場合、賃料増額には時間的にも金銭的にも大きなコストがかかりやすいと言えます。
定期借家契約の場合、契約期間満了後に貸借関係が続くのは双方が合意した場合のみですから、貸主としては、この際に借主と対等な立場で交渉し、借主に貸主の希望する増額した賃料で再契約するか、建物を明渡すかの選択を迫れば事実上の賃料改定が可能です(建物を明渡すことを借主が選択した場合、増額した賃料で別の借主と契約をすればよいです)。
そのため、上記のように大きなコストを伴うことがある賃料増額請求をしないで賃料を改定することができます。
更新のない定期借家契約を有効に締結するためには、書面性と事前説明という2つの要件があります。
まず、書面性について、定期借家契約では、書面によって契約を締結する必要があります(借地借家法38条1項)。賃貸借においては契約書を作成することが一般的ですので、この点が問題となることは多くはないでしょう。
続いて、事前説明についてです。定期借家契約を締結しようとするときは、賃貸人は、あらかじめ、賃借人に対し、当該契約について更新がなく、期間の満了によって終了することを、その旨を記載した書面を交付して事前に説明しなければなりません(借地借家法38条条2項)。
この事前説明がなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは無効となり(同条3項)、定期借家契約ではく更新のある普通借家契約の範囲で契約が有効となります。
事前説明には説明書面の交付が求められるところ、この点に関する重要判例として最判平成24年9月13日民集66巻9号3263頁があります。
この判例は、賃貸借契約書には当該賃貸借が定期借家契約であり、契約の更新がない旨明記されているところ、賃貸人が事前に契約書の原案を賃借人に送付しており、賃借人としても更新がない契約であることを認識していたため、別途事前説明書面を交付しなかったという事案についての判断です。
同判例は、借地借家法38条2項が事前説明書面の交付を求めている趣旨について、定期建物賃貸借契約を締結するか否かの意思決定のために十分な情報を提供すること及び説明書面を要求することで、契約の更新の有無に関する紛争を未然に防止することにもあるとしました。
そのうえで、「紛争の発生を未然に防止しようとする同項の趣旨を考慮すると、上記書面の交付を要するか否かについては、当該契約の締結に至る経緯、当該契約の内容についての賃借人の認識の有無及び程度等といった個別具体的事情を考慮することなく、形式的、画一的に取り扱うのが相当である」として、法38条2項所定の書面は、賃借人が、当該契約に係る賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず、契約書とは別個独立の書面であることを要するというべきである。」と判示しました。
以上のことを踏まえると、定期借家契約の利用が貸主に利益をもたらすことがあると言えます。貸主の皆様におかれましては、ひとつの選択肢としてご検討頂ければと思います。
もし定期借家契約に関連したトラブルなどに遭ってしまった場合は、弁護士などの専門家に相談することをオススメいたします。
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