コラム Column
弁護士(東京弁護士会)。慶應義塾大学法科大学院修了。
不動産トラブルに関する業務、家族信託・遺言作成業務などをはじめとする多岐の分野に携わる。
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【相談】新型コロナウィルス感染症の影響を理由に、テナントから賃料減額の要求がありましたが、応じる必要がありますか。
私は、飲食店などのテナントが入っている5階建のビル一棟を所有しています。
あるテナントから、新型コロナウィルス感染症の影響で売上げが激減しており、また、国土交通省から事業者に対する賃料減免等の要請もあったので、賃料を減額してほしいとの依頼がありました。
私は、賃料収入を生計の一部に充てており、決して楽な状況ではありませんが、テナントからの依頼に応じなければならないのでしょうか。
【回答】令和2年3月31日付の国土交通省からの賃料の支払い猶予等の要請については、あくまでもお願いレベルのものです。
国土交通省は、令和2年3月31日付で、不動産関連団体を通じて、飲食店などのテナントに物件を貸す事業者に対し、新型コロナウイルス感染症の影響により、賃料の支払いが困難な事情があるテナントに対しては、賃料の支払い猶予などの柔軟な対応を取るよう要請しました。
しかし、これは、あくまでもお願いレベルのもので、貸主側にテナントからの賃料の減額の依頼に応じる義務まではありません。
貸主が応じるかどうかは、それぞれの判断に委ねられます。
なお賃料の不払いが発生した場合については、「信頼関係破壊の法理の判断基準や判例を弁護士が解説」にて新型コロナウイルス感染症の影響についても詳しく解説されていますので是非ご参考ください。
貸主側が、賃料収入を融資の返済の原資としている等の事情から、テナントからの賃料減額の要求に直ちに応じることが困難な場合もあるでしょう。
一方で、貸主が賃料の減額に一切応じなかった場合、結局、テナントが賃料を支払うことができず、賃貸借契約を解除せざるをえない事態に陥ることも考えられます。
新型コロナウィルス感染症の影響がいつまで続くか見通しがつかない現状においては、テナントが空室になった場合、次の借り手を見つけることも困難でしょうし、賃料が全く入ってこない状態が長期間継続することもあり得ます。
このようなリスクを回避するために、貸主側としても、期限付きで賃料減額に応じるという選択肢を取ることも考えられるでしょう。
国土交通省から、貸主側を支援する対策も提示され始めているため、それらの支援策を注視して、今後、どのような選択肢を取るか決めていただくのが安心です。
国土交通省は、令和2年4月17日、新型コロナウイルス感染症で打撃を受けたテナントに賃料減額や支払いを猶予した店舗・ビル賃貸事業者への支援策をまとめ、不動産関連団体に通知しました。
店舗等がテナントとして入っている賃貸ビルの所有者が、店舗等の賃料について減額や猶予に応じた場合、ビルの所有者を対象に、国税・地方税・社会保険料の猶予、固定資産税の減額や免除を実施するといった内容です。
ビル所有者の負担を減らすことで、テナントに対し、賃料の減額や猶予をしやすくするのが狙いです。
令和2年4月17日現在の支援策の内容は、以下のとおりです。
新型コロナウイルス感染症の影響により賃料の支払いが困難となったテナントに対し、不動産を賃貸する所有者が当該テナントの営業に被害が生じている間の賃料を減額または免除した場合において、次の条件を満たすとき等には、その免除による損害の額は、寄付金に該当せず、税務上の「損金」(※1)として計上することが可能であることが明確化されました(※2)。
①テナントにおいて、新型コロナウイルス感染症に関連して収入が減少し、事業継続が困難となったこと、または困難となるおそれが明らかであること
②貸主が行う賃料の減額が、テナントの復旧支援(営業継続や雇用確保など)を目的としたものであり、そのことが書面等により確認できること
③賃料の減額が、テナントにおいて被害が生じた後、相当の期間(通常の営業活動を再開するための復旧過程にある期間をいいます。)内に行われたものであること
※1 適正に損金を計上することで、課税対象額を減額することができ、法人税の減額等につながります。
※2 国税庁は、当面の申告や納税などに関して寄せられた質問等を、「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ」として取りまとめ、公表しています。このFAQは、随時更新されています。併せてご参照ください。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/pdf/faq.pdf
①新型コロナウイルス感染症により国税・地方税・社会保険料を一時に納付することが困難な場合は、個人・法人の別、規模を問わず、申請することにより、原則として1年間、納税が猶予されます(延滞税も軽減されます。)。
②なお、令和2年2月1日から令和3年1月31日までに納期限が到来する税・社会保険料については、新型コロナウイルス感染症の影響により令和2年2月以降の任意の期間(1か月以上)において、事業等に係る収入が前年同期に比べて概ね20%以上減少している場合かつ、一時に納付することが困難と認められるときは、無担保・延滞税(延滞金)なく、1年間納付を猶予することができるようになります。
上記の場合において、不動産所有者等がテナント等の賃料支払いを免除した場合や、税・社会保険料の納付期限において、書面等により賃料支払いを猶予中の場合も収入の減少として扱われることとなる見込みです(※3)。
※3 関連法令成立後に実施される見込みです。
①新型コロナウイルス感染症の影響により事業等に係る収入に相当の減少があった場合、中小事業者、中小企業者が所有し、事業の用の供する家屋(建物)及び償却資産(設備等)の令和3年度の固定資産税及び都市計画税が、事業に係る収入の減少幅に応じ、ゼロ又は1/2になります。
②具体的には、令和2年2~10月の任意の連続する3か月の事業に係る収入が前年同期比30%以上50%未満減少した場合は1/2に軽減、50%以上減少した場合はゼロ(全額免除)となります。
③上記の場合において、不動産所有者等がテナント等の賃料を減免した場合や、書面等により一定期間、賃料支払いを猶予した場合も収入の減少として扱われることとなる見込みです。
※4 関係法令成立後に実施される見込みです。
本来、新型コロナウィルス感染症のような事態における飲食店の被害・売上減少を「賃料減免」という形で貸主が負うべき理由はありません。
しかし、前述のように、仮に、テナントが閉店、倒産等した場合、新型コロナウィルス感染症の影響が収束しない限り、新規出店のテナントを見つけることができる見込みは低いと考えらます。
そのため、賃貸人の中には、「痛み分け」として、賃料減免の交渉に応じる例も少なくないようです。
賃料減免に応じる場合には、後日のトラブルを避けるため、同意した内容を覚書などの形式で書面に残しておくことを忘れないでください。
もし不動産に関連したトラブルなどに遭ってしまった場合は、弁護士などの専門家に相談することをオススメいたします。
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