コラム Column
弁護士(東京弁護士会)。慶應義塾大学法科大学院修了。
不動産トラブルに関する業務、家族信託・遺言作成業務などをはじめとする多岐の分野に携わる。
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【相談】一般的な原状回復義務を超えた一定の修繕等の義務を賃借人に負わせることはできるのでしょうか。
私は、所有するマンション数室を住居用として貸し出しています。
これまで、退去時の原状回復に関して、たびたび賃借人とトラブルになりました。
具体的には、賃借人がどこまで原状回復をしなければならないかについてや、そもそも「原状」がどのようであったか等で揉めることが多かったです。
将来、明渡し時の原状回復について揉めないために、契約締結時に何に注意しておけばよいでしょうか。
また、一般的な原状回復義務を超えた一定の修繕等の義務を賃借人に負わせることはできるのでしょうか。
【回答】一般的な原状回復義務を超えた一定の修繕等の義務を賃借人に負わせる特約を置くことは可能ですが、争いになった場合、特約の効力については厳格に判断されます。
建物賃貸借契約は、契約期間が長期にわたることが少なくなく、当事者の記憶だけでは「原状」がどのようなものであったかが曖昧になってしまいます。
したがって、事実関係を明確にし、トラブルを未然に防止するためには、入居時及び退去時に損耗・毀損の有無や状況をチェックするリストを作成し、当事者が立会いのうえ、十分に確認することが必要です。
そして、入居時に写真撮影をする等して、証拠化し、当事者が共通の認識を保有しておくことも重要です。
また、一般的な原状回復義務を超えた一定の修繕等の義務を賃借人に負わせることができるかについては、原則として可能です。
ただし、そのような特約の有効性が争いになった場合、厳格に判断されることになります。その点については、第4項において説明いたします。
建物賃貸借契約では、賃貸借契約終了後には、賃借人は物件を「原状に回復して」明け渡さならければならない旨が規定されているのが通常です。
賃貸人がこの原状回復義務条項に基づいて、畳替え・クロス張替え・鍵の交換費用等の原状回復費用として敷金から控除する精算を行おうとしたところ、原状回復費用の対象となる範囲や金額をめぐって賃借人と争いが生じることがしばしばあります。
これが原状回復をめぐる紛争の典型的な形です。
建物の価値は、居住の有無にかかわらず、時間の経過によって減少するものであり、また、物件が契約により定められた使用方法に従い、かつ、社会通念上通常の使用方法により使用していればそうなったであろう状態であれば、使用開始当時の状態より悪くなっていたとしても、そのまま賃貸人に返還すれば良いとするのが、判例等の考え方です。
国土交通省住宅局作成の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(以下、「ガイドライン」といいます。)において、原状回復は、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義されています。
原状回復に関して、民法においては、次のとおり規定されています。
民法621条 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りではない。 |
ガイドラインにおいて、原状回復は、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」であると定義された上で、以下のとおり、貸主負担、借主負担の分担モデルについて説明されています。
建物・設備等の自然的な劣化・損耗等(経年変化)、および賃借人の通常の使用により生ずる損耗等(通常損耗)
例)
賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等
例)
それでは、一般的な原状回復義務を超えた一定の修繕等の義務を賃借人に負わせることはできるのでしょうか。
賃貸借契約において、強行法規に反しなければ、契約自由の原則から、一般的な原状回復義務を超えた一定の修繕等の義務を賃借人に負わせる特約を置くことも可能です。
ただし、このような特約の有効性が争いになった場合、裁判所は、特約の有効性について厳格に判断しています。
以下、ご紹介します。
通常損耗補修特約についての最高裁基準(最判平成17.12.16) 「建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人に同義務が認められるためには、少なくとも、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約・・・が明確に合意されていることが必要である」 |
一般的な原状回復義務を超えた一定の修繕等の義務を賃借人に負わせる特約を置く場合には、特約の有効性に関する争いを防止するために、以下の点にご留意ください。
賃貸借契約は、契約期間が長期にわたることが少なくなく、当事者の記憶だけでは「原状」がどのようなものであったか曖昧になります。
したがって、事実関係を明確にし、トラブルを未然に防止するためには、入居時及び退去時に損耗・毀損の有無や状況をチェックするリストを作成し、当事者が立会いのうえ、十分に確認することが必要です。
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