コラム Column
税理士。2017年に税理士試験合格(簿記論、財務諸表論、所得税法、消費税法、国税徴収法)。得意な税目は所得税法。
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相続税対策としてまず挙げられるのが生前贈与です。
生前贈与をすることで、相続が発生する前に無償で資産を渡すことになるため、原則として相続税が発生しません。年間の受贈額(もらった財産の合計額)が贈与税の基礎控除額(1年あたり110万円です)を超えると贈与税が発生するなどの注意点はありますが、有効な節税対策といえます。
では、土地や不動産も同じように生前贈与したほうが良いのでしょうか?
当記事では現役の税理士が
などについて詳しく解説いたします。
生前贈与とは、贈与者(財産をあげる人)が存命のうちに受贈者(財産をもらう人)に対して財産を贈与する(無償・タダであげる)ことをいいます。生前贈与という用語は、贈与者が亡くなった後に財産が移転する「相続」や「死因贈与」との対比で使用されます。なお、生前贈与に対しては原則として贈与税が、相続や死因贈与に対しては相続税が課税されます。
以下で土地・不動産を生前贈与する場合のメリットデメリットを解説します。
生前贈与したほうが得をするケースについて解説します。
結婚してから20年以上経つ夫婦の場合、夫婦間で行われた居住用不動産(自宅)の贈与については「贈与税の配偶者控除」の適用を受けることができます。贈与税の配偶者控除額は最大2,000万円で、贈与税の基礎控除額(年110万円)と合わせて2,110万円までの部分は贈与税が課されることなく贈与を行うことできます。
夫婦の片方(たとえば夫)が多くの財産を持っている場合は、夫から妻へ自宅持分の生前贈与をして自宅を夫婦の共有状態にした上で、贈与税の配偶者控除の適用を受けることで、夫が死亡したときに妻に課せられる相続税額を減らすことが可能です(もっとも、相続税の配偶者控除額は1億6,000万円と高額であるため、たとえば夫の死亡によって遺された妻に課せられる相続税額はもとより0円のこともあります)。
なお、贈与税の配偶者控除は夫婦間での贈与にのみ適用されるため、たとえば「親から子」への贈与には適用されません。
自宅の評価額の大半を占める土地の相続税・贈与税評価額は、その相続または贈与が行われた年におけるその土地の「路線価」を使って計算します(路線価が定められていない地域の土地は「倍率方式」と呼ばれる方式で計算します)。
路線価は毎年改定されるため、たとえば土地の周辺に地下鉄新駅ができる計画があるなど、将来土地の価値が確実に上がると見込まれる場合は、路線価が低いうちに生前贈与をすることで、路線価が高くなったあとに相続させるよりも税負担が減る可能性もあります。
賃貸マンションなどの収益物件を所有している場合、毎月の家賃収入で溜まった現金に対しても相続税が課税されるため、生前贈与によって収益物件を配偶者や子どもに贈与させることで、相続税額を減らすことが可能となります。もっとも、収益物件の贈与によって贈与税が課せられるケースも多くあるため、生前贈与をしたほうが得か否かは様々な要素(例:受贈者と贈与者の年齢、毎年の家賃収入額、他の財産など)を総合的に判断するとよいでしょう。
生前贈与で損をしてしまう場合もあります。
デメリットについて解説します。
不動産に関する登記を申請するためには「登録免許税」と呼ばれる税金を支払う必要があります。登録免許税額は課税価格に税率を乗じて計算しますが、この税率は不動産を相続により取得した場合は0.4%、生前贈与により取得した場合は2%と、5倍の差があります。
たとえば、課税価格(不動産の課税価格は固定資産課税台帳の価格です)が5,000万円の不動産の場合、これを相続により取得した場合の登録免許税額は20万円である一方、生前贈与により取得した場合の登録免許税額は100万円です。
このように、登録免許税の税率が高いことが、生前贈与のデメリットと言えるでしょう。
生前贈与によって不動産を取得する場合、原則として相続税は課税されなくなりますが、その代わりに不動産取得税と贈与税が課税されます(相続の場合、不動産取得税は課税されません)。
不動産取得税額は課税標準額に税率(3%)を乗じて計算しますが、居住用の土地・建物については次の軽減措置が講じられています。
(1) 土地
原則の方法によって計算した不動産取得税額から一定の方法(※)により計算した金額を控除することができます
(2) 建物
固定資産評価額から最大1,200万円を控除することができます
たとえば、固定資産評価額が3,000万円の土地(100平米)と2,000万円の居住用建物(100平米、2021年新築)を贈与により取得した場合の不動産取得税の金額は、土地部分が0円、建物部分が24万円となります。
(※)控除額は、土地1平米あたりの価格に住宅の床面積の2倍(最大200平米)を乗じた金額に、3%を乗じて計算します。たとえば上記の土地の場合は、1平米あたりの価格(3,000万円÷100平米=30万円)に住宅の床面積(100平米)の2倍である200平米を乗じた6,000万円の3%である20万円が控除額です
贈与税額は、贈与を受けた財産の額から贈与税の基礎控除額(110万円)を引いた金額に税率を乗じて計算します(暦年課税の場合)。
たとえば、親から15歳の子どもに対して贈与税評価額5,000万円の土地建物を贈与した場合の贈与税額は、(5,000万円-110万円)×55%-400万円=2,289万5千円です。なお、親あるいは祖父母から18歳以上の子ども(孫)に対する贈与の場合は、通常の場合と比べて贈与税額が軽減される特例も存在します。
贈与税の税率について詳しく知りたい方は国税庁のホームページをご確認ください。
ここまで、生前贈与の場合は原則として相続税が課されないと紹介してきました。この原則の例外が、「相続開始前3年以内に行われた贈与」です。相続開始前3年以内、つまり被相続人が死亡した日から遡って3年前の日以降に行われた贈与によって財産を取得した場合は、財産を取得した人に相続税が課税されます。
なお、3年前の日以降に行われた贈与に際して納付した贈与税額は上記の相続税額の計算上控除されるため、「死亡前3年以内の贈与は贈与税と相続税の二重課税になる」というわけではないのでご安心ください。
不動産を生前贈与する際は、①贈与契約書の作成、②贈与を原因とする不動産の登記申請、③贈与税の申告と納付を行う必要があります。
① 贈与契約書の作成
贈与契約書に法定の様式はないので、インターネットでテンプレートを探して作成するとよいでしょう。不動産の贈与契約書を紙で作成する場合は、収入印紙(契約書1通あたり200円です)を貼付する必要がある点にご留意ください。
② 不動産登記の申請
贈与を原因とする不動産登記を申請するにあたっては、次の書類が必要です。
登記申請は登記所の窓口、郵送、オンラインで行うことが可能です。登記申請について詳しく知りたい方は法務局のホームページをご確認ください。
③ 贈与税の申告と納付
贈与を受けた財産の価額が贈与税の基礎控除額を超える場合は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日の間に贈与税の申告と納付を行う必要があります。
贈与税の申告と納付について詳しく知りたい方は国税庁のホームページをご確認ください。
この記事の最後に、不動産を生前贈与により取得する場合と相続により取得する場合の税負担を比較してみましょう。
一般論として、次の理由から、生前贈与は相続よりも税負担が重くなります。
生前贈与が節税策として使えるのは「110万円の基礎控除額を毎年使える」という点にあるため、贈与する財産が現金や小口の財産であれば有効な節税策と言えます。
一方、贈与する財産が不動産の場合は「毎年使える」というメリットを享受できません(毎年少しずつ不動産の持分を贈与するという方法はありますが、登記の手間や「連年贈与」とみなされるリスクを考えるとおすすめできません)。税負担だけを考えると、不動産の評価額にかかわらず、生前贈与が相続よりも有利となる状況は極めて限定的だと言えます。
もっとも、今後大幅に値上がることが確実な土地であれば、早い段階で生前贈与するほうが結果として税負担が軽くなる可能性はあります。土地周辺の整備計画などを勘案して、「値上がり確実」だと考えた場合は、生前贈与を検討されてもよいでしょう。
ここまで土地・不動産の生前贈与について解説してきましたがいかがだったでしょうか。
生前贈与のほうが登録免許税が高いということもあり、一概にどちらが良いということはなく、個々の事情に合わせてシミュレーションし検討するべきでしょう。
当記事でご紹介した知識を使って検討してみてください。もしご自身でシミュレーションするのが難しい場合は、相続に強い専門家へ相談することをおすすめいたします。
なお、この記事の記載内容は2022年9月時点の法令に基づきます。
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