コラム Column
弁護士(東京弁護士会)。慶應義塾大学法科大学院修了。
不動産トラブルに関する業務、家族信託・遺言作成業務などをはじめとする多岐の分野に携わる。
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【相談】テナントが破産手続開始の申立てを行った場合、賃貸人は賃貸借契約を解除できるのでしょうか。
私は、商業ビル1棟を所有しており、複数のテナントに貸し出しています。
そのうち、1室を会社に事務所として貸しているのですが、先日、そのテナントが破産手続開始の申立てを行いました。
将来、賃料を支払ってもらえるか不安ですので、そのテナントとの賃貸借契約は解除したいと考えています。
また、賃貸借契約書においても、破産手続開始の申立てを解除事由としています。
私はそのテナントとの賃貸借契約を解除し、明渡しを求めることが可能でしょうか。
【回答】他に違反行為等があれば別ですが、破産手続開始の申立てを行ったことのみをもって、信頼関係が破壊されたとまでは言えず、賃貸借契約の解除は難しいと言えます。
賃貸借契約書において、破産手続開始の申立てを解除事由としていた場合であっても、 このような規定は、賃借人に不利なものとして無効となります。
そして、賃借人が破産手続開始の申立てを行ったことのみをもって、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されたとまでは言えず、破産手続開始の申立てを理由とする解除の申入れは難しいと言えます。
もちろん、賃料の滞納や使用態様等に違反がある場合は、解除を主張できる場合もあります。
テナントが破産するという場合、賃貸人としては、今後の賃料の支払いに不安が生じるため、直ちに退去してもらいたいと考えられるかもしれません。
それでは、テナントが破産手続開始の申立てを行ったことを理由として、賃貸借契約を解除して、明渡しを求めることができるでしょうか。
賃貸借契約を解除するためには、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されたと言える事由が必要となるところ、賃借人が破産したという一事情のみをもって、信頼関係が破壊されたと言うことは困難です。
たとえば、既に、数か月間(一律に定まっていませんが、3か月程度が目安と言われます。)の賃料を滞納していたり、著しい用法違反がある等の事情がある場合には、信頼関係が破壊されたと判断され、賃貸借契約の解除が認められることもあるでしょう。
また、賃貸借契約書において、破産手続開始の申立てを解除事由としていた場合であっても、このような規定については、賃借人に不利なものとして無効となります(最判昭和43年11月21日)。
そのため、たとえ、このような規定を置いていたとしても、同規定に基づき解除することはできません。
破産法53条1項において、次の通り規定されています。そして、賃貸借契約においても、以下の規定が適用されます。
「双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。」
つまり、破産管財人が賃貸借契約を解除するか、継続させるかを決めることになります。
破産管財人が賃貸借契約を解除することを選択した場合、賃貸借契約は終了します。
仮に、破産手続開始前の時点で未払賃料があった場合、それは破産債権(※1)となり、将来の配当手続で一定の割合が支払われることになります。
なお、敷金については、賃貸人には、他の一般債権者より優先権があることになります。賃貸人は、滞納家賃等があれば、敷金から相殺をすることが可能です。滞納額に充当して残額がある場合には、残額については破産管財人に返還します。
※1 破産手続開始前の賃料請求権は、他の債権者と同様に、破産債権として債権の届出を行い、破産手続の中で、配当を受けるという形で回収することになります。多くの場合、極めて低い配当率となり、また、破産財団がなければ、配当を受けることはできません。
賃貸借契約が継続する場合、賃貸人としては、将来の賃料を支払ってもらえるかが気になるとことです。
破産管財人が賃貸借契約の継続を希望したとき、破産手続開始決定後に生じた賃料は、財団債権(※2)として随時、破産管財人から賃貸人に対し支払われることになります。
※2 破産手続開始決定後に生じた賃料は、財産債権となり、他の債権者よりも優先して配当を受けることができます。しかし、そもそも破産財産がなければ、優先権があっても、配当を受けることができません。
賃貸人としては、テナントが破産手続を取ることを知ったら、速やかに、破産管財人に連絡を取り、賃貸借契約を解除するのか、続行するのかを確認します。破産管財人に早期に方針を決めてもらうことが必要です。
しかし、破産管財人は多くの業務に忙殺され、早期に方針を決めることが困難である場合もあります。そうすると、賃貸人としては、次のテナントの募集を開始してよいものか極めて不安定な立場に置かれることになります。
そのような場合には、賃貸人は、破産管財人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に賃貸借契約の解除をするか否かを確答するよう催告することができます。
破産管財人が、その期間内に確答しなかった場合には、賃貸借契約を解除したものとみなされます(破産法53条2項)。
そして、賃貸人は、速やかに、次のテナントの募集を開始することができます。
もし賃貸借契約に関連したトラブルなどに遭ってしまった場合は、弁護士などの専門家に相談することをオススメいたします。
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