不動産投資講座 Knowledge
弁護士(東京弁護士会、72期)。
慶應義塾大学法学部・同大学法務研究科卒業。
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はじめに
不動産投資は、個人名義で行う場合と法人名義で行う場合の2通りがございます。
※不動産投資を法人名義で行う場合、法人が不動産を購入・所有・管理するので、不動産投資家個人は、法人から役員報酬という形で、不動産投資による利益を享受することとなります。そのため、最終的に不動産投資家個人が利益を得ることができるという点は、いずれの名義で行う場合でも変わりません。
※不動産投資を法人名義で行うといっても、不動産投資目的で法人を設立する場合もあれば、既存の法人の事業として不動産投資を行う場合もあります。また、不動産の所有は個人、管理は法人で行うといったように対応の棲み分けを行う場合もございます。本記事において法人名義で行う不動産投資を取り上げる際は、不動産投資目的で設立した法人が不動産の購入・所有・管理をまとめて行う場合を念頭に置いて説明いたします。
今回は、不動産投資を法人名義で行うことのメリット・デメリットをご説明したうえで、どのような場合に法人名義で不動産投資を行うことが適しているかについて一般的な指標をお示しいたします。
不動産投資を法人名義で行う場合、個人名義(個人事業)で行う場合と比較して
・損失の繰越期間が長い(個人事業だと3年間、法人だと10年間)
・減価償却費の計上方法が任意償却(経費にする金額を調整できる)
・役員報酬、退職金、生命保険料等で経費計上できる額が大きい
・課税所得が大きくなった場合の税率が低い
といった特徴があります。
これらにより課税所得額を抑え、節税をすることが可能です。
※例えば、課税所得が900万円を超えた場合、個人事業では、48%(所得税33%+住民税10%+個人事業税5%)の税率となるのに対し、法人では、課税所得800万円を超えた場合(法人税額が年1000万円以下、東京都)で、33.583%の実効税率となります。
【ワンポイント】法人名義だと贈与税・相続税がかからない?
不動産投資を個人名義で行う場合、当然ながら不動産は不動産投資家個人の所有となります。そのため、不動産投資家が贈与や相続をする際には、贈与税や相続税を支払う必要が出て参ります。
これに対し、不動産投資を法人名義で行う場合、不動産は会社の所有となります。そのため、会社の代表者が代わっても、会社自体が不動産を所有していることには変わりません。また、会社の代表者が死亡し新たな代表者が就任した場合も同様であり、会社の不動産が新しい代表者に個人的に相続されるということにはなりません。このように、不動産投資を法人名義で行う場合、不動産投資の対象となる不動産につき贈与税や相続税がかからなくなります。
※法人の場合、株の相続については相続税が生じます。そのような意味では、「不動産取得税や登録免許税がかからない」とご理解いただくのが正確であるといえます。
※会社を設立する場合には、資本金額をいくらにするか、株式会社とした場合の株主を誰にするか、役員を誰にするか等につき検討が必要となります。税理士に相談して具体的な節税効果をシミュレーションしたうえで対応することをおすすめいたします。
不動産の所有期間が5年以下の場合、不動産売却時の譲渡所得に課せられる税率は、法人名義で不動産投資を行う方が低くなります。
個人事業の税率は39.63%、法人の実効税率は課税所得800万円を超えた場合(法人税額が年1000万円以下、東京都)で33.583%です。法人の課税所得が低ければ、実効税率はさらに低くなります。
※法人については、全ての損益を合計した所得額に対して、法人ごとの税率を乗じて、税額を算出します。利益の額に対して実際にどの程度の税の負担があるのかを割合で示したものが法人の実効税率です。
5年以内での不動産の短期売却を予定している場合は、法人名義での不動産投資を検討する余地があるといえるでしょう。
法人を設立する場合、法定費用、資本金、登録免許税、印鑑作成費用、印鑑証明書・登記簿謄本等の取得費用、司法書士費用等の費用がかかります。また、作成・提出が必要な書類が多く、手続も複雑です。
そのため、法人設立を行う場合、金銭・時間・労力の面で負担がかかるといえます。
※例えば、法定費用は、株式会社の場合が24万2000円、合同会社の場合が10万円です(電子定款の場合は、印紙代4万円を節約できます)。
これに対し、個人で不動産投資を行うために開業する場合、届出費用はかからず、開業届を管轄の税務署に提出するのみで済みます。
法人の場合、
・従業員を社会保険へ加入させる義務を負う
・厚生年金・健康保険にかかる費用の半分を負担しなければならない
・会計処理が複雑なため、決算書作成や確定申告のために、税理士に依頼する必要性が高い
といったように法人を維持するためにもコストが生じます。
個人の場合には、赤字であれば所得税・住民税がかからないとされることと異なり、法人の場合には、赤字であっても均等割(法人住民税のうち、資本金額や従業員数等により設定されるもの)は支払わなければなりません。
また、確定申告の際、個人であれば65万円までの青色申告特別控除を適用することができるのに対し、法人には青色申告特別控除は適用されません。
そのため、メリット①の点と突き合わせながら、個人と法人のいずれの名義で行うかをシミュレーションすることが重要といえるでしょう。
メリット②のとおり、不動産を短期(所有期間5年以下)で売却する場合、不動産売却時の譲渡所得に課せられる税率は、法人名義で不動産投資を行う方が低くなります。
これに対し、不動産の所有期間が5年を超える場合、不動産売却時の譲渡所得に課せられる税率は、法人名義で不動産投資を行う方が高くなります。個人事業の税率が20.315%となるからです。
以上のようなメリット・デメリットを踏まえますと、法人名義で不動産投資を行うことが適切か否かは、不動産投資家それぞれの投資の方針、不動産所得と他の所得とのバランス、購入する不動産、専業大家か否か等によって変わり得るものであり、ケースバイケースであるといえます。
もっとも、目指す投資規模が大きい場合には、不動産投資開始前に法人設立しておくことを検討する余地がございます。
仮に不動産投資開始後に法人名義での対応に切り替えた場合、個人から法人へ不動産を移すことになるため、その分の不動産取得税や登録免許税が余分にかかってしまう(不動産購入時と移転時でそれぞれ税金を負担するという二重のコストが生じる)からです。
※不動産投資開始前の法人設立の場合、法人の事業実績がないため、融資を引くにあたって、金融機関の審査が厳しくなる、金利が高くなるなどといったリスクもございます。
※個人名義と法人名義のいずれで不動産投資を行う方が節税効果を得られるか判断が難しい場合は、税理士に相談しましょう。
※法人の設立手続については、司法書士に相談しましょう。
【ワンポイント】副業禁止のサラリーマンは注意!
法人化する場合、サラリーマンと並行して兼業大家さんをしている人は注意しましょう。
不動産投資は、あくまで投資である(事業にはあらたない)として、副業禁止の規定がある企業でも不動産投資を行うことが認められている場合は多いです。
しかしながら、法人名義で行う場合には、事業にあたるとして、副業禁止の規定に抵触していると判断される可能性があります。
いずれにしても、勤務先に確認する、法人化する際の代表者を家族にするなど、慎重な対応をとることが必要になるでしょう。
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