コラム Column
弁護士(第二東京弁護士会)。
2017年に弁護士法人Martial Artsに入所し、不動産トラブルや賃貸借契約書に関する業務をはじめ、多分野にわたる法律業務に従事している。
【相談】サブリース契約の更新拒絶をすることができますか。
不動産投資としてアパート1棟を購入した。不動産投資が初めてで不安があったため、家賃保証をしてくれるサブリース業者を入れた。
しかし、アパートの立地が良く、入居者がすぐにつく物件であったため、入居者との直接契約に切り替えて賃料を増額したい。来年の契約期間満期でサブリース契約を終了するつもりだが、サブリース業者からは更新したいといわれている。契約の更新を拒絶することはできないのか。
【回答】サブリース契約にも借地借家法の適用があるため、正当事由がなければ更新拒絶できません。
サブリース契約は契約期間が満了したとしても、それだけで契約を終了させることはできません。サブリース契約の更新拒絶には、正当事由が必要となります。そして、賃料を増加させるためという理由のみでは、正当事由が認められない可能性が高く、更新拒絶できないものと考えられます。
理由については下記に詳述します。
サブリースについて詳しく知りたい方は、「サブリース契約で失敗しないためには? 仕組みやメリットデメリットを解説」をご参考ください。
サブリースとは、サブリース業者が不動産オーナーから転貸を前提に物件を一括で借り上げ、個々の部屋についてエンドの入居者に転貸をするというような関係です。不動産オーナーとサブリース業者との間のサブリース契約は、法的には賃貸借契約になります。
通常、建物の賃貸借契約には借地借家法が適用され、賃貸人側から更新拒絶するには、正当事由が必要となります(借地借家法28条)。
では、サブリース契約でも通常の賃貸借契約と同様に借地借家法が適用されるのでしょうか。借地借家法は弱者である借主保護のための法律であるところ、サブリース契約は賃借人側が不動産に関する情報も経験も豊富な不動産業者であるので、弱者保護を目的とする借地借家法適用の可否について過去に裁判例でも争われていました。
この点について判断された最高裁判所の判決として、最判平成15年10月23日集民211号253頁があります。この判決は、サブリース業者から賃貸人への借地借家法32条に基づく賃料減額請求ができるか否かが争われた事案であるところ、最高裁は、サブリース契約への借地借家法32条の適用を認めました。
この判決により、サブリース契約に借地借家法を適用することができるという最高裁の立場が明らかとなり、確定した判例法理となりました。
そのため、賃貸人である不動産オーナー側からサブリース契約を更新拒絶する場合にも、借地借家法28条により正当事由が必要となります。
更新拒絶等の正当事由の有無は、賃貸人及び賃借人双方の必要性を中心に、建物賃貸借に関する従前の経過や建物の利用状況、立退料等を総合的に考慮して判断されます。
本件のようにサブリース契約であることが正当事由判断に影響するかについて判断した裁判例として、札幌地判平成21年4月22日判例タ1317号194頁があります。この判決は「本件契約がサブリースであることが、上記の「建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情」の一要素として考慮されることはあっても、サブリース契約であること自体が、同法28条の「正当の事由」を認める方向での独立の考慮要素となるものではない。そして、原告が、本件建物賃貸部分の使用を必要とする理由は、本件建物賃貸部分を直接テナントに賃貸することによって、本件契約の賃料以上の収益を上げようとすることにあるというべきところ、被告は、本件契約の契約期間中、自らの企業努力によってテナントを確保し、本件建物賃貸部分の転貸を企業の主要な収入源としているのであるから、本件建物賃貸部分の使用についての原告と被告の必要性の比較の観点からは、直ちに、同法28条の「正当の事由」を認めることにはならないというべきである」と判示し、サブリース契約であることは正当事由の判断にあたって重要な考慮要素ではないと判断しています。
実際サブリース契約の更新拒絶の正当事由の有無について争われた裁判例をみると、不動産オーナーの必要性がサブリース業者の必要性を上回るものではないとして正当事由が否定されたものが多くあります。
このような裁判例からすると、サブリース契約であっても、通常の賃貸借契約の更新拒絶と同様に建物使用の必要性を中心として正当事由の有無を検討しなければならないということになります。そうすると、入居者との直接契約により賃料を増額させるという理由だけでは正当事由を肯定するまでの必要性とまではいえず、更新拒絶するためには正当事由を補強する他の事情の存在が必要であると考えられます。
以上のように、本件ではサブリース契約の更新拒絶は難しいように思われます。
サブリース契約は賃借人が不動産業者であって弱い立場でないにもかかわらず、借地借家法によって保護されてしまいますので、今後はサブリース契約を締結する前にその必要性があるのかを慎重にご検討いただきたいと思います。
関連記事:「サブリース契約の終了を転借人に対抗できるか?」
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