相談 Consultation

借地譲渡の裁判所許可と介入権について

相談者No.64
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底地を保有しており、旧法借地契約で借地人が築古アパートを建築しております。その土地は接道義務を果たしていないのですが、接道義務を果たしている隣地(当方所有外)所有者が、当該借地権付き建物を買いたいと借地人に申し出てきて、借地人が、底地人である当方に承諾の相談をしてきました。接道義務を果たしている隣地に借地権を買われてしまうと一生借地が戻ってこないので、拒否しようと思っています。恐らく、借地人は底地人の承諾に代わる裁判所の許可を取得しようとすると思うのですが、そうしたら介入権を使って、借地権を買い取ることにしようと思っております。この場合、介入権による借地権の売買価格はどのように決められるのか、また、介入権を行使するために、事前にやっておいた方が良いこと、介入権が成立するための必要要件などあるのかなどご教授いただければ幸いです。
何とぞよろしくお願い申し上げます。

相談者No.

64

加えまして、隣地所有者に底地ごと買ってもらう選択肢もあるとは思っておりますが、底地を購入してもらう協議をすること自体が、それが決裂して、戻り戻って、当方が介入権を行使する際の「支障」になることがあり得るかもご教授いただければと存じます。何卒よろしくお願い申し上げます。

相談者No.

64

こちらのご質問をさせていただきました。いかがでございましょうか。この様な時期ではございますが、ご確認いただければ幸いです。よろしくお願い申し上げます。
溝口 矢

溝口 矢 弁護士(東京弁護士会)

弁護士の溝口矢と申します。
最初にご相談いただいたお日にちから、長時間お待たせしてしまい大変申し訳ございません。
以下、回答を差し上げます。

<前提>
ご相談頂いた借地権の譲渡に関する許可の裁判は、借地非訟事件にあたります。
訴訟事件が、判決によって対立当事者間の権利関係を確定し民事法規を具体的に実現して私的紛争を解決するのが目的であるのに対して、非訟事件は、民事上の生活関係を助成し監督するために国家が直接に後見的作用を営むのが主目的であり、その裁判(決定)は、権利関係の確定を目的とせず、裁量的処分を主眼とするものです。
このように、裁判所の裁量が広く、良くも悪くも柔軟な判断がなされる性質のものであるという点には、十分ご注意ください。

<介入権の売買価格はどのように決められるのか>
介入権について規定している借地借家法19条3項についての裁判をするにあたって、裁判所は、鑑定委員会(借地借家法44条参照)の意見を聴かなければなりません。この鑑定委員会は、不動産鑑定士や弁護士をはじめとする有識者らによって構成されています。
鑑定委員会の有識者らは、不動産鑑定評価基準に基づく建物譲渡価格と借地権の対価を踏まえ「相当の対価」(借地借家法19条3項)、すなわち、介入権の売買価格につき意見を述べることが多いようです(なお、借地人側は、譲渡予定価格に基づくべきであると主張してくる可能性がありますが、介入権の売買価格は、客観的な価格によって算定されることとなりますので、このような主張が認められる可能性は高くはありません。)。
もっとも、裁判所は、鑑定委員会の意見を聴く必要はあっても、その意見に従う必要はないとされていますので、上記のように柔軟な判断がなされた結果、不動産鑑定評価基準とは離れた売買価格とされる可能性はあります。

<介入権を行使するために事前にやるべきこと、介入権が成立するための必要条件>
介入権の申立てがなされた場合、裁判所は、原則として、相当の対価を定めて建物の譲渡を命じなければならないとされています(東京高等裁判所昭和52年6月9日判決(判例タイムズ364号256頁)参照)。基本的に介入権の申立てを行えば、認められる傾向にあるということです。例外的に、介入権の申立てが棄却されるのは、買受の意思がないことが明らかである場合や介入権の売買価格を支払う資力がない場合等です。
このようなことを踏まえますと、介入権行使が認められるか否かについては、特別の対策は必要ないといえます。ただし、介入権行使の時期は限られているので、速やかに介入権行使ができるよう手続の準備をしておくことには意義があるでしょう。
また、介入権の売買価格については、上記のように客観的な価格によって算定されるため、借地権設定者の努力で左右できる性質のものではなく、残念ながら対策は難しいといえます。

<譲受人となり得る者との底地購入の協議による介入権行使への支障の有無>
あくまで介入権の問題は、借地権についての問題である以上、土地の所有者である借地権設定者がその所有権につき処分をしようとすることが影響を及ぼす可能性は低いと思われます。
もちろん両者は密接に関連していますので一要素として考慮される可能性があることは否定できませんが、このような行為のみをもって介入権行使が否定されることは考え難いところです。

以上となります。長文となり恐縮ですが、ご確認の程どうぞよろしくお願い致します。
※この投稿は、2020年05月20日時点の回答になります。ご自身の責任で情報をご利用いただきますようお願い致します。

相談者No.

64

溝口先生 大変丁寧な解説とても参考になりました。誠にありがとうございました。
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