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補修工事における近隣トラブルについて

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当社が所有する商業ビル(Aビル)は建築後30年以上が経過し、外壁の一部が剝落しているため、雨水による漏水を防止する補修工事が必要な状況です。しかし、外壁補修工事のためには、境界線一杯に建つ隣の商業ビル(Bビル)の非常階段と屋上に立ち入る必要があるところ、Bビルの所有者が立入りを認めてくれません。どうしたらよいでしょうか。

齋藤 拓

齋藤 拓 弁護士(福岡県弁護士会)

民法209条1項本文により、外壁補修工事に必要な範囲でBビルの非常階段と屋上に立ち入ることを請求できます。Bビルの所有者の承諾が得られない場合は、裁判により承諾に代えて判決を得ることが考えられます。
 民法209条1項本文は、①土地の所有者が、②境界又はその付近において建物の修繕などのために、③必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができると定めています。これを、隣地使用権といいます。
 他人の土地を、自らの建物などのために使用することは原則としてできません。しかし、隣地の使用が一切できないと、境界付近に建物を建築等できず、土地の有効利用に支障が生じます。そこで、隣接者間の互譲を趣旨とする隣地使用権が認められています。
 本件では、ご相談者様がAビルの敷地の所有権者であれば①の要件を満たしますし、仮に所有権者ではなかったとしても、土地の賃借権者にも隣地使用権が認められています。また、Aビルの外壁補修工事は建物の修繕に当たるので②の要件も満たします。そして、③必要な範囲内とは、工事の規模、緊急性、隣地の所有者の受ける不利益など、様々な事情を総合的に考慮して判断されますが、Aビルの外壁補修工事はやむを得ない事情によるものですから、必要な範囲内といえます。
 
もっとも、民法209条1項ただし書は、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることができないと定めています。住居への立入りはプライバシー侵害となることから、隣地使用権には制約があります。
 本件における商業ビルの非常階段と屋上の利用は、住居への立入りのようなプライバシー侵害は生じないといえることから、Bビルの所有者の承諾は必要ではないと考えられます(東京地裁平成11年1月28日判決)。
 したがって、Aビルの外壁補修工事は、Bビルの所有者の承諾なしに認められると考えられます。なお、民法209条2項は、隣地の使用によって隣人が損害を受けた場合はその償金を請求することができると定めていますので、Bビルの所有者に外壁補修工事によって被った損害があれば、償金の支払が必要になります。
※この投稿は、2019年12月15日時点の回答になります。ご自身の責任で情報をご利用いただきますようお願い致します。
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